Creepy Nutsらしいキャッチーさを貫けた理由 鹿野 淳と語り合う、生活改革による新モード

 Creepy Nutsが2つの配信シングル「Bling-Bang-Bang-Born」(TVアニメ『マッシュル-MASHLE-』第2期オープニングテーマ)、「二度寝」(TBS系ドラマ『不適切にもほどがある!』主題歌)をそれぞれ1月7日、27日にリリースした。どちらも耳馴染みがよくクセになるキャッチーさを持ち合わせながら、これまでのCreepy Nutsとは異なるリリック/サウンドが持ち味の新曲。そこにはR-指定とDJ松永の生活面での変化が大きく影響しているのだとか。昨年唯一のリリース曲「ビリケン」から今に至るまでのCreepy Nutsの新しいモードについて、これまで何度も二人にインタビューを重ねてきた音楽ジャーナリスト・鹿野 淳と共に語り合ってもらった。(編集部)

「“今どんな人間なのか”に戻ってきた第一弾が『ビリケン』だった」(R-指定)

鹿野淳(以下、鹿野):明けましておめでとうございます。今年もすでに過密スケジュールで仕事してる感じですか?

DJ松永:いや、全く。今日が仕事初めです(取材は1月中旬)。

鹿野:うわ。

DJ松永:R(R-指定)と今年初めて会いました。最近はゆっくりさせてもらいながら働いてます。

鹿野:昨年『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)が終わってからは、半月くらいお二人が会わないようなこともあるんですか?

DJ松永:あるよね。

R-指定:全然ありますね。

鹿野:音楽活動にさらに重心を置きたいとのことで、あれだけ絶賛されてた『オールナイトニッポン』が昨年3月27日で終わったわけですけど。振り返っていくと2023年の楽曲リリースは1曲だけだったと思います。ただ、イベントやライブはここ3年間くらいで倍増しているし、R-指定の梅田サイファーの活動とかも含めると、Creepy Nutsの二人の露出量が少なくなった感じでもなくて。とはいえ楽曲リリースに関してはすごく少なかった。でもこうやって1月に2曲も畳みかけてくることを考えていくと、リリースがなかったのは制作期間だったからなんだろうなということも容易に想像できました。そのあたりのことを踏まえて、まずは昨年の春以降、つまりCreepy Nutsとしての“働き方改革”以降、自分たちがどう変わって、今はどうなのかということから教えていただきたいです。

R-指定:去年はラジオが続いていたらどうなってたんやろうなって思うくらい、俺個人としては結構忙しかったですね。というのも、やっぱりラジオは超楽しかったし、俺らにとってかなり吐き出せる場所でもあってすごく大事だったんですけど、そこに付随していろんなメディアの仕事をいただけるようになって、メディアの仕事でパンパンになっている状態だったんです。そのときに、「とはいえ俺らはラッパーとDJやし、そこが一番大事」みたいな話をずっと松永さんともしていて。そのことをライブや楽曲で十分に見せられている自信はあったんですけど、メディア仕事が占める部分があまりに大きすぎて、自分でバランスを取るにしても「もっとラップを」と思ってよりぎゅうぎゅうにしてしまっていたんです。それでちゃんと大事なところに軸を置きたいと思って去年の動き方になったんですけど、いざメディアの仕事がなくなってみると、ラッパーの活動もそもそも多かったということに気づいたんですよね。今まで、時間の隙間というか、立ち止まるタイミングみたいなものを全部捨ててきていて。メディア仕事と、ラッパーとしてのライブや曲作りを詰め込んで、人間的な生活を人生の時間割から全部省いた状態だったんです。それを最近は音楽に振り切ったことで、人間の生活とラッパーの生活で忙しくなっていて。普通の人間としてのパンパンみたいな1年になったのかなと思います。

鹿野:メディアやエンターテインメントって、音楽制作のネタの宝庫でもあったりするわけじゃないですか。つまりそれはラップに直結しているとも言える。そういう形でリリックを紡いでいたことと、人間としての自分を取り戻してラップに還元させていくことは、具体的にどんな違いがあったんですか?

