にしな、ツアーを経て手にした変化 新たなモードで放つ「シュガースポット」と現在地を語る
「燃え尽きたい」と思いながらやっています。塵となりたい、みたいな(笑)
――でも、気持ちは変わらないとしてもその出力というか、届けるパワーは増してきているんじゃないですか? ライブを重ねるなかで、初めて来るお客さんとの出会いもいっぱいあるだろうし、そういうのを肌身で感じている部分もあるのかなと。
にしな:たしかに、フェスとかでは、そこでどう自分を伝えられるか、その一回のチャンスでちゃんと自分を表現できるかみたいなことは重要なところだなって思いながら過ごしてきていたので、それが曲のなかでも「この一回のタイミングで自分のことを知ってほしいし、この曲を好いてほしい」というような気持ちは、より表れるようになってきているのかもしれないです。
――あと、お客さんを1999年生まれまでの世代限定した弾き語りツアーもやったじゃないですか。ああいう経験も、「にしなの音楽がどこに届いているのか」を実感するうえでは活きているのかもしれない。
にしな:あのツアーはすごく楽しかったですね。弾き語りだからより近くでできるし。昔から自分はなるべく自分を見せてきたつもりではあるんですけど、さらに等身大になれるというか、そういうきっかけをくれたと思いますし、それを経て「クランベリージャムをかけて」に行けたから、さらにさらけ出せた気がしています。
――そういうことが全部必然的に繋がって、この「シュガースポット」に結びついているという感じが僕はしたんですよ。たとえば、この曲にも〈お前〉という存在が出てくるじゃないですか。そういう他者の存在がにしなの曲にはいつも出てくるんですけど、その関係性や距離感も如実に違っている。〈お前の好きなもので/こっちまで嬉しくなる〉〈お前の不意な行動で/張り詰めた気が抜けていく〉っていう相互作用みたいなものが、すごくはっきりと表現されていて。アニメのことを踏まえるとこれは飼っている犬のことなのかな、と思ったりもしたんですが、まさにそうやって一緒に生活している感じというか。
にしな:そうですね。ペットじゃなくてもなんでもいいんですけど、この〈お前〉は相棒みたいなイメージではありました。それは死んでいてもいいんです。幽霊とかでもいいんですけど、そういう距離感のものを書きたかったんだと思います。
――そういう存在がにしなさんにとって何なのかはわからないですけど、もしかしたら音楽もそうなのかもしれないし、ライブっていうものもそうなのかもしれないし、お客さんもそうなのかもしれない。そこで生まれている関係性が、この歌詞を書かせたんだろうなという気がします。だから、ライブもよりリラックスしてやれるようになっているんだろうし。
にしな:ああ。それこそ、この前自分で自分のライブ映像を振り返って観てみたんですよ。初ワンマンライブの『hatsu』の時とか緊張していたのかもなって思って。もちろん今も緊張しますけど、あの時はシンガーソングライターというと真ん中にドンって立っているイメージがあって、どちらかと言うと、そうあろうとしているのかなって見えて。でも、今はもっと自由にやっていいってすごく思う。「こうであるべき」っていうものがなくなっていってるのかなって思います。私はステージのなかでまっすぐ立っているタイプじゃきっとないな、みたいな。自由にやるのが自分らしいんだなって思っていますね。
――たしかに、ステージを観ているとどんどん自由になってるのは間違いないと思います。おっしゃったようにシンガーソングライターたる者、ギターを背負ってステージの真ん中に立って歌うべし――みたいなセオリーからどんどん、しかも自分から外れていくっていうことを楽しんでいる感じですよね。それがすごくにしなさんらしいなと思います。どちらかと言えば破滅型じゃないけど――。
にしな:わかります。これもネガティブじゃないですけど、「燃え尽きたい」と思いながらやっています。燃え尽きたい願望はありますね。塵となりたい、みたいな(笑)。
――その燃え尽きて塵となりたい願望みたいなものは今までの曲にも出ていたんだけど、それはある種すごく悲劇的な出方をしていたと思うんですよ。でも、「シュガースポット」は悲劇というよりも、もっとエンタメとして楽しんでいる感じというか、これこそが私らしい楽しみ方なんだ、ってポジティブに捉え直している感じがする。もしかしたら、こっちのほうが本来のにしなには近いのかもしれない。
にしな:そういう可能性もありますよね。でも、わかんないです。自分のことが自分でわからない(笑)。たとえば、ラジオとかで初めての方にお会いすると「思ったより明るい」って言われたりするんです。
――(笑)。本当はそういうネガをポジに変えていくようなことが好きだし、それを「明るさ」と呼んでいいのかはわからないけど、ネガをネガとも思わないような考え方を持っている人である。だからこそ、燃え尽きてもいいって思えるような愛にも自分を投じていけるっていうことなんだと思うんです。「シュガースポット」は、それがすごくストレートに出た曲なのかもしれないですよね。
にしな:ああ、たしかに。たとえば、明るいほうに行くと、私は天邪鬼だから反対側に行きたくなるんですよ。期待は裏切り続けたいな、って。だからバッドな感じのものもやりたいし、ラップとかもやってみたいし。あと、あれなんて言うんでしたっけ? なんとかリーディングみたいな。
――ポエトリーリーディング?
にしな:そうそう。そういうのもやってみたいですし、楽曲提供もしてみたいですし、いろいろやってみたいですね。