Coldplay、想像を絶するほどの光と色彩のスペクタクル サスティナブルなワールドツアー日本公演レポ

 この日、最も大きなハイライトとなったのは、このサブステージの上から観客に「持ってきたボードを見せて!」と伝えたクリスが、それぞれのメッセージを読み上げながら感謝の想いを示していく中で、あるボードを掲げた親子をステージに上げた場面だろう。「天国にいる夫のために、『Everglow』を演奏してくれませんか?(CAN YOU PLAY “EVERGLOW” FOR MY HUSBAND IN HEAVEN?)」と書かれたメッセージを読み上げたクリスは、「この宇宙のどこかにいる、その人のために演奏するね」と語り、二人の横でピアノによる「Everglow」の弾き語りを披露したのである。そのあまりにも美しいパフォーマンスに、スタジアム全体が感動に包まれていく。それは、あくまで人間一人ひとりの持つエネルギーを信じ、引き出すことによってスタジアムを熱狂させることができるという、今のColdplayというバンドの本質が詰まった瞬間だったように感じられた。

 また、演出を起点に語られることの多い印象のあるColdplayのライブだが、そもそも、このバンドは音を鳴らすだけでスタジアムを満足させることができるほどの力を持っている。サブステージのセクションの最後を飾った初期の代表曲「Yellow」におけるどこまでも広がっていくかのような雄大なギターロックサウンドや、再びメインステージへと戻って披露された最新作の「People Of The Pride」における観客の度肝を抜くほどのドラマティックで壮大なグルーヴ、反復と増幅から生み出される「Clocks」の宇宙的なサウンドスケープは、今でも彼らが最強のスタジアムロックバンドであることを確かに証明していた。

 聴覚的な面での真価が発揮されたのが中盤のセクションであるとすれば、視覚的な面でのハイライトとなったのが再びサブステージへと戻り、最新作のコンセプトに沿った宇宙人の姿を纏って披露された「Something Just Like This」だったのではないだろうか。共作したThe Chainsmokersが属するようなダンスミュージックカルチャーを彷彿とさせる極彩色のレーザーが飛び交う中で、クリスはボーカルを音源に任せ、手話(ASL)によって歌詞を披露したのである。今回のワールドツアーではアクセシビリティの取り組み(詳細は特設Webサイトを参照/※2)も実施されており、他の会場では聴覚に困難を抱える人々のためにSubPac(振動によって音楽を伝えるデバイス)が配布されるといった施策が行われているが、このパフォーマンスは、まさにバンド側によるアクセシブルなパフォーマンスの一つの在り方であるように感じられた。

 また、このセクションはバンドメンバーによるエレクトロニックセッションと共に披露された「Midnight」や、BTSと韓国のファンへの感謝の想いと共に披露された「My Universe」など、全体を通して最もアップリフティングなパートとなっていたのだが、その最大のピークとなったのが「A Sky Full Of Stars」だ。2010年代の代表曲ということもあって、イントロが流れた時点で大いに盛り上がっていたのだが、最初のドロップを迎える直前というタイミングで、クリスは一度演奏を止めてしまう。ここで彼が日本語を交えながら観客に伝えたのは、スマートフォンをしまって、みんなで両手を上げて一つになろうというメッセージだった。そうして再び同楽曲がプレイされると、ドロップの直前、スタジアムに完全な暗闇が訪れ、まるでジェットコースターが発車する前のような期待と興奮が観客を包み込む。そうして迎えたドロップでは、満を持して観客のLEDリストバンドが一斉に輝きを放ち、ありったけの光と色彩とともに、この日最大級の熱狂を生み出したのである。もはや(海外ミュージシャンのライブにおいて)スマートフォンによる撮影は当たり前のようなものになっているが、Coldplayはそれを逆手に取ることによって「暗闇」自体を演出へと変えてしまったのだ。

 ライブもいよいよ終盤へと差し掛かり、バンドはサブステージからさらに後方の、スタンド席の手前に設置されたエリアへと移動する。ここではアコースティックセッションで、代表曲である「Sparks」と、再びBTSと韓国のファンに向けて送られた感謝の言葉、そして兵役を迎えたメンバーへのエールとともに披露されたまさかのBTS・JINのソロ楽曲「The Astronaut」のカバー(今回のワールドツアーでは韓国公演が開催されないため、韓国のファンもこの場に多く集まっていることを意識していたのではないだろうか)がスタジアムに心地良い空間を作り出す。ここでは派手な演出はほとんどなく、あくまで4人が鳴らす音と、それを囲む観客が生み出すムードに重きが置かれていたのだが、これまで書いてきた内容から分かる通り、もはやそれだけで十分なほどのエネルギーで会場は満ち溢れていた。

 とはいえ、2023年現在の地球で生きる上で、決して楽観的なだけでいることができないのも現実だ。このアコースティックセッションの中で、クリスは今も世界各地で起きている紛争や暴力、虐殺について、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとパレスチナの現状についても触れた上で語り、改めて平和への想いを強く訴え、この場に集まった観客に対して、指でハートマークを作り、祈りの時間として10秒間の無言を捧げるように促した。

 アコースティックセッションを終え、再びメインステージへと戻ったColdplayは「Fix You」と「Biutyful」を披露し、まさにクライマックスと言わんばかりの大量の紙吹雪とともにライブの幕を閉じた。徹底的に目の前にいる相手を肯定する想いを描いたこの2曲は、まさに個のエネルギーを観客の熱狂へと繋いでいくという今も昔も変わることのないバンドの姿を示したものであり、この場に集まった一人ひとりへの感謝の想いでもあり、世界に対する祈りでもあるのだろう。

 思えば、ここまで書いてきたような「想像を絶するほどの光と色彩のスペクタクル」は、あくまで冒頭や代表曲のような「ここぞ」という場面で発揮されてはいたものの、全体を通して振り返ってみると、多くの演出は観客が着用しているLEDリストバンド(植物由来の素材で作られ、環境に配慮したエネルギーによって充電され、終演後には回収して再利用される)に重きを置いたものとなっており、サブステージやアコースティックセッションでのパフォーマンスが示すように、派手な演出に頼ることのない場面も数多くあった。

 今回のライブにおける本当の意味での演出の核となっていたのは、楽曲と演奏によって引き出される、観客一人ひとりの中にあるエネルギーに他ならない。「Viva La Vida」の強烈な一体感も、「Everglow」の感動的な瞬間も、「A Sky Full Of Stars」の興奮も、最後の祈りも、すべては観客がColdplayを愛しているからこそ実現したものであり、それをバンド側も信じたからこそ、今回のライブが大団円で幕を閉じたのだ。

 このように書くとあまりにも綺麗事のように聞こえてしまうかもしれないが、今回の「サスティナブルなワールドツアー」が実現し、成功した最大の理由は、Coldplayというバンドが、誰よりも観客である私たちを信じたことにあるのではないだろうか。それは同時に、真のサステナビリティは、ただバンド側が努力するだけではなく、そこに集まる一人ひとりの力によって実現するというメッセージを体現していたようにも思うのである。

※1:https://sustainability.coldplay.com/
※2: https://www.coldplay.com/inclusivity-on-the-tour/

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