音楽評論家・宗像明将による書籍『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』が、12月26日に株式会社blueprintより刊行される。

　バンド・ムーンライダーズを結成して1976年にデビュー、その後もさまざまなミュージシャンとのバンドやユニット活動に参加する傍ら、CM音楽、歌謡曲などの楽曲提供とプロデュースに携わり、日本のポピュラー音楽史に多大な影響を及ぼしてきた鈴木慶一。『MOTHER』などのゲーム音楽や、北野武監督の『座頭市』『アウトレイジ』をはじめとする映画音楽の名手としても知られる一方、俳優としての顔も持ち、映画やドラマへも多数出演。現在に至るまで精力的な活動を続けている。

　本書では、1998年に『20世紀のムーンライダーズ』でライターとしてデビューし、その活動を追ってきた音楽評論家・宗像明将が、鈴木慶一本人に72年間の歩みを聞く集中取材を敢行。2023年の今だからこそ聞くことのできた貴重なエピソードの数々が収められている。

　リアルサウンドでは本書の刊行を記念し、内容から一部抜粋してお届けする「ちょい読み」企画を実施。第2弾となる今回は、【第3章 1984年ー1990年】から「はちみつぱいとの「決着」」より一部を先行公開する。

＜第3章 1984年ー1990年 内「はちみつぱいとの「決着」」より一部抜粋＞

　1988年には、鈴木慶一はある「決着」をつける。1974年に解散したはずのはちみつぱいが復活したのだ。1988年5月25日にライヴ音源集『はちみつぱい SECOND ALBUM (in Concert)』が発売され、1988年6月9日に「はちみつぱい 15 YEARS AFTER」が汐留PITにて開催された。

「74年に解散して、15年弱経っているわけだよね。最初は『PITを押さえているんだけど、何か面白い企画はないですか？』と聞かれたんだ。思いついたのは、『はちみつぱいはちゃんと解散していないな』ということだった。最後のライヴは、いろいろな人が出るライヴで、なぎら（健壱）さんも出ていたし、友川カズキさんも出ていた。ムーンライダーズの10周年が終わって数年して、もうひとつ決着をつけなきゃいけないなということが心の中にあったんだろう。それで再び集めてやろうということになって、頭脳警察と一緒にやりたいなと思った。それこそ、頭脳警察とはちみつぱいと言えば、慶應三田祭事件もあったけど、この機会に頭脳警察とはちみつぱいが出たら面白いライヴになるんじゃないかなと思った」

　しかし、頭脳警察の出演は断念することになり、代わりに3人のゲストが浮上する。

「そのときPANTAは入院していた。PANTAはその頃は完全にソロだったので、頼んだら、『うーん、ちょっと待って、TOSHIもいるし、2人で決めなきゃいけないからちょっと無理かもしれない、今こんな体調だし』と。それで諦めた。じゃあゲストを呼ぼうとなって、あがた（森魚）くん、斉藤哲夫さんだなと。この2人のバッキングから生まれたバンドだし。もう1人、高田渡さんのバッキングもしてみたいと思った。高田渡さんは、バッキングのメンバーを集めて、武蔵野タンポポ団をやっていたけど、カチっと『バックをやるぞ』というようなバッキングをやってみたかった」

　ところが、はちみつぱいの再結成は、リハーサルで実際に音を出してみるまで、実際に開催するかどうかわからないというものだった。

「リハーサルの初日にやれるかやれないか決めるので、キャンセルするかもしれないと言ってあった。メンバーとほとんど会ってないし、他の人たちがどういう音楽を続けているかわからなかったわけで。まずセッションをしてみて、仲良くできたら、もしくは、いいサウンドがリハーサルでできあがったらやろうということになった。だから、初日がうまくいかなかったら、その後のリハーサルもPITも全部キャンセル。そうしたら、初日のリハーサルがうまくいったんだよね。かつてと全然違って、すごく進化があるじゃん、これはいけるよねと思った。リハが終わった後に、飲みにも行って。渡辺勝も戻ってきて、16年も一緒にやっていなかったけど、面白くやれたんだね。ライヴのアンサンブルを重視して、モニターも当時とは破格の差だし、山本浩美も登場させて、『煙草路地』のアレンジを変えて頭にやってとか、リハーサルをしている間にいろいろ思いついた」

　はちみつぱいの再結成は大盛況のなか行われ、それをもって改めて解散。1974年の解散ライヴで「さよなら、ロックンロール少年、ロックンロール少女」と言った鈴木慶一は、1988年には「さよなら、ロックンロールおじさん、ロックンロールおばさん」と言ってステージを去った。

