湘南乃風、レゲエへの葛藤や解散危機を乗り越えて築いた居場所 それぞれの思いが交差するデビュー20周年インタビュー
湘南乃風とファンの人たちの“絆の歌”であり“愛の歌”(SHOCK EYE)
ーーハマスタでのライブ直前の心境を教えてください。
SHOCK EYE:今は、ちょうどトレーニングを始めて少しずつ体ができてきて、安心しています。結局、当日一番嫌なのは体力的に心配があることや、単純に喉の調子が良くないといったことで。本番でそういう所に気がいってしまうと、純粋にその日を楽しめないというか。そういうことを考えながらライブするのって、一番キツイんです。心配を残しておくと気持ちにちょっとノイズが入るというか、シンプルに取り組めなくなるのが嫌なんです。前回のハマスタが10年前で、その時の体感的なものをすごく覚えているんですけど、当時の感覚のままで今回臨んだらヤバイなって。とにかくそういう不安を全部なくした状態で臨みたいと思っていて、今は少しずつ、心配が抜けてきています。
ーー『風祭り』を開催するにあたってどんな思いですか?
SHOCK EYE:晴れたらもうOKというか、そこのクオリティとか完成度みたいなものが、10年以降の俺たちに大事なことかもしれないけど、15周年からの5年間はやり切った感じがあって。十分いろんなことに頑張って挑戦して、失敗して辛い思いや悔しい思いもして、それでも立てた時点で自分たちに拍手を送ってあげたいみたいな。だからそこでまた変な言い方をすると、「こうであるべきだ」とか、ああだこうだやりたくないんです。「もういいじゃん、立てたんだから」って。その「立てた」ことからの最高の瞬間を感謝の気持ちで終わりたいから、「ちゃんと歌えるだろうか」とか「体力が続くだろうか」とか、そういう雑念は置いていきたいんです。シンプルに楽しむとか、シンプルにありがたいと思う気持ちだけをそこで表現できれば、それはもう成功というか、自分は満足だという感じがしています。
ーー活動に対するスタンスはどんな感じですか?
SHOCK EYE:10周年までは、「どうせやるならもっと本気でやれよ」とか、「なんでそんなところで手を抜くんだ」とか、そういうことに苛立つことがすごく多かったんです。でもそれは押しつけだなと思って。もちろん、そういう風に言っていた自分に噓はつきたくないし、「お前こそ真剣に取り組んでいないじゃん」と言われたくないし、そういう自分が大嫌いだから、常に全力で湘南乃風に取り組んできました。
それは今も変わらずですが、人には強要しない。自分がやりたいからやっているだけで、「自分がやっているからお前もやれよ」みたいに、見返りを求めた時点で二流だなと思っていて。自分は自分らしく精一杯、全力で燃費悪くやる。それは湘南乃風だけじゃなく、自分はそういう生き方を選んでいます。メンバーともいっぱい話したんです。その中で大事だったのは伝え方とか、それぞれの良さをちゃんと理解してそこに対して感謝を感じられるようになること。そうなれば自然と求めなくなるんですよね。「別にそれはお前の得意なことじゃないもんね」と、今はそう思えるようになったし、自分らしさを発揮できれば、それは湘南乃風のためになるという自信にもなった。だから、その部分は変わりましたね。
ーーハマスタのセットリストから思い入れのある1曲を選んでください、
SHOCK EYE:「曖歌」です。ミディアムテンポのラブソングですけど、ライブで育っていった曲でもあって。「純恋歌」「恋時雨」「曖歌」は3部作として作っていて、最初は「純恋歌」、次に「曖歌」、「恋時雨」はその2曲の“エピソード0”として作りました。ライブで歌えば歌うほど、サビをみんなで大合唱したり、意外とビートを強く作っていたので、思っていたより盛り上がる曲に成長しました。ライブで歌ってみないと分からないノリというものがあって、こんなに長く歌い継がれる曲になるとは、正直作った時は思わなかったです。ラブソングという枠を越えて、湘南乃風とファンの人たちの“絆の歌”であり“愛の歌”というか、そういう大きなくくりの中に「曖歌」がハマってくれました。それは、ファンの方たちに助けてもらった部分も大きいと思います。ファンの方が「曖歌」や「恋時雨」「純恋歌」を、レゲエという枠ではなく純粋に“湘南乃風の曲”として、もっと言えばシンプルに好きな曲として、反応してくれたおかげだと思います。
ーー「風一族(ファンの総称)」についてはどんな思いですか?
