ulma sound junction、“天邪鬼”な姿勢がもたらした新境地 アルバム『INVISIBRUISE』を語る

 2022年4月13日にメジャー1st EP『Reignition』をリリースして、新たなキャリアに再着火(=Reignition)してから1年7カ月。ulma sound junctionがついにメジャー1stフルアルバム『INVISIBRUISE』をリリースした。

 沖縄県石垣島出身の4人が2005年、東京でulma sound junctionとして活動をスタートさせてから18年。ラウドロックシーンに軸足を置きながら、変拍子を交えたドラマチックかつエキセントリックな楽曲展開を持つプログレッシブなサウンドと、世界が認めたテクニカルなプレイで存在感をアピールしてきた彼らは同時に意欲的に新たな音楽要素も取り入れ、自らの音楽性を磨き上げてきた。そんな挑戦が変わらないどころか、より貪欲なものになってきたことは、TVアニメ『ラグナクリムゾン』のオープニングテーマとして書き下ろした「ROAR」をはじめ、これまで以上に振り幅をアピールする『INVISIBRUISE』の全10曲を聴けば、誰もが認めるところだろう。

 そして、メンバー自身が“天邪鬼”という言葉で表現する持ち前の向こう意気もこのタイミングで改めてぐっと頭を擡げてきたようなところが興味深い。音楽的なチャレンジも含め、アルバムの制作を通してulma sound junctionが迎えた新たな境地を、このインタビューからぜひ読み取っていただきたい。(山口智男)

コロナ禍での苦悩を経て初のタイアップがもたらした実感「やっと報われた」

――2022年4月にメジャー1st EP『Reignition』をリリースしてから1年7カ月。ついにメジャー1stフルアルバム『INVISIBRUISE』をリリースするわけですが、2曲のインストゥルメンタルも含む今回の全10曲は、『Reignition』リリース後に作った曲なのでしょうか?

田村ヒサオ(Ba/Vo)(以下、田村):10曲目の「Protopterus」は『Reignition』をリリースする時にはもうあったっけ?

加勢本タモツ(Dr)(以下、加勢本):そうだね。骨組みだけなんですけど、その頃にはありましたね。

田村:あと「Patient of Echo」は、2008年に自主リリースした2ndミニアルバム『patientaholic』に収録していた曲のリテイクです。それ以外は完全に新曲ですね。

――つまりその2曲以外は『Reignition』のリリース以降に作ってきた曲だ、と。なるほど。今回のアルバム、とても聴き応えのある作品で、ご自身でもかなり手応えを感じているんじゃないかと思うからこそ、あえてお聞きするんですが、コロナ禍の終息を含め『Reignition』をリリースしてから1年7カ月、曲作りを進めながらライブ活動を続ける一方で、なかなか作品をリリースできないことに焦りを感じることが、もしかしたら多少なりともあったんじゃないかと思いまして、いかがですか? さまざまなタイミングを見計らっていたとは思うのですが。

加勢本:そうですね(笑)。

――どんなふうに曲作りのモチベーションを持ち続けながら、今回の作品に繋げていったのかを伺えないかと思いまして。

田村:たしかに、『Reignition』も新曲は「Modern Bleed」1曲だけで、他の4曲は過去曲のリテイクでしたからね。実際、コロナ禍もまだ終息していなかったから、僕らも「今、精力的にライブしていいんだっけ?」という気持ちもありましたし、フルアルバムを作ったところで、コロナ禍のことを考えるといつリリースできるかわからない。なんだか二重に動きづらい雰囲気は常にあったんですけど……(他の3人に向かって)意外に割り切ってたよね? もちろん、僕らはライブバンドなので、ライブをしないと体が鈍るような感覚はあるんですよ。そういう感覚がありながらですけど、新曲を作りながら新しいことに挑戦できるっていう喜びはあって。

 あとはタイアップも大きかったですね。TVアニメ『ラグナクリムゾン』(TOKYO MXほか)のオープニングテーマになっている「ROAR」のお仕事をいただいたことが弾みになって、『INVISIBRUISE』に辿りつけたところはあります。このタイアップがなかったとしたら、もしかしたら「今まで何してたんだろ?」ってなっていたかもしれないですね。

