GRAPEVINE、アルバム『Almost there』収録曲から初期曲まで駆け巡る予想外の展開 東名阪ツアーZepp Shinjuku (TOKYO)公演

 リラックスした様子で再び田中と西川が向き合ってギターを合わせた「This town」に、後半はお馴染みの曲で楽しめるかと思ったら、またも『Almost there』からギターの重なりが印象的な「The Long Bright Dark」へ。「Goodbye, Annie」はファニーな歌詞とインプロめいた間奏にフロアが沸く。最新の曲を楽しむというこのツアーならではの楽しみが、次第にバンドと秘密を共有しているような気持ちにさせてくる。終盤は「Good bye my world」「Glare」と2000年代の楽曲が並び、本編ラストは田中が「今日はどうもありがとう! ラスト、南部の男になってくれ!」と「B.D.S.」。豪快に飛ばす曲の終盤で西川がステージの前に進んでソロを弾き、フロアを騒がせた。

 アンコールは「この夏爆売れした」と田中が笑わせた「SPF」「スロウ」「放浪フリーク」と、初期からの定番曲。最後に田中が「どうもありがとう! ツアーもよろしく!」と締め、西川が珍しくピックをフロアに投げてステージを降りた。

 思いがけないセットリストだったが、終わってから思ったことがある。このツアーの物販のTシャツには「HUMAN NATURE」とプリントされており、これは「雀の子」の中盤で、実際の歌詞は全然違うのだが、空耳的に聴こえてくるワードだ。歌詞の文字と聴こえてくる歌が違うのは以前から田中の得意技の一つ。遡れば大瀧詠一が試みて桑田佳祐に引き継がれた、洋楽好きなロックアーティストならではの遊び心と言えようか。『Almost there』にはその技を使った曲がいくつかあり、このツアーのセットリストに入った曲の中にもある。

 GRAPEVINEは新作を発表するたびに新たな試みを実現させてきたが、意表を突く構成や歌詞の「雀の子」にしても、これまでに培ってきた手法やスタイルを継承しているのだという示唆なのではないか。さらに想像すれば、このツアーはそうした蓄積の先に生まれた新たなモンスターとも言うべき新作への布石だったのではないか。単なる個人的な想像だから真相はわからない。だがこうした想像を楽しませてくれるのもGRAPEVINEだ。9月27日にリリースされる『Almost there』、そして10月6日から始まるアルバムツアーでは、また全く違った楽しみ方をさせてくれるに違いない。

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