King Gnu、アルバムとしての統一性は成功したのか ポテンシャルと目指す場所のギャップ
結局のところ、King Gnuの最大の魅力は、キャラクターの違うツインボーカルを活かした演劇にも似たソングライティングにある。「):阿修羅:(」も2分半ほどの小曲ながら(いや、だからこそ)、その魅力が詰まっている。
ただし、King Gnuの歌メロには、リスナーが一緒に口ずさみたくなるような類のキャッチーさがあるわけではない。歌声に導かれてメロディをたどることでその見事さが感じられる、そういう種類の魅力がある。舞台や映画でも観ているかように楽曲で描かれるシーンに没入してしまうのがKing Gnuの強みだ。
対して、アレンジやサウンド面でのプロダクションはうまくいっているときもあれば、そうでもないときもある。こんなに繊細なメロディを書いていたらそれもそうだと思ってしまう。バンド全体が鳴らす音としては(ロックであれエレクトロニックなサウンドであれ)ケレン味のあふれる大胆さを志向しているから、King Gnuの作品はいつもそこに緊張状態が生じている。
たしかに『THE GREATEST UNKNOWN』は意欲作であり、アルバムとして高い完成度を誇っているが、King Gnuのポテンシャルと目指す場所とのギャップが刻み込まれた作品でもある。ただし、それがまったくの欠点であるかというと、そうとも限らない。むしろ、そのギャップの上で繰り広げられている綱渡りのスリルこそ、King Gnuの楽曲から耳を離せない大きな要因なのかもしれない。『THE GREATEST UNKNOWN』が人の心を捉えているとすれば、それは隅々までピースが噛み合った完璧さゆえではなく、脆さや繊細さをふくんだ緊張感ゆえのことではないか。
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