「心配だったのが、客が入るかどうか。何千人も集まったので、ホッとしたね。これでやっとちゃんと解散できたなと思った。ひとつの決着だよ。私の勝手な言い分だけど、はちみつぱいをちゃんと解散させたかったということだよ。後からはちみつぱいを知って見たかった人も来たんだろうね、その10年後だったらもっと来たかもね（笑）。サニーデイ・サービスが出てきて、YouTubeが出てきて、過去の音源を買う人たちがいっぱい出てきた。ちょっと早い再結成だったかもしれない」

続きは書籍にて

※ムーンライダーズ『80年代のムーンライダーズvol.1』12月27日（水）東京・EX THEATER ROPPOONGI公演会場内での販売あり。

■書籍情報
タイトル：『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』
amazon予約：https://www.amazon.co.jp/dp/4909852476
blueprint book store予約：https://blueprintbookstore.com/items/6570603f72c3a4015daca272

著者：宗像明将
発売日：2023年12月26日　※発売日は地域によって異なる場合がございます。
価格：3,300円（税込価格／本体3,000円）
出版社：株式会社blueprint
判型／頁数：四六判ソフトカバー／336頁
ISBN：978-4-909852-47-2

＜目次＞
1章：1951年ー1974年
■東京都大田区東糀谷、大家族暮らし
■母親が見抜いた音楽の才能
■「日本語のロック」への目覚め
■あがた森魚、はっぴいえんどとの出会いが変える運命
■バックバンドから独立したバンド、はちみつぱいへ
■混乱したライヴ現場での頭脳警察との遭遇
■風都市の終焉と、はちみつぱい解散

2章：1975年ー1983年
■ムーンライダーズの「最初の日」
■『火の玉ボーイ』鈴木慶一の曖昧なソロの船出
■椎名和夫の脱退、白井良明の加入
■ムーンライダーズとYMO
■鈴木慶一とCM音楽
■『カメラ＝万年筆』で幕を閉じる日本クラウン期
■高橋幸宏とのTHE BEATNIKS、ロンドンで受けた刺激
■『マニア・マニエラ』屈指の傑作にして発売中止
■『青空百景』のポップ路線と、広がる若手との接点

3章：1984年ー1990年
■『アマチュア・アカデミー』以降の数百時間に及ぶREC
■ムーンライダーズ10周年〜『DON'T TRUST OVER THIRTY』
■ムーンライダーズ約5年にわたる沈黙へ　消耗する神経
■メトロトロン・レコード設立〜KERAとの初コラボレーション
■鈴木慶一、はちみつぱいとの「決着」
■鈴木慶一と『MOTHER』
■鈴木慶一と映画音楽

4章：1991年ー1999年
■ムーンライダーズを復活へと導いた岡田徹のバンド愛
■40代にして初の公式ソロアルバム『SUZUKI白書』
■鈴木慶一と90年代前半の雑誌／テレビ
■『A.O.R.』と大瀧詠一が残した言葉
■ムーンライダーズ・オフィスを巡る借金問題
■兄弟ユニットTHE SUZUKI〜『MOTHER2 ギーグの逆襲』
■移籍を繰り返してもつきまとう『マニア・マニエラ』の亡霊
■鈴木慶一と岩井俊二、Piggy 6 Oh! Oh!
■ムーンライダーズ20周年　ファンハウス時代の音楽性の多様さ
■鈴木慶一と演劇
■先行リミックス、無料配信……作品発表スタイルの模索

5章：2000年ー2008年
■宅録の進化がムーンライダーズに与えた影響
■『Dire Morons TRIBUNE』以降のバンド内での役割
■鈴木慶一と北野武、映画音楽仕事の充実
■新事務所、moonriders divisionの誕生
■夏秋文尚の合流〜『MOON OVER the ROSEBUD』
■鈴木慶一とcero、曽我部恵一

6章：2009年ー2021年
■高まり続ける映像やサウンドへのこだわり
■ムーンライダーズと「東京」
■鈴木慶一と『アウトレイジ』
■激動の2011年、ムーンライダーズの無期限活動休止
■Controversial Spark、No Lie-Sense始動
■かしぶち哲郎との別れ
■『龍三と七人の子分たち』〜ムジカ・ピッコリーノ
■鈴木慶一45周年　はちみつぱい・ムーンライダーズ再集結
■中国映画、アニメ映画音楽への挑戦
■コロナ禍に迎えた鈴木慶一音楽活動50周年

7章：2022年ー2023年
■新体制での『It's the moooonriders』
■鈴木慶一とPANTA
■鈴木慶一と高橋幸宏
■岡田徹との別れ
■バンドキャリア半世紀近くに取り組んだインプロ作品
■鈴木慶一と大滝詠一
■一つずつ叶えていく「死ぬまでにやりたいことシリーズ」

8章：鈴木慶一について知っている七の事柄

鈴木慶一年表（1951年ー2023年）

参考文献

あとがき