大比良瑞希、弾き語りのコラボで見出した“新しい自分” butajiの音楽と深く通じ合った『Love On A Two-Way Street』第2夜

 シンガーソングライター 大比良瑞希が、リスペクトするシンガーをツーマンの相手として迎え、弾き語りで共演するだけでなく、その夜のための新曲をコラボレーションで制作するという試み。それがこのイベント『Love On A Two-Way Street』だ。

 3日間の本公演の初日はカーネーションの直枝政広を迎えて、5月25日に代官山・晴れたら空に豆まいてで行われた。直枝の作詞作曲とプロデュースで制作された新曲は「Jam」だ。

 そして2回目となる今回は、6月29日に同じく“晴れ豆”で行われた。相手はシンガーソングライター butaji。大比良とは比較的世代が近いが、深く心をえぐるような歌と言葉の使い手であり、浮遊的でありながらドラマチックなサウンドメイカーとして現代屈指の定評がある。トラックメイカー 荒井優作とのユニット・butasakuや、STUTSおよびMirage Collective、折坂悠太らとの共作や交友を経て活動の場を広げ、さらには自身もシングル『中央線』(2019年)や3rdアルバム『RIGHT TIME』(2021年)で大きくステップアップしているところだ。ライバルとしては超強力だが、コラボレーターとしてならこれほど心強い相手もいないだろう。

 すでに、ふたりの新曲「いとしさ」が7月5日にデジタルリリースされることは発表されていたが、このライブの時点では曲そのものは世の中にまだ披露されていない。対談(※1)やレコーディングは経験しているとはいえ、ミュージシャンとしてお互いをさらけ出す場であるステージではふたりがどのように溶け合うのか、新鮮な興味を抱いてライブを観た。

 まず最初に登場したのは、butaji。椅子に腰掛け、セミアコースティックギターを弾き、エレクトロニクスも繊細に配置しながらの演奏だ。しかし、弾き語りとなるとやはり力強く前面に出るのは彼の歌。歌に対する感情を出し惜しみしないから、その表情は詩人のようにも赤ん坊のようにも刻々と移ろう。Mirage Collective「Mirage」の弾き語りセルフカバーを初めて聴いたが、ドラマやユニットを離れ彼自身の肉体にフィードバックされて新たに出てくる歌として聴く体験で、圧倒された。と同時に、これはやっぱり強敵だぞと次に出てくる大比良のステージの成功を願う心境にもなった。

 しかし、そこは彼女もさすがだったと言うしかない。butajiの後を受けてステージに出てきた彼女が最初に歌ったのは、butajiのカバー「中央線」。彼女自身がこの曲を大好きだということも大きいが、つい先ほど聴いた「Mirage」がそうだったように、このカバーは「誰かの言葉やメロディと自分が交わることで、自分の音楽が深いところで変わっていく」と思えるものだった。それはこのイベントの趣旨が音楽巧者を迎えての腕試しという性質とは違い、“Two-Way(双方向)”で通じ合うことを目指すのだと知らせるアプローチでもあった。そういう意味では、彼女にとって大切な歌であるフィッシュマンズ「いかれたBaby」のカバー(2018年)にも、すでにその気づきの片鱗があったのだろう。そして、こうやって歌い続けることで、歌い始めた頃には想像していなかった変化を自分のなかで遂げていく。それと同じことは先月、直枝と披露したばかりの新曲「Jam」も、すでに今夜のライブでは彼女自身にとっても違う鳴り響き方をしていたに違いない。

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