R-指定:自分の中ではもしかしたら明確な違いはないかもしれないです。ラップは人間的な部分を落とし込むので、リアルタイムのドキュメントでやっていたんですけど、『Case』(2021年)を出すタイミングで、今言ったようにいよいよメディアの仕事全部を100でやり続けることが無理になって。歌詞を書いていても、「俺、普段何してるっけ」「どの場所で何を感じてるっけ」って考えてみると、ラジオやってることとかテレビにめっちゃ出まくってたことが、人間としての生活になってしまっていたことに気づくんですよね。それが歌詞に表れていたのが『Case』というアルバムだったと思うんです。日常を書こうと思ったら日常がないから、スタジオからラジオの収録に行ったり、ライブの移動で新幹線に乗って……みたいなのが日常だったという。

鹿野:なるほど。

R-指定:逆に、その次の『アンサンブル・プレイ』(2022年)はもう日常じゃなくて、全部フィクションの曲にしようというアルバムだったんですけど、そうなるのも自然だったんですよね。生活の景色が良くも悪くも変わってなかったので、もう俺の話じゃなくてもいいかなって。そこから今では人間らしい生活をやり始めて、結婚したり子供もできたりして、さらにラッパーとしてもいろんな人と一緒にやったりしたことがドキュメンタリー的に戻ってきた時期にできたのが「ビリケン」(2023年)だった。『Case』と『アンサンブル・プレイ』の時期を経て、今どんな人間なのかということに戻ってきた第一弾が「ビリケン」にかなり詰まってるのかなと思います。

【MV】Creepy Nuts - ビリケン(BIRIKEN)

「音楽に自信がついた上でモラトリアム生活に戻ってる感じ」(DJ松永)

鹿野:見事なご自身の解説ですね。松永さんは昨年の春以降、どういったミュージシャンとしての変化があって、それを自分でどう受け止めていたんですか?

DJ松永:去年なあ……。

R-指定:でも松永さんはめっちゃ人間らしい生活をしてた。俺もそうやったけど。

DJ松永:本当だね。

鹿野:松永くんの人間らしい生活って、どういうものなのか全くイメージできない(笑)。“DJ松永の人間らしい生活”って何ですか?

DJ松永:そもそもDJを始めた時点で、自分の周りから娯楽をなくしたり友達と遊ばなくなったり、自然にそういう発想になっていて。それらを省くことでできた時間を音楽に充てる、みたいなことをセルフマインドコントロール的にやってきたから、みんなが人生を生きる上で当たり前にやるであろうことを結構取りこぼしてきたんですよ。だからもうベタに……ベタとかじゃないかもしれないけど、漫画を読んでみるとか。去年、『鬼滅の刃』と『呪術廻戦』を初めて読みましたもん。「おもしろ!」と思って。みんなもっと読みなよ(笑)。

R-指定:みんなもう知ってるよ(笑)。ライブの楽屋で「R、『鬼滅の刃』知ってる?」とか「『呪術廻戦』みんな読んでる?」とか急に言い出したりするんですよ(笑)。

鹿野:完全に(過去に)タイムリープした人の発言だね。

DJ松永:今まで漫画を読んでこなさすぎて、コマがどこからどこに進むのかわからないし、「この吹き出し、どいつが喋ってるんだよ?」みたいな感じでした(笑)。

鹿野:そういうことも全部含めて心が解放されていって、音楽との向き合い方もフラットになっていったという感じなんですか。

DJ松永:そうですね。今までは限られた時間をどれだけ効果的に使うかだけを考えて、それでご飯が食べられるようになっていったんですけど、それ以降は自分で時間をどう使うかというよりも、とにかく仕事がたくさん入ってくるようになって。能動的じゃない感じで、時間をどう効率的に使うかを必死に考えないといけない状況に変わっていきました。それらから解放された今、時間を無駄遣いすることに全然慣れてなくて、最初はダラダラ過ごしてたら不安になってたんですよ。でもそれを越えていくと時間をダラダラ消費することにも慣れていくので、何もしなくても罪悪感がなくなってくる。そこからは調子いいですね。前からそうだったけど、より自分が本当に興味の湧く方に向かって生活したり、曲を作ったりすることができるようになってきた。音楽で食えるようになる前の、20代前半みたいな時期に近い気がするんですよね。上板橋のワンルームで、二人ともニートみたいな感じで。ずっと夏休みだったじゃん。

R-指定:うん、ほんまに。

DJ松永:明日も明後日も何もない、来週も1カ月後も特に何もない。ダラダラ歩いて、家帰ってYouTube観るみたいな感じ。それでも別に危機感とかなかったんですよ。今はちゃんと自分のやりたい音楽で自信がついて、ちゃんと生活が回っている上でモラトリアム生活に戻ってるみたいな感じなんですよね。

鹿野:成功して食えていっているがゆえにモラトリアムを取り戻せた二人なんだけど、一旦Creepy Nutsというところに戻っていくと、人気が衰えているどころか相変わらずいろんな場所で求められています。今回も2曲ともタイアップでの書き下ろしですし。そういうニーズが常に自分の目の前にあるという状況をどう捉えた上で、今回の楽曲を作っているんですか?

DJ松永:仕事がちゃんと盤石なものになってるって本当に奇跡としか思えないし、普通はやろうと思ってもそうならない。俺とRがビジネスパートナーで、ちゃんと目的があって音楽を作ってそれで結果出していこうみたいなことをやってたら、こうはなってないなと思います。

R-指定:確かに。

DJ松永:たまたまこうなったっていうのが本当に大きいから。でも好きでやっているだけでみんな売れるかと言ったら、ほとんどの人はそうはならないし。

鹿野:松永くんは今そういう感じだと理解しました。その上でR-指定に聞きたいんですけど、奥さんもいてお子さんも生まれました。そしてある意味親分として、梅田サイファーをメジャーに引き上げた。Rが今やってることって、全部甲斐性の塊のような感じだと思うんですよね。

R-指定:僕、甲斐性あります? 親分かあ。

DJ松永:まさか。

鹿野:(笑)。そういう感覚はないの? 親分として「松永、お前もうちょっとしっかりせえや」みたいな感覚で二人のギャップがあるのかなと思ったんですけど。ラッパーに対する悪しきイメージ論を含めて。

R-指定:むしろ、俺はたぶん「もっとしっかりせえや」って思われる側の人間でしかないというか。松永さんは「そんなわけないやろ」と思うかもしれないけど、上板橋のモラトリアム時代も、俺の中では大忙しの時期だったから。

DJ松永:そうなんだ(笑)。

R-指定:今の環境と比べて超暇やったのに、忙しいなと思ってた。俺、どんだけ時間があっても忙しいなあって思うタイプなんですよ。松永さんは最近漫画読んだり映画観たりダラダラできるようになってきたけど、俺はダラダラが一番大好きというか。ダラダラとか怠惰みたいなものを無理やり人間の形にしたら俺になるんですよ。

DJ松永:ダラダラするのが目的だもんね。

R-指定:そう。ダラダラしてしまうのではなく、ダラダラするためにダラダラするんですよ。俺はそういう感じやから、一人やと野垂れ死ぬんですよ、たぶん。俺の周りの人、誰も俺のことを大黒柱とか親分とか思ってないです。なんかゆっくりした生き物みたいな(笑)。だから周りがほんまに支えてくれてる。掴みどころのないぐにゃぐにゃした形の生き物が、例えば松永さんがビートを与えてくれることでだんだん形を取り戻してラッパーになる、みたいな。

DJ松永:『ターミネーター2』のT-1000みたいな(笑)。

R-指定:そう。だから何もないときは液体みたいな状態で、仕事があったりとかライブがあったりとか、ビートが鳴ると急に形を取り戻す。梅田サイファーも、もっとガンガンやろうぜって言ったのは俺じゃないんです。「これだけヤバいヤツが集まってるんだから、ガツンと言わせたれや」って言い出したのはKZなんですよ。

鹿野:フニャッとよくわかりました。

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