『ハリー・ポッター』『スター・ウォーズ』……名曲を惜しみなく披露 ジョン・ウィリアムズ、30年ぶり来日公演は新たな伝説に

 ジョン・ウィリアムズが、日本にやってきた。世界的マエストロが、30年ぶりに日本に帰ってきた。1932年2月8日生まれ、御歳91歳。生ける伝説=リビングレジェンドが指揮棒を振る『ドイツ・グラモフォン創立125周年記念 Special Gala Concert』が、9月5日、サントリーホールにて開催された。しかも演奏するサイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)は、世界的オーケストラで活躍する音楽家たちが一堂に集まった、超エリート集団。これはもはや、一つの音楽的事件だ。

 グラミー賞25回、アカデミー賞5回、英国アカデミー賞7回、ゴールデングローブ賞4回受賞。手がけてきた映画音楽は、『スター・ウォーズ』『スーパーマン』『E.T.』『ハリー・ポッター』『インディ・ジョーンズ』『未知との遭遇』『ジョーズ』『ジュラシック・パーク』など数知れない。その流麗かつ壮大なサウンドは、世界中の映画ファンを虜にした。

 かくいう筆者も幼少期にスティーヴン・スピルバーグの映画を観て、ジョン・ウィリアムズの音楽に感激し、サウンドトラックを聴きまくった一人である。『インディ・ジョーンズ』では「レイダース・マーチ」の勇壮な音楽に励まされ、『ジョーズ』では「メイン・タイトル~最初の犠牲者」の恐怖におののき、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』では「王女レイアのテーマ」の宝石のような美しさに涙した。そんな映画音楽界の巨匠が来日するというのは、ファンにとってこの上ない最高のプレゼントである。

 とてつもない倍率の争奪戦の上、知人がチケットをゲットし、そのはからいによって筆者もこの記念すべきコンサートに行くことが叶った。これを僥倖と呼ばずなんと言おう! レンタルした黒タキシードに身を包んで、いそいそとサントリーホールへと出かけたのである。

 公演は二部構成。前半は、セントルイス交響楽団音楽監督&ニューワールド交響楽団芸術監督を務める、ステファン・ドゥネーヴ指揮による演奏。1曲目は、天皇皇后両陛下の結婚式を記念して作曲された「雅の鐘」が演奏された。荘厳で神聖な祝典曲というよりは、心が浮き立つようなファンファーレ。続く2曲目は、小澤征爾のボストン交響楽団音楽監督在任25周年を祝して書かれた「Tributes! (For Seiji)」。日本への感謝を示した2曲でコンサートは始まる。

 そして、ここからが怒涛の映画音楽コーナー。まずは、映画『遥かなる大地へ』より「組曲」。アイリッシュダンス風の軽快なモチーフで始まり、最後はジョン・フォードの叙情的な西部劇を思わせる雄大なテーマへと収斂していく。ライトモチーフの優れた使い手でもあるウィリアムズの、面目躍如たる楽曲だ。

 『E.T.』からは、「遥か300万光年の彼方から」「スターゲイザー」「フライング・テーマ」の3曲。映画のオープニングで鳴らされる「遥か300万光年の彼方から」は、この時点で異星人の正体が不明ということもあり、改めて聴き直してみるとかなり不穏なサウンド。続く「スターゲイザー」(サウンドトラックでは「E.T.と僕」と題されていた楽曲に基づく)では、一転して美しいハープの音色がホールを優しく包み込む。E.T.は遠い星からやってきた心優しい異星人であることが、その音の一つひとつから窺い知ることができるのだ。

 そして、この組曲のハイライトというべき「フライング・テーマ」。主人公の少年エリオットを乗せた自転車が空に浮かび上がる、その瞬間の高揚感! 何度も繰り返し聴いてきたメロディが生のオーケストラで鳴らされた瞬間、筆者も体が空中に舞い上がるような感覚を覚えた。

 後半パートでは、いよいよ御大ジョン・ウィリアムズが登場。万雷の拍手のなか、91歳の巨匠はゆったりとした足取りで指揮台へと歩みを進め、オーディエンスに挨拶。30年ぶりに日本に戻って来られたこと、長年の友人である小澤征爾と再会できたこと、『2023セイジ・オザワ 松本フェスティバル』でコンサートを行えたことに感謝の意を示し、 「これから『スーパーマン・マーチ』を演奏します。スーパーマンを日本語に訳すとセイジを意味します!」と語りかけた。

 そして、奏でられる「スーパーマン・マーチ」。力強く、エモーショナルに指揮棒を揺らしていたステファン・ドゥネーヴとは対照的に、ジョン・ウィリアムズのタクトは柔らかい。サイトウ・キネン・オーケストラの面々は、そんな必要最低限にして微細な指揮棒の揺れを、ダイナミックに増幅して演奏してみせる。

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