島爺×ナナホシ管弦楽団、音楽表現を高め合う強固な“共犯関係” 「あの娘のシークレットサービス」から続く切磋琢磨の歴史
(「帰巣本能」は)「ほんまに死ぬほど歌いました」(島爺)
ーー2曲目にふたりの出会いの曲でもある「あの娘のシークレットサービス」が入っているのも絶妙で、広がりが生まれていますね。
島爺:そうですね。ただのハードロックではないんですよ、というところが見せられるというか。
ナナホシ:全体像を見ると、ナナホシ管弦楽団というものを非常によく理解してくれているなと。ありがたいですね。僕自身がならべてもこうはならないです(笑)。
ーーそこから最終曲という案もあった「シル・ヴ・プレジデント」でまた場面が転換します。飛び道具的なインパクトがありますが、実はこういう本人のペルソナとまったく違う主人公が設定された遊びのある楽曲は、歌い手・島爺の真骨頂のひとつという気がします。
ナナホシ:そうなんですよね。もう、真面目な遊び心と悪ふざけのギリギリをいっている(笑)。
島爺:これ以上いったらアカンなと(笑)。
ーーいつもその見極めがすごいですね。
島爺:遊びすぎても失礼になってしまうこともあるので、難しいところなんですよね。ナナホシ先生に対しては「ある程度は許してくれるやろ」という思いがあるんですけど、この曲が好きな方々のことを考えると、そこはあまり間違えたくないなと。あくまでも、この曲に対する愛情はしっかり持ちつつ歌わせてもらっています。
――結果的に、中盤の4曲目にあっても浮くことなく、きちんとスパイスになっています。続く5曲目の「失楽ペトリ」は比較的新しい曲ですが、ニコニコ動画でもミリオンを超える大ヒット曲。そして続くのが、いわば“待望のカバー”になった「デリヘル呼んだら君が来た」です。ナナホシさんが“不純異性交遊P”として名を馳せた、ファンの誰もが知る名曲です。
ナナホシ:(笑)。言ってみたら下ネタ系じゃないですか。だから、こういう曲は歌わない、みたいなポリシーがあるのかなと思っていたんですけど、実際はどうだったんですか?
島爺:いやいや、僕も愉快に聴いていましたし、面白い曲を作りはるなぁと。でも、それこそナナホシ先生の代表曲レベルで、たくさんの人が歌ってよく再生されていたのでーー。
――なるほど、自分が歌わなくても……と。
島爺:そうです。この曲調に似合っている声の方もいっぱいいらっしゃいましたし、なんとなくスルーしていただけだったので。ただ、今回の作品を出すにあたって、新規歌唱の曲があったほうがバランス的にいいなと思って探していたら、そういえばこれを歌っていなかったなと。
――そうなると、とっておき感のある1曲がいいですもんね。ナナホシさん、多くの歌い手がそれぞれの表現をしてきたなかで、島爺さんの歌唱はいかがでしたか。
ナナホシ:こだわりがうかがえますよね。いろんな方々がコミカルな楽曲として歌ってくれているんですけど、小技を利かせているところがあったり、本当に曲をよく聴いてはるな、というところです。
島爺:普通に歌ってもなんか違うなぁとなるし、苦労しました(笑)。
ナナホシ:いずれにしても、「ティーチャーティーチャー」とか「ファッキン・フライデー」とか、ロック系の楽曲が並ぶなかで、「デリヘル呼んだら君が来た」という曲が持っている、ロックな部分のミーニングはすごく活かしてくれていると感じました。
――単発の「歌ってみた」作品として動画にするのと、アルバムのなかの一曲として制作するのでは、やはり違うということですね。あらためて聴くと、“ネタ曲”ではなく素直にいい曲だと思いました。
島爺:そうなんですよ。メロディもいいし、曲としてしっかり成立している上に、面白い題材が乗っているという楽曲なんですよね。
ナナホシ:何? めっちゃ褒められてるんですけど、後で金払わないといけない?(笑)
島爺:それはもう当然(笑)。
――そして「デリヘル呼んだら君が来た」の後に、「ティーチャーティーチャー」が来て。あらためて聴くとキャッチーさ以上に強度の高い曲だなと思います。
島爺:パッと聴くとすごくポップで、弾けている感じがあるんですけど、あらためてミックスしてみると、実はけっこうストロングスタイルなんですよね。ずっとリフやん! って(笑)。骨太な部分をメロディラインとかウワモノがきれいに隠していて、逆にもったいないなとも思いました。あとは、ナナホシ先生は歌詞もすごいんですよ。言葉にイメージを持っていかれるというか、これが普通の歌詞だったら、曲の質の部分にも目がいくと思うんですけどね。
ナナホシ:「ナナホシさんは詞だけで売れているじゃないですか」って言われたことあります(笑)。
島爺:(笑)。そういう何段階構造にもなっているのが、ナナホシ先生の魅力だと思いますね。
ナナホシ:多分、飽き性なんですよ。変わったことをしないと飽きちゃうからいろいろやるんだけれど、やっぱり王道を聴いて育ってきたので、最後はそこに絶対に落とし込みたいという。
島爺:確かに、もっと奇をてらったことも全然できるけど、根は真面目な部分があって、あくまで土台がしっかりしているという感じですね。
――続く「帰巣本能-少年by the mile-」は2010年の作品で、ナナホシさんとしては初めて鏡音レンを起用した楽曲ですね。人が歌うことを前提にしていない、ボカロ曲らしい尖った印象があります。
島爺:めっちゃ難しかった覚えがありますね。ナナホシ先生の曲を歌ってきて、「こんなに早口の曲も歌えるんや」と調子に乗っていたんですよ。それで「帰巣本能」を歌ってみたら、全然発音ができへんと。ほんまに死ぬほど歌いました。
ナナホシ:曲調としても、ボカロがすごく盛り上がっていたときのカルチャーの感じだと思うんですよね。ペンタ主体の早口で。僕としては王道を行ったつもりではあったんですけど。でも、この曲は本当に歌わす気はなかったです(笑)。
島爺:お前が歌うんかい!って(笑)。
ーーしかも「歌える」だけでなく、こぶしを利かせたり、しっかり島爺さんらしさが出ていて。
島爺:僕なりの小林旭さんと、僕なりの小林幸子さんを入れているんですよね(笑)。少し演歌チックというか、やりたくなってしまって。
ナナホシ:変なんですよこの人。ただ歌うだけじゃ飽き足りないって。
島爺:ナナホシ先生もちょっとバランス感覚がおかしくて、「あんまりやり過ぎてもあかんか」と思って出した作品が「やりすぎや」と言われるタイプで(笑)。
――お互い、抑えたつもりでもやりすぎている(笑)。
ナナホシ:ユニットだったら本来、どちらかがブレーキをかけないといけないんですけど、このときは本当に好きな球を投げて、好きなように打っていますからね。カロンズベカラズでも、わりとそんな感じですけど。