kiki vivi lilyが目指した、荒井由実×ティン・パン・アレーのような信頼関係 荒田洸らとの制作で生まれた“自分らしさ”

松任谷由実への憧れ、“自分にとっての”ティン・パン・アレー

――続く「39 Minutes」は、先行シングルとしてリリースされていた楽曲です。LAGHEADSから小川翔さんと山本連さんを迎えてのレコーディングは、“キュートなギターポップ”を目指したそうですね。

kiki vivi lily:軽快にギターリフが鳴っている曲が作りたいなと。基本的に私はピアノを弾きながら歌うことが多いのですが、それだと軽い感じを出すのが難しくて。ギターに比べて「頑張っている感じ」になってしまうというか。「うまくいかないな」と思っている時期がずっとあったんですよね。ちょうどMICHELLEというバンドをよく聴いていた時期だったので、その音作りやアレンジに影響を受けた部分は多いと思います。

――ちなみに、タイトルの「39分」という時間はどこからきたもの?

kiki vivi lily:私の1stアルバム『vivid』の長さが39分なので、そこから取りました。あのアルバムを聴きながら、電車に乗って好きな人に会いに行く物語が作れたらいいなと思ったんです。

――「39分」は、kiki vivi lilyさんにとっては長いですか? それとも短い?

kiki vivi lily:難しいなあ。本を読むにしては短いですよね。お風呂に入るのとかどうだろう。ご飯を食べるのも39分くらいかな。パパッと作ってYouTube観ながら食べ終わるのがそのくらいかも。あと、私は福岡出身なので「39分あったら電車で太宰府までは確実に行けるな」って思います……地元民しかわからないですよね(笑)。とにかく、長くも短くもない絶妙な長さだなと思います。

――「Paper Drive」は、かなり前から温めていた楽曲だそうですね。

kiki vivi lily:そうなんですよ。昔すぎて、もう作った時のことを覚えていないくらい(笑)。だけど、自分の中でずっと引っかかっていた曲だったので、今回入れることができてよかったです。荒田くんとMELRAWと3人でアレンジしていて、シンセベースを使ったシンプルな音像というふうに自分の中でもビジョンが結構しっかりしていたので、わりとスムーズに進みました。ずっと一緒にやってきたからこそのチームワークを感じたというか。

――松任谷由実のファンを公言されているkiki vivi lilyさんにとって、荒田さんやMELRAWさんとの関係は、ユーミンとティン・パン・アレーみたいなものなのかなと。

kiki vivi lily:おっしゃる通り、そういう関係性を作りたいなとデビューの頃から思っていました。そのためには細野晴臣さんや、鈴木茂さん、松任谷正隆さんのような人を探さなければと。2年くらいかけてWONKの方たちと出会い、この人たちとだったら、私が目指していた音作りができそうだなと思って一緒に制作することにしたんです。「みんなのことは、ティン・パン・アレーだと思っているよ」と実際に話したこともありますし。

――そうだったのですね。この曲には〈中央フリーウェイ〉というフレーズもあります。

kiki vivi lily:もろユーミンですよね(笑)。当時は「気づかれないだろうな」と思ってこの歌詞を書いたんですけど、最近「中央フリーウェイ」がよく巷で流れているので、ちょっと恥ずかしいです(笑)。

――「Invisible」では、女性アーティストとして日々感じていることをテーマにしていますね。

kiki vivi lily:同じ女性を「勇気づける」なんて、めちゃくちゃおこがましいのであまり言いたくないのですが、何か感じてもらえるようなテーマの曲を書きたい気持ちは、kiki vivi lilyとしての活動を始めたくらいからずっとあったんです。でも、それってある程度私の曲を聴いてくれる人がいないと響かないじゃないですか。誰もkiki vivi lilyを知らない状況でそんなテーマを扱っても、響かなければ意味がないというか。今、ようやく自分でもしっくりくるタイミングになったので入れてみました。

――やはり「男性中心社会」だなと感じることは多い?

kiki vivi lily:最近になって、あまりそういうことを感じなくなってきました。おそらくそれは、“多様性”が充実する社会になりつつあるのも理由として大きいとは思うのですが、自分の年齢が上がったからというのもあると思うんですよね。音楽業界とか関係なく、どこにいても若い女性は本当に大変なんです。私がkiki vivi lilyという名義で始める前、20代前半の頃とか、「24歳を過ぎたら(女性アーティストは)厳しい」みたいなことも言われましたし。ただ、自分がそういう問題に直面している時にはなかなかメッセージを発信するのが難しい。年齢を重ねた今だからこそ、自分がちゃんとその役割を引き受けなければという気持ちでいますね。ただ、あくまでも自分の問題として発信しているというか。「私はこう思うけどみんなはどうかな?」くらいのスタンスで描くようにはしています。もしそれで、誰かの心に響くことがあればいいなと。

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