女王蜂、フレデリック、キュウソネコカミ……ライブハウス Mersey Beatが育んだ、神戸バンドの個性
神戸出身のバンドは“クセ”が強い。例えば、がなり声とファルセットを自由自在に操り圧倒的なボーカリングをみせる女王蜂。ユーモアな言葉選びと節回し、踊りたくなるようなグルーヴ感あふれるサウンドで中毒性を生むフレデリック。そしてユーモアなパフォーマンスと今をとらえたシニカルな歌詞がリスナーたちの心を離さないキュウソネコカミ。
どれも一筋縄ではいかない個性的なバンドたちであるが、ではその根源にあるものは一体何か。それを紐解くには今はなき神戸のライブハウスについて語らないといけない。そのライブハウスの名前は神戸Mersey Beatだ。
Mersey Beatが生む個性
神戸・三宮のビルの4階にあったMersey Beat 。2018年12月にビル解体のため閉店したが、先に挙げた3バンドをはじめ、黒猫チェルシー、踊ってばかりの国、愛はズボーンの前身となった江坂キューティリップスなど、後のメジャー/インディーズシーンを彩るアーティストを次々と輩出していた名店だ。このように書けば、ヒットアーティストを次々と生み出すために、厳格な音楽の審査を行っていたように思える。だが、そうではない。
この辺りに関しては、当時、同ライブハウスで演奏をしていたバンドの発言を引用しながら解説したい。フリージアンという神戸を拠点に活動しているバンドがいる。彼らは2021年に結成したが、メンバー個人でいうと10年以上関西のインディーズシーンで活動している。そして2010年代初頭、彼らもまたMersey Beatでライブ活動をしていた。
彼らをインタビューした際に「バズーカを持っているおっちゃんとか、紙芝居をやっている女の子とか、下ネタ漫談をやっている人が普通にいたし、そんな人たちとバンドがごちゃまぜでステージに上がっていました」と同ライブハウスについて語っていた(※1)。当時、ブッキング担当の柴藤圭吾氏がさまざまなジャンルのバンドやアーティストを呼び、そこで起きる化学変化を楽しんでいたとのこと。その結果、「周りが味の濃い人たちばかりで、出演したバンドはどっか一個尖った部分がないと、すぐに存在を忘れられていましたね」とフリージアンのメンバーは語っていた(※2)。
さらにMersey Beatがあったビルの1階には姉妹店である神戸Back Beatがあり、主にこの2店舗が共同で『ビルジャック』という10組以上のバンドが出演するサーキットイベントのような企画を開催していた。ただですら味の濃いメンツなのに、それが10組以上出演するとなると、普通に歌うだけでは記憶にすら残らない。そういう状況であったからこそ、インパクトのある音楽性やステージアクトが磨かれたのではないだろうか。