Benlou、古今東西のポップミュージック愛で紡ぐ“新しさと懐かしさ” 仙田和輝&山本幹宗ならではの化学反応に迫る

Benlouの化学反応に迫る

 ロッキング・オン主催のバンドオーディション『RO JACK for COUNTDOWN JAPAN 20/21」にて優勝を果たした仙田和輝(Vo)と、元The Cigavettesのギタリストであり、くるりやBOOM BOOM SATELLITES、エレファントカシマシ、never young beach、そして、現在は銀杏BOYZのサポートメンバーとして活動する傍ら、アーティストプロデュースを行うなどマルチに活躍する山本幹宗(Gt)によるロックユニット Benlouの6曲入り1st EP『煙』が2月1日に配信リリースされた。

 伸びやかで透明感あふれる仙田のボーカルとエバーグリーンなメロディライン。古今東西の音楽へのオマージュをふんだんに盛り込んだ、山本によるキャッチーかつマニアック(偏愛的)なアレンジ。シティポップやマッドチェスター、ヴェイパーウェーブに令和歌謡と曲ごとに様々に表情を変えるが、その根底にあるのはお互いへの強いリスペクトと、音楽に対する揺るぎない愛情と信頼だ。一回りの年齢差がある二人によるキャリアやリスニング体験の違いが、楽曲の中に程よい緊張感と遊び心の両方を生み出しているのも興味深い。

 「本作はBenlouとしての序章」と山本はインタビューで明かしてくれたが、この先どんな展開が待っているのだろう。生まれたばかりのユニットについて、仙田と山本が語る。(黒田隆憲)

「幹宗さんのアレンジがメロディに新しい可能性を与えてくれた」(仙田)

ーーお二人の出会いはどんな経緯だったのですか?

仙田和輝

仙田和輝(以下、仙田):もともと僕が学生時代にバンドをやっていて、そこでレコーディングをするときにプロデューサーとして幹宗さんを紹介していただいたのが最初の出会いでした。確か2020年の秋だったと思います。とにかく幹宗さんは、僕と比べて幅広く豊富な音楽知識を持っていて、それを踏まえていかにクールに聴かせるか、いかに人を感動させられるかを常に考えていて。自分はバンドの一員として、ただひたすら素朴に曲を作っていただけだったので(笑)、幹宗さんのそういう部分に新鮮な驚きを感じていましたね。

山本幹宗(以下、山本):プロデューサーとして彼のバンドと一緒に作品を作ったとき、仙田のことを「いいメロディメイカーだな」と思ったんです。それで、「バンドをやりつつ違うアプローチもしてみたら面白いんじゃないの?」「もっと曲を書いてみたら?」みたいなアドバイスをしたところ、いい曲を結構送ってくるので「これはイケるんじゃないか」と。

 最初はどういう形でやっていくか決めてなかったんですけど、やり取りを重ねていくうちにどんどん自分の占める割合が増えてきたというか。「これを“仙田のソロ作”として発表していくのはどうなのか?」と思うくらい、人のプロジェクトに対して注ぐ情熱の限界を超えていたので、こうなったらもう自分名義でやった方がより良いものができると思って一緒にやることにしました。

ーー「曲を書いてみたら?」という山本さんからの提案について、仙田さんはどう思ったのでしょうか。

仙田:幹宗さんのアレンジが、自分の作るメロディに新しい可能性を与えてくれると思いました。「こんなスタイルも自分に似合うのか」みたいな驚きや感動が常にあって。もちろん、バンドにはバンドの良さもあったんですけど、自分の楽曲についてさらなる高みを追求したいという気持ちが芽生えてきました。

ーーちなみに仙田さんは、どんなきっかけで音楽に目覚めたのでしょう。

山本幹宗

仙田:自分で音楽を作ったり、歌を歌ったりしようと思ったきっかけはスピッツかなと思っていて。それから彼らと同世代の1990年代の日本のロックを最初はよく聴いていました。そこから時代を遡って、山下達郎さんや竹内まりやさんなど、今で言うシティポップを聴いたり、洋楽ではCarpentersやQueen、TOTOなんかも聴きましたね。

山本:仙田と僕は一回り年齢が離れているんですけど、全然ナウくないんですよ、彼は。

仙田:(笑)。やっぱり家庭環境が大きかった気がします。そのあたりのアーティストと出会った2000年代の頃は、まだ今のようにYouTubeも浸透していなくて。親が車の中で聴いていた音楽を手がかりに、いろいろ好きな音楽を探していたんだと思いますね。それ以降はストリーミングやYouTubeの影響があったと思いますが。

ーー曲作りはいつぐらいから始めたのですか?

仙田:高校三年生くらいだったと思います。その後1年間浪人したのですが、その間にちょこちょことアイデアを書き溜めていって。大学に入ってから知り合いを集めてバンドを組んで、オリジナル曲として完成させていったという感じです。

ーー歌詞はかなり抽象的な表現が多いと感じました。

仙田:作詞に関しては、メロディを考えているときになんとなく映像も浮かんできて。そこに伴う匂いや温度などの質感に合う言葉を、一つひとつ当てはめていって、統一感のある世界を炙り出すというか。そういう書き方をしてきましたね。

ーー作詞をする上で特に影響を受けたのは?

仙田:名前を挙げるとしたら松本隆さん、松任谷由実さん、草野マサムネさん、山下達郎さん、吉田美奈子さんあたりの影響があったかなと。状況描写が鮮やかかつ的確で、そういう方たちの歌詞に感銘を受けたことが自分にとっては大きかったです。

「ただ純粋にいいものを作って提示していく」(山本)

ーー幹宗さんは、仙田さんからデモが送られてきたときにどう思ったのかを、具体的に教えてもらえますか?

山本:仙田が送ってくるデモは、最初から結構作り込んであって。それ自体はそんなに良くなかったんですけど(笑)、メロディがとにかく良かったんです。まずはそれを抽出するところから始まりましたね。そして、その時の自分のモードに基づいてアレンジをしていくという。

ーーつまり、曲ごとにアレンジの方向性も変わっていったと。

山本:そうなんです。「こういうアレンジにしなければ」みたいな縛りも何もなかったし、何となくその時の自分の流行り・やりたいことを素直にやっていく感じでした。どうやったって結局は自分のサウンドになるので、そこは何も狙わず、あえてひたすら軽薄にアレンジしていきましたね。

ーーBenlouは「10年経っても色褪せない音楽。心に寄り添う旋律」がテーマのようですが、そこはご本人たちも意識しているところ?

山本:それって別に“普通”のことじゃないですか。分かりやすいから“10年”と設定しているだけで、例えばThe Beatlesは60年前の音楽ですけど、かっこいい音楽だっていうことは昔も今も変わってなくて。自分たちも(作品を)提示していくというだけ。ただ純粋にいいものを作ってそれを聴いてもらいたいということでしかないんです。

ーーでは1曲ずつ教えてください。M1「深部感覚」はどんなふうに作られたのですか?

山本:元々のデモは、僕がちょうど休暇で熱海に滞在していたときに送られてきて。スパニッシュギターのアルペジオが入っていたり、リズムはトラップだったりして、めちゃくちゃ暗かったのを覚えていますね。海辺でまどろんでいたのに、どんよりと暗い気持ちにさせられました。

仙田:(笑)。

山本:さらにその先で真っ暗なメロディが浮かんできた途端、「なんだこれは!?」って(笑)。聴いているうちに、もうちょっと楽しげで軽快なホーンセクションのアレンジが思い浮かんだので、試してみました。熱海滞在中はシカゴの曲をよく聴いていたので、その影響もあったと思います。レコーディングでは、最初からドラムは(屋敷)豪太さんに叩いてもらうつもりでいましたね。

ーーM2「煙」は?

山本:これも熱海にいるときに仙田から送られてきたデモを聴いたんですけど、今よりもっとBPMも遅くてハードロックみたいな雰囲気もあって。メロディがすごくいいなと思いましたね。ただ、なんか救急車のサイレンみたいなシンセの音が入っていたのは、すごくびっくりした。

仙田:(笑)。

山本:なのでテンポを上げて、これもホーンセクションを加えようと。僕はメロトロンに入っているブラスの音色がすごく好きで、それでデモを作っていたんですよ。太くて攻撃的なかっこいいサウンドになったし、間奏のフレーズを思いついたときに「これはやったぜ」と思いました。レコーディングでは本物のホーンセクションに差し替えるか、それともこのままメロトロンの音色でいくか悩んだのですが、結果的に生音のホーンに差し替えて良かったなと。新しさと懐かしさが入り乱れた不思議なアレンジになったと思います。

ーーこの曲は、どこまでも駆け上がっていくようなメロディがとても印象的です。

仙田:メロディ自体は以前からアイデアとして頭の中にあって、それをブラッシュアップしていくうちに「こんなふうに歌ってみたい」という具体的なイメージも湧いてきました。

山本:それをうまく形にするまで、歌録りだけでも丸3日かかりましたけどね(笑)。なかなかOKテイクが出なくて。ただ、おっしゃるようにこの曲のメロディは本当に良かったので。デモを聴いたときに「これは俺がなんとかしなければ」と思った。それまでは本腰を入れて取り組むつもりもなく、ちょっと引いたところからアドバイスをしていた程度だったんですけど。

Benlou - 煙 [Official Video]

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