寺嶋由芙×いしわたり淳治、新曲「恋の後味」で実現した再タッグ 作詞のポイントや過去作のエピソードを語り合う

寺嶋由芙×いしわたり淳治対談

 ソロアイドルの寺嶋由芙が、シティポップサウンドに挑戦した新曲「恋の後味」がリリースされた。作詞を手掛けたのは、「わたしを旅行につれてって」や「知らない誰かに抱かれてもいい」でもタッグを組んだ、いしわたり淳治。別れた恋人との偶然の再会を描くこの楽曲は、たった10数分間に起きた出来事を切り取りながら、二人の間の過去と未来も同時に想起させるという、まるで短編映画を見ているような没入感を聴き手にもたらしている。ジャンク フジヤマと神谷樹による、甘酸っぱくもほろ苦くもあるメロディを「アイドルっぽさ」をあえて抑えて歌う、大人のゆっふぃーにも注目だ。国語が好きで、大学では文学部に所属していたという寺嶋。いしわたりの「作詞術」に迫る、二人の貴重な対談をお届けする。(黒田隆憲)【記事最後にプレゼント情報あり】

寺嶋由芙&いしわたり淳治対談

「完全なフィクションが書ける」という楽しさ

──新曲「恋の後味」で、いしわたり淳治さんに作詞を依頼することになった経緯を教えてください。

寺嶋由芙(以下、寺嶋):まずは、シティポップに初挑戦することが先に決まったんです。きっと洗練されたオシャレなメロディになると思うから、それに似合う素敵な大人の歌詞をいただけたら嬉しいなと思ったときに、真っ先に浮かんだのがいしわたりさんでした。

寺嶋由芙
寺嶋由芙

──ちょっと懐かしい雰囲気のアレンジやサウンドプロダクションが印象的な楽曲です。寺嶋さん自身は、この辺りのサウンド、音楽についてどんな印象を持っていましたか?

寺嶋:正直なところ今まであまり聴いてこなかったタイプの音楽で、ちゃんと歌いこなせるかなという不安は少しありました。でもヲタクのみんなは「待ってました!」みたいな感じで楽しみにしていてくれたので、自分に似合うと思ってもらえているのかなと思って嬉しかったですね。

──例えば松田聖子や菊池桃子が1980年代に歌っていた楽曲は、松任谷由実や林哲夫、細野晴臣、松本隆などいわゆるシティポップと言われていた音楽を手掛けていた人たちでした。そのあたりのアイドルソングは聴いていましたか?

寺嶋:もちろん、松田聖子さんや菊池桃子さんの楽曲は聴いていました。でも、それを「シティポップ」というジャンルとして捉えていなかったのだと思います。「恋の後味」を歌うにあたって、プロデューサーの加茂啓太郎さんからいくつか参考曲をいただいたんですけど、そのリストを見て「これもそうなんだ」みたいな。例えば父親が谷村有美さんとかが好きで、小さい頃から聴かされて育ってきたのですが、それもシティポップに入るんだなって、今まさに学んでいるところですね。

──ちなみにいしわたりさんは、いわゆる「シティポップ」と呼ばれる音楽について、どんな印象をお持ちですか?

いしわたり淳治(以下、いしわたり):例えばInstagramって、自分の生活の中で一番キラキラと輝いている部分を載せている場所だと思うんです。きれいなところにフォーカスするという意味では、シティポップという音楽が持つ雰囲気とすごくマッチしている。そういう意味で、今の時代にも噛み合ったのだろうなという気がします。

寺嶋:なるほど! 確かