連載「lit!」第44回:米津玄師、BUMP OF CHICKEN、PEOPLE 1、WurtS……今春リリースのロックソング6選

PEOPLE 1「Ratpark feat. 菅原圭」

 2022年は、PEOPLE 1にとって大きな飛躍の一年となった。ライブ/フェスシーンの復活という機運を追い風にして数々のステージに立ち続ける中で、骨太なライブバンドとしての評価を確立。また、「DOGLAND」がアニメ『チェンソーマン』(テレビ東京系)第10話のエンディングテーマに起用されたことで、それまで以上に大きな認知を獲得するに至った。年明けに放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で、蔦谷好位置が選ぶ年間ベスト10の1位に「紫陽花」が輝いたことも、2023年のスタートダッシュを加速させる一つの契機になったと言える。

 楽曲ごとに多彩な歌声とサウンドで魅せてくれるPEOPLE 1であるが、この春にリリースされた今年一発目の楽曲「Ratpark feat. 菅原圭」は、ダークで退廃的なムードのロックチューンに仕上がっている。そして、そうした彼らの真骨頂ともいえるサウンドの上で展開されるのが、ゲストの菅原圭とDeu(Vo/Gt/Ba/Other)によるスリリングなマイクリレーである。菅原圭は同曲について「殴りあいのような楽曲」(※1)であるとコメントしていて、まさに言い得て妙であるように思う。この熾烈を極めるコラボ曲に果敢に挑んだ菅原も、これまでフィーチャーされることが少なかった彼女のアグレッシブな歌声を見事に引き出したPEOPLE 1も、どちらも凄い。coalowlとDeuが監督を担ったMVも必見。

PEOPLE 1 “Ratpark feat. 菅原圭” (Official Video)

WurtS「タイムラグ! feat. Moto (Chilli Beans.)」

 Chilli Beans.のMotoをフィーチャリングゲストに迎えたダンスナンバー。この曲は、3月に開催されたChilli Beans.の対バンツアー『Dancing Room 003』の大阪公演にWurtSがゲストとして出演した際、サプライズでライブ初披露された。WurtSは、これまでにも、PEOPLE 1のItoを迎えて「リトルダンサー feat. Ito (PEOPLE 1)」を、にしなを迎えて「サンタガール feat. にしな」を制作しており、今回の新曲も、そうしたコラボレーション楽曲の流れの中に位置づけられるものである。おそらく彼の中には、同じ時代を生きるアーティストと積極的にコラボレーションを重ねていくことで、2020年代のシーンを共に彩っていこうという想いがあるはず。何より、WurtSが得意とする煌びやかなシンセサウンドを活かしたダンストラックと、Motoのカジュアルさとクールさの両方を兼ね備えた歌声の相性は抜群で、豊かなアンサンブルから両者がコラボする必然を確かに感じ取ることができる。WurtSもChilli Beans.も、この春以降に開催されるフェスやイベントへの出演が続々とアナウンスされており、またどこかで両者の共演が実現する日も遠くないかもしれない。

WurtS - タイムラグ! feat. Moto (Chilli Beans.) (Official Audio)

にしな「春一番」

 本連載「lit!」と新譜連載「本日、フラゲ日!」において、筆者は、にしなが誇るソングライターとしての才能、シンガーとしてのポテンシャルについて繰り返して伝えてきたが、またしても、その二つの魅力を見事に兼ね備えた新曲が届けられた。アコースティックギターの音色とシンプルなバンドサウンドを軸に据えた「春一番」は、彼女にとっての原点に今一度立ち返るような楽曲であると言える。その原点とは何かというと、彼女の最大の魅力である深淵な歌声の響きをストレートに伝えることである。振り返れば、初めて「ヘビースモーク」や「青藍遊泳」を聴いた時、長きにわたるJ-POP史において、これほどまでに美しいメロディが手付かずのまま残されていたことに強く驚かされたが、今回の新曲におけるサビのロングトーンを活かしたメロディも絶品である。

 〈校庭の桜の木の下に〉〈いつしかの3月9日〉という歌詞が示唆しているように、この曲においては“卒業”が一つの主題となっている。しかし、今まさに“卒業”の季節を迎える人だけでなく、そうした別れの季節を乗り越えて、その先に続く人生を生きる人たちをも射程に入れた楽曲であることに気づく。そうした人たちに向けてささやかなエールを送る同曲は、きっと世代を超えて愛されていくような新たなにしなの代表曲になるはず。令和時代における新たな春の名曲の誕生を祝福したい。

にしな | 春一番 - Music Video

※1:https://www.thefirsttimes.jp/news/0000252061/

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