ポルノグラフィティ、“平和”を歌う「アビが鳴く」と『暁』ツアーに見る現在地 時代性を的確に捉えたポップソングが強みに
「平和。歌にするには大きすぎるテーマですが、自分の言葉にしてみたらこうなりました。」
これは同楽曲のリリースにあたって公開された、作詞を担当する新藤のメッセージである。アルバム『暁』でも全曲の作詞を担当し、作詞家としてもその才能を遺憾なく発揮している。新藤と言えば「カルマの坂」や「アゲハ蝶」といった楽曲に代表される、異国情緒漂う歌詞が持ち味だが、本作でもそんな新藤ならではの情景描写が印象的だ。
〈小さな船で波を切り裂き 朱い大鳥居をくぐれば/あらわれる水上の神殿 見上げて私は祈るよ〉
Aメロで描かれるのは広島・厳島神社の情景だ。我々がよく知っている日本の厳島神社の景色を、まるでどこか知らない国の景色のように描写する新藤の高い表現力には思わず舌を巻いてしまう。
〈あの夏を語れる者も 一人二人と去って/アビの鳴く声だけが千年に響き渡る〉
原爆資料館に訪れた学生たちに被爆の体験を語る、いわゆる語り部といわれる被爆体験証言者は減少の一途を辿っている。近年では戦争体験を受け継ぐ伝承者の育成が行われているものの、当事者の生の声を聞けなくなる瞬間は今も刻一刻と迫っている。2023年の広島を取り巻くリアルな詞だ。
〈綺麗事が綺麗事となぜか揶揄される現実/おとぎの国に龍宮を見たいわけではなくって/万の言葉の距離を超えて行け この地上を語る綺麗事〉
平和への祈りや核兵器の根絶を「綺麗事」と吐き捨ててそのままにすることは簡単だ。恒久的な平和を目指すことは容易ではないだろう。しかし決して御伽噺ではない。平和を綺麗事とするのならばその綺麗事が達成される世を見たいという切実なメッセージがこの歌詞には込められている。岡野昭仁の特徴的な譜割かつローに寄せる歌唱とオートチューンを使用した歌声は新鮮に響く。パキッとした歌声が持ち味の岡野だが、こんな引き出しも持っていたのかと驚くばかりだ。
「カメレオン・レンズ」や「バトロワ・ゲームズ」といったアルバム『暁』収録曲も彷彿とする、打ち込みによるソリッドなサウンドアレンジの「アビが鳴く」の音にはヒリヒリとした緊張感を覚える。その緊張感は広島の原爆資料館や原爆ドーム、その周辺に流れている空気とどこか似ているようにも思う。そうした緊張感によって、この楽曲が放つメッセージの説得力は一段と増している。ポルノグラフィティのふたりは他でもない広島県出身だ。彼らは23年以上に渡るキャリアを経て自身の現在地点の強みとなったソリッドかつ時代性を的確に捉えたポップソングを通して、彼らが生まれてくるずっとずっと前に起きた“忘れてはいけない出来事”を、そしてそれを二度と繰り返さないために我々が目指すべき目標を訴えかけているのだろう。
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