Mitski「My Love Mine All Mine」バイラル急上昇 日系アメリカ人SSWの揺らぎと芯の強さを併せ持つ歌声

 ここでUSインディーシーンについて少し触れておきたい。1970年代後半~2000年代頭にかけ、アメリカ各地で形成されていったインディーシーン。そのきっかけは、大学キャンパス内に開設され、学生主体で運営されるカレッジ・ラジオ局やファンジン(ファンが作る同人誌)だった。US、UKに限らず、レーベル単位でその特徴を語られることが多い海外のインディーシーンだが、コミュニティ単位で発展したゆえ、その地域性が反映され、そこが個性になっていったと考察する。1970年代後半には、ニューヨークでTalking Headsを筆頭にパンクロックを基盤にしたアバンギャルドなサウンドを放つノー・ウェイヴというジャンルが台頭。1980年代半ばに同じくニューヨークから、後にUSインディー界のレジェンド的存在となるSonic Youthが登場する。Sonic Youthのノイズロックは、シアトルを拠点としたグランジロックに影響を及ぼしていく。1989年にシアトルのインディーレーベル、Sub PopからNirvanaがデビュー。1991年発売の『Nevermind』はビルボードチャートで1位を獲得し、全世界的に驚異的な売り上げを記録。Nirvanaの成功は、オルタナティブロックを世界中に広めた他、ロック文化、音楽シーンに今でも影響を与え続けている。Mitskiの楽曲はこうした背景を持つUSインディーシーンを彷彿とさせる。

Mitski - My Love Mine All Mine (Official Video)

 今回3位にランクインしている「My Love Mine All Mine」は、Mitskiが2023年9月15日にリリースした最新アルバム『The Land Is Inhospitable and So Are We』の収録曲だ。2016年夏の全米ツアーでは、アメリカ各地のライブが全てソールドアウトした他、『Be The Cowboy』(2018年)収録曲「Washing Machine Heart」が公式YouTubeで7323万回視聴を超えるなど、すでに米国ではトップアーティストとしてのポジションを確立していたMitski。ここにきて日本のバイラルチャートに入ってきたのは、TikTokが大きく影響している。海外でバズを起こしたのをきっかけに、日本でもその歌と、彼女の存在があらためて知られることとなった。特筆すべきは、「My Love Mine All Mine」が使用された動画投稿が84万7000本なのに対し「#mitski」は62億回視聴を突破していること。

 これは投稿動画のBGMに使用するよりも、楽曲をじっくり聴いている人が圧倒的多数を占めていることを証明している。さらにこの7月に開設されたMitskiの公式TikTokのフォロワーは1万人を突破。これは、突然現れたディーヴァとはまた違った新たな歌姫の存在に、世界中から一気に注目が集まった結果と言えるだろう。Cocteau Twinsやビョークあたりを彷彿させるその歌声は、ローファイなサウンドながら、クワイアを取り入れたり、途中でワンフレーズ日本語詞が出てくる曲があったりと、多彩なアプローチの中で堂々たる存在感を発揮している。低音がメインな曲でもダウナーに陥ることがないのは、メロディラインの秀逸さもあるが、心を浄化するような揺らぎと芯の強さが同居するMitskiの歌声があるからだ。Spotifyではすでに2000万人以上の月間リスナーがいるが、彼女の歌が、これから世界にどう広まっていくのか楽しみである。

※1:https://charts.spotify.com/charts/view/viral-jp-daily/2023-10-11

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