back number、Ado、優里、THE BEAT GARDEN……時代の空気感と呼応しながらも普遍性を持つ“令和の応援歌”

優里「ビリミリオン」

優里『ビリミリオン』Official Music Video

 次に、今年はじめにリリースされた優里の楽曲「ビリミリオン」を紹介する。この歌は、ある老人の〈『残りの寿命を買わせてよ/50年を50億で買おう』〉という提案から幕を開ける。まるで人生の本質的な価値を問う寓話のような楽曲ではあるが、終盤では物語の枠組みを超えて、優里からリスナーへ直球のメッセージが届けられる。〈どんな夢を描いてもいい/どんな恋をしたっていい/無限大の可能性は/誰にも譲れない〉〈僕らが生きる時間は/決して安いものじゃないから/後悔しない選択を選んで欲しいの〉という一節が象徴的なように、彼は懸命に一人ひとりの人生に残された時間の大切さとそこから生まれる無限の可能性を伝える。そしてこの曲のラストは、〈頑張ろう 頑張ろう 頑張れ〉という熱烈なエールで締め括られる。“令和の応援ソング”という括りに限らず、これほどまでにストレートな応援歌は、長いJ-POP史を振り返っても稀かもしれない。お笑い芸人でパラパラ漫画家の鉄拳によって紡がれる、温かな質感のMVも必見だ。

THE BEAT GARDEN「Start Over」

THE BEAT GARDEN - 「Start Over」(Official Music Video)

 最後に、3人組ボーカルグループの楽曲「Start Over」について紹介したい。2022年8月にリリースされたこの曲は、昨年夏に大きな話題を呼んだドラマ『六本木クラス』(テレビ朝日系)の挿入歌である。このドラマのもとになった韓国の大ヒットドラマ『梨泰院クラス』の挿入歌「시작(Start Over)」(Gaho)の日本語カバーであるため、もしドラマ未視聴だとしても、街の中やテレビなどで一度はこのサビの清廉なメロディを耳にしたことがある人は多いはずだ。同曲は、現時点でストリーミング総再生回数5,000万回再生を突破、YouTubeのMVの再生回数が1,000万回を超えており、昨年夏以降、ドラマの挿入歌という本来の役割を超えて大きなロングヒットを記録している。

 YouTubeのコメント欄などを見ると、この曲は、ドラマの物語に寄り添った〈僕〉と〈君〉を巡る歌でありながら、普遍的な人生の応援歌として聴かれていることが分かる。特に〈もう見失ないたくないんだ 自分を〉という一節が象徴的なように、この歌は自分自身を奮い立たせる歌として、多くの人々の日々の生活の支えになっているのかもしれない。

 なお、この曲は、THE BEAT GARDENのキャリアにおいても重要な意味を持つ楽曲である。SATORU(DJ)の卒業、そしてグループ結成10周年という大きな節目を迎えたタイミングで歌われた同曲には、新しいスタートを切ったばかりの3人自身の想いが重ねられているのだ。カバー曲ではあるものの、歌詞はメンバーのUが書き下ろしているため、THE BEAT GARDENの意思が色濃く反映されたものになっている。そういった制作背景が、メンバーの歌唱やリスナーへ訴えかける力により繋がっていると予想できる。6月14日には、「Start Over」も収録した約1年10カ月ぶりのアルバム『Bell』がリリースされる予定で、その新作がTHE BEAT GARDENの新章の本格的な幕開けを象徴する作品になることは間違いないだろう。

 ポジティブなエネルギーを放つアップソングから、静かに見守り、そっと背中を押してくれるようなあたたかなバラード、そして全身全霊をかけて精一杯のエールで送り出してくれる楽曲など、さまざまな形となって、今の時代を生きる私たちを鼓舞させる応援歌。今後も新たな応援ソングが生まれて、多くのリスナーの日々や決断、人生を支えていくのだろう。

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