SHOCK EYE:ファンの方達の声は、SNSで日々届いています。昔のように、CDの売れ行きとかカラオケでどれだけ歌われたという世界ではなくなったけど、じゃあCDが昔ほど売れていないからファンが減ったのかと言ったらそんなことはなくて、SNSでは常に自分たちを応援してくれる声が届いています。でもそれは、当たり前のようで当たり前ではなくて、自分たちの心を支えてくれているし、めちゃくちゃエネルギーになっています。それを直接受け渡しができて、感謝の気持ちも伝えることができて、お客さんの笑顔や喜びの声、もしかしたら感謝の言葉ももらえるシーンはライブしかありません。20年もやっていると、今さらファンに対して「ここで格好良く見せたい!」とかはありませんね。
ーーSHOCK EYEさんにとって湘南乃風とは?
SHOCK EYE:“役目”です。シンプルに職業だと言えば職業かもしれないけど、変な言い方をすると選択の自由はないから、もう辞められないし、辞めるつもりもないんです。ということは最早、職業でもなくて(笑)。自分が表に立って誰かを元気づけたり、自分もそこでいろんなことを学んで、またそれを返していく。そして返した先からまた何かを受け取り、キャッチボールしながら、時々誰かの人生を救ったり、逆にそのことで自分の人生も救われたりする。表に立つことで不自由になることもあって、矢面に立たされて誹謗中傷の言葉を浴びたり、普通の人ができることもできなかったりするけど、それらも引っくるめて、これが“役目”だからしょうがないよねと。湘南乃風は僕だけではないので、彼らとやって行くことも役目だと思っています。
一つ誇れるのは、解散していないこと(若旦那)
ーーハマスタについてはどんな印象ですか?
若旦那:自分は10周年の時にハマスタでやりたいとは思っていなかったんです。自分は日比谷野音(日比谷公園大音楽堂)が好きで、野音のキャパが3000人でハマスタが3万人だとしたら、野音で10日間ぶっ続けでやりたいと言っていました。野音で連続10本勝負のワンマンライブをやりたいと。でもさすがにそれは受け入れられないみたいな感じで、圧倒的に僕以外の全員がハマスタという意見だったんです。だから自分としてはハマスタでのライブに対して、どうやってやる気を出そうかみたいな思いが10年前はありました。
でもやってみたら、すごく良い光景でみんな楽しそうだったし、その時から自分の価値観が変わって、「自分自身が想像するクリエイティブが全てではないんだ」と分かったんです。人の意見を受け入れることだったり、自分が全くそう思っていなくても乗っかることで、自分を越えていくということをあの時のハマスタで知って、性格から何から結構変わりました。言い換えると、大人になれたんじゃないかなって思います。前は、もっと我が強かったので(笑)。
ーー今回、ハマスタでライブをするにあたってはどんな心境ですか?
若旦那:芸術論じゃないけど、ライブをやるにあたって自分が一番大事にしている心がけというか、“心の根”があって。10人だろうが3万人だろうが、同じ気持ちでライブをやって、そこに優劣をつけないと、5年前にそう決めたんです。全てのライブが俺にとっては大事で、スペシャルなもの。だからハマスタと言われても、俺にとっては単なる8月12日のライブです。ソロでは、少ない時は10人くらいのお客さんの前でもやるけど、そこに差は絶対につけないというのが、俺のライブに対するポリシーです。そう聞くとハマスタに来るお客さんはガッカリするかもしれないですが、8月12日は自分にとって一つのライブにしか過ぎないというのが正直なところです。でも、もちろんメモリアルな日だから、金字塔的なライブになってほしいとは思いますね。
ーー湘南乃風として誇れるのはどんなところですか?
若旦那:一つ誇れるのは、解散していないことかな。周りがどんどん解散していく中で、そうしていないことは、もしかすると異常なのかもしれないです。真っ当に音楽をやっていれば、解散するのが普通なのかもしれなくて、そう思うとどこか真っ当ではないんだと思います。20年間やって来られたことはすごいことだけど、気が狂うようなことですよ。伊藤恵太郎(DJ/The BK SOUND)を含めて5人でやり続けて来たことは、どこかぶっ飛んでいないとできないことです。
ーーハマスタのセットリストから思い入れのある1曲は?
若旦那:「純恋歌」ですね。明らかに俺らの人生を変えてくれた曲です。1個ステージがガラッと変わった瞬間がこの曲でした。湘南乃風の歴史の中で「純恋歌」までは、あそこまで自分の心を吐露するようなラブソングは歌っていなくて、多分みんなもそういう曲は歌いたくないと思うようなグループでした。でもあの曲はすごく時間をかけて制作して、全員が前を向いてリリースしようと思う気持ちに辿り着くまで、1年半くらいかかったんです。自分らにとっては、それまでガソリン自動車を作っていた会社が、電気自動車に変えますというくらいのイノベーションでしたから。それによってレゲエ界からは、めちゃくちゃ叩かれましたし、もちろんメンバー内からも反発はあったし、気持ちを一つに重ねられるまでに時間をかけた曲です。
そもそもジャマイカに勉強しに行った時に言われたことは、「ジャマイカの伝統を守るのがジャマイカ人のレゲエで、日本人のカルチャーの系譜をしっかり守っていくのが、おまえら日本人のレゲエなんじゃないか」と。そういうことをジャマイカ人と語り明かして、つまり自分が聴いて育ってきた音楽を大事にすることが、レゲエの本質であるということを学んだんです。それを持ち帰っているわけだから、単にレゲエだけをやるつもりは初めからなかった。俺にとってレゲエをやるということは、J-POPをやるということに他ならないわけだから。でもジャマイカのレゲエから影響を受けた気持ちとかリズム、“調子”みたいなものはしっかりあって、それを今までの日本の音楽の系譜に落とし込んでいく。それが湘南乃風だと思っているから、批判を受けるのは当然です。そもそも俺の思うレゲエとみんなの思うレゲエが違うから、仕方のないことだと思っています。
ーー“風一族”の存在については、どんな思いですか?
若旦那:ファンとは同じ時代で一緒に呼吸している、同じ空気を吸って、今の瞬間を一緒に捉えているような気持ちがあります。昔は同じ敵を一緒に倒しに行くような、共に“湘南乃風的な生き方”をしている仲間たちという感じでした。俺はアウェイが好きで、ホームが意外と苦手だとか言うとファンは嫌がるけど(笑)。フェスの湘南乃風を観れば分かると思うんですけど、そこではほとんど自分がリードしているんです。それはアウェイが大得意だから。オセロみたいに白を黒にドンッと変えていくような、その人の人生観がパンッと変わる瞬間を見ることが俺は好きで。ずっと支えてくれるファンがいるのはありがたいけど、「俺はそこの担当じゃないな」みたいな気持ちはあります。どちらかと言うと、アドリブ感満載でバチッとぶつかって「何やってたんだろう? 今までの自分は!」みたいに思ってもらいたくて。だからファンというよりも、今ここにいる人たちのためにやっている気持ちです。100人だろうが3万人だろうが、ファンだろうが知らない人だろうが、駅前で改札から出て来る人に歌うような気持ちで俺はずっとやっています。改札を出て家路を急いでいる人に向かって歌うみたいなことが、一番得意かもしれないですね。
ーー若旦那さんにとって湘南乃風とは?
若旦那:常に自分の中にあるものを破壊して、新しい息吹を吹き込むもの。俺がいつも意識しているのは、そういうことです。完成されたものにしがみつかない、自己模倣しない、新しいものを生み出す勇気と力を常に蓄えて前に進むのが、“湘南乃風的な生き方”だと思って、俺は生きてます。