トンボコープ、the quiet roomを迎えた初めてのツアーファイナル バンドが奏でた「今が最高だ」と思える現在と未来への予感

 「たった2公演だけで『ツアー』と名乗っていいかわからない。でも、この2公演をやるためにいろいろな人が携わって、いろいろな人の思いを背負って俺たち4人はステージに立ってます」。初めてのツアーは「おめでとう、ありがとう」だけでもいいようなものだが、雪村はやっぱり素直な気持ちを口にする。そんな思いを重ねてならされた「Now is the best!!!」はこの日のライブのハイライトだった。イントロから力強い手拍子がバンドを後押しし、アッパーなビートに乗せてトンボコープが歌う〈だって今が最高じゃん〉は単なる現状肯定ではなく、「今が最高だ」と思い続けられる未来を作っていくという決意表明だ。そのまま「むかしむかし」に突入、ライブは一気にクライマックスへと駆け上がっていった。

 そんな晴れやかな瞬間を経て、「最後にひとつだけ真面目な話をします」と言って雪村が語り出す。「俺はもともと人前に立って話すような性格じゃないし、そういうのがめちゃめちゃ苦手でした。じゃあなんでライブハウスに立って、お客さんの前で偉そうに言葉を紡げるのか。それは来てくれたあなたたちの笑顔から元気と勇気をもらっているからなんです。あなたはこんな臆病者な俺を、ライブハウスで話せるくらいに力をくれる。そんな力があなたの笑顔にはあるんです。だから、ヤなことがあっても、苦しいことがあってもその笑顔を忘れないで」――その言葉はオーディエンスに向けたものであると同時に、彼自身に語りかけるようなものでもあったように思う。バンドをやる、音楽をやる理由が、その短くて熱い言葉のなかに詰まっていた。そして届けられた本編ラストの曲「夢の10年後」。ずっしりとしたバンドサウンドが鳴り響くなか、雪村は丁寧に歌を紡ぐ。それまでのアッパーな盛り上がりとは打って変わって、じっと聴き入るオーディエンスの姿が印象的だった。

 オーディエンスの歌声に導かれて始まったアンコールでは、直前にライブハウス内に流れた映像で告知された10月11日リリースの新曲「風の噂」を披露。色彩豊かなコーラスワークと同期のピアノがドラマティックに彩るアッパーチューン。「今まででいちばん(作るのに)時間がかかった」というこの曲もまた、トンボコープの歴史に新たなページを刻む一曲になっていくことだろう。12月に予定されている本ツアーの追加公演も含め、トンボコープの眼前には次々と新しい未来がやってくる。8月30日にリリースされた1stミニアルバムは『羽化』というタイトルだったが、次に彼らに会うときはきっとその羽は大きく広がり、鮮やかに色づいていることだろう。

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