加勢本:バンドの動き方としては、そう見えてたかもしれないですね。「メジャーデビューしたけど、それっきり作品を出さないじゃん」って。

田村:『Reignition』のリリース後、精力的にツアーができていたわけでもないですからね。正直、新曲が1曲だけなのにツアーをするべきか?と思う部分もあったんですよ。もちろん、我々を昔から応援してくれてるお客さんからしたら「どうしたの!?」と思われるようなところはあったかもしれないけど、そのタイミングで来たタイアップだったんです。「ROAR」を配信リリースした時、「ああ、ちゃんと忙しかったんだね」ってやっと知ってもらえたんじゃないかと思うので、僕らとしてもやっと報われた……と言ったらちょっと大袈裟かもしれないけど(笑)。でも、そういう気持ちはあります。おっしゃるとおり、たしかにモチベーションをキープし続けるのは難しいことだと思うんですけど、今回はタイアップが大きかったと思います。

山里ヨシタカ(Gt)(以下、山里):動かざるを得なかったからね。

――その「ROAR」は、ulma sound junctionとして初めてのタイアップだったわけですが、どんなふうに作っていったのでしょうか?

田村:まずどういう方向性の曲を提案するかをメンバーみんなで決めて、そこから「ROAR」の骨組みになる曲をアニメの制作サイドに投げたんですけど、そこからが長かったんですよ。アニメサイドの意向も汲み取りながら、アニメ尺の89秒にハメるための作業が大変でした。「ROAR」は僕がメインコンポーザーなんですけど、時間がなくて、89秒の尺の構成だけはアニメ制作のプロデューサーと僕で進めさせてもらったんです。

加勢本:時間がなかったのもあって、田村に信頼して任せてました。

田村:もちろん、フル尺はメンバー全員で考えたんですけど。

加勢本:最初からメンバー全員で考えちゃうと、「このフレーズを入れたい」とか「このリフを入れたい」とか、他の曲のように尺が長くなっちゃうから。

田村:制作にかかる時間もね(笑)。

加勢本:だから、結果的にはそういう作り方をしてよかったのかなと思います。

――何を取っ掛かりに田村さんは「ROAR」を作っていったんですか?

田村:山里からの提案だったんですけど、ボーカル始まりはマストだと考えてました。

――ああ、最近はイントロが長いとスキップされがちと言いますからね。サビの歌から始まることがひとつのセオリーになっているところはありますよね。

山里:(アニメのオープニングで)かっこいい歌がいきなり聴こえてきたら聴かざるを得ないじゃないですか。だから、まずはバンドのメインの歌声を聴いてほしいと思ったんです。僕は原作を読んでいたので、オープニングは主人公の後ろ姿から始まるんだろうって勝手に想像していたんです。そしたら、実際のオープニングも階段を上っていって、主人公の背中にフォーカスする映像で。「ですよね、監督!」って心のなかで思いました(笑)。

【ノンクレジットOP】TVアニメ「ラグナクリムゾン」 | ulma sound junction 「ROAR」

――アニメサイドからはどんなリクエストがありましたか?

田村:テンポはBPMを1単位で何回か調整しましたね。最初194くらいから始めたんですけど、本当に1ずつ上げていって、最終的に197にしたんですよ。あとは、「ここ2小節縮められませんか?」とか「4小節短くしたらどうなりますか?」とか、そういう細かいやりとりもあって。最終的に僕のPCには、「ROAR」だけで相当なパターンが残ってます。そこからアレンジ含め、メンバー全員で取り組んでいきました。

――枠組みを決めて、そのなかにメンバーそれぞれのやりたいことを詰め込んでいった?

加勢本:当初、最初に入れたいと思っていた僕らっぽいフレーズが、アニメ尺には秒数の関係で入れられなくなっちゃって。

田村:いわゆる間奏のようなパートなんですけど。でも、最終的には僕らの我を通そうとしたセクションは残して作れたので満足しています。それで、先にアニメ尺の89秒をまず作って、レコーディングしたあとにフル尺を作っていったんです。

――そういう作り方だったんですね。

田村:プロセスとしては楽だったんですよ。89秒のアニメ尺をどう膨らませていったらいいのか、割り切って考えられたので。

加勢本:だから、フル尺はでき上がるのが早かったよね。最初がガチッと決まっていたし。

――そういう作り方はタイアップ云々関係なく、今後バンドの曲作りに活かせるかもしれない、と。田村さんはアモン ハヤシさんと共同で作詞もしています。

田村:それも初めての経験でした。すごく面白かったです。アモンさんは、僕が求めている音の響きを汲み取ったうえで単語を選んでくれたんですよ。なかには「この日本語を使うのか!」っていう、ちょっとむず痒いところもありました。アニメに寄せているというか。でも、外からのそういうアイデアを拒否したら、共作する意味がないですからね。曲が完成して、この歌詞でよかったと思えました。

――アニメの主題歌ではあるけれど、ulmaらしさを詰め込んだulmaらしい曲になっていると思いますよ。

福里シュン(Gt)(以下、福里):よかったです。

加勢本:でも、最初聴いた時はチャラいと思いましたけどね(笑)。デモの段階では(笑)。

田村:タイアップに寄せてるから?

加勢本:いや、タイアップ関係なしに、たぶん初めてやるタイプの楽曲だったからだと思う。

田村:ああ、たしかに初めてやるアプローチではあったよね。

――でも、そういうところから曲の幅は広がっていくんじゃないですか?

田村:そうだと思います。結果として、今後には絶対繋がっていくはずなので。

加勢本:そうだと思います。アニメのオープニングを観たら「かっけー!」と思いましたので(笑)。めっちゃ合ってる。

――よかったです(笑)。そんな「ROAR」の制作があったからこそ、今回のアルバムの曲作りにも弾みがついたとおっしゃっていましたが、アルバムとしてはどんな作品にしたいと考えていたんですか?

田村:あまり考えずに、とりあえずできた曲を形にしていこうって曲作りを進めていったら、結果的にベクトルが各曲で違うアルバムになりました。それはそれでよかったなと思います。一曲一曲のベクトルはさまざまですけど、アルバム通して聴くとちゃんとストーリーを感じられるものになっている。それが我々の強みというか、一曲ごとにストーリーがちゃんとある曲を作ることが多いので、それを並べたら自然とそういうアルバムになるよねっていう。いい意味の開き直りもありました。

――では、一曲作ったら次はまた違う曲を作っていこう、みたいな。その繰り返しだったんですね。

加勢本:それに近いかな。

山里:後半はもう同時進行だったんじゃない?

田村:レコーディングは、一年という枠組みのなかで前半と後半に分けたんですよ。

福里:3曲同時進行みたいなこともありましたね。

田村:「Lequeios」と「Obsidian Sugar」と――。

加勢本:あと、リード曲の「Appetite」。「ROAR」を作っている段階で、「俺らの考えるリード曲って何だろう?」って。

田村:そうだ、そうだった。

加勢本:それで「Appetite」ができ上がった。“でき上がった”というか、リード曲として完成させたんです。

田村:「ROAR」は配信シングルとしてリリースしていたし、タイアップ曲だから、もちろんリードになってもいいんですけど、アルバムとしては「ROAR」だけに頼りたくなかったんです。

加勢本:うん。その気持ちは、めちゃめちゃありました。このアルバムを聴いて、もちろんリスナーそれぞれに自分が思うリード曲を決めてもらっていいんですけど、バンドとしてはこの曲がアルバムのリードってイメージを持つことが大事じゃないですか。それが「Appetite」だっていう。最後の最後だったよね、この曲は俺らが考えるリードだから、1曲目に持ってこよう、って。これ、いちばん言いたかったことです(笑)。

――(笑)。でも、こんなにタイアップ曲に頼りたくないって主張するバンドも珍しいですよ。

田村:そういうところは僕ら、やっぱり天邪鬼なんだと思います。

加勢本:でも、大事なことですよね。

――やはりロックバンドにはそうあってほしいです。「ROAR」を作ったあとに「Appetite」「Lequeios」「Obsidian Sugar」の3曲を作ったとおっしゃっていましたが。

田村:その3曲は他の曲よりもローチューニングになっているんですよ。その点でも差別化を図ろうとした3曲になっています。メリハリをつけたというか、リスナーが聴き飽きないようにした――さらに言えば、僕らが飽きないためにもそうしたんです。

加勢本:特に竿(ギター/ベース)はね。

田村:響きって大事で。新しいものを生むには、新しい響きがないといけないと単純に思っただけでもあるんですけど。

加勢本:竿のチューニングを下げたことで、全体の聴こえ方が変わるからね。

田村:変えて正解だったと思います。

――ドラムのチューニングは?

加勢本:変えてないです。この流れだと変えろよって話なんですけど(笑)。でも、機材を変えた曲はあります。

田村:「Obsidian Sugar」はヘヴィネスを表現したいと思って、フロアタムをひとつ増やして、2個使って。

加勢本:ドーン!って感じで叩きました、地響きみたいに。

――フロアタムを効果的に使ったことでビートがトライバルになって。

加勢本:まさにセパルトゥラみたいな(笑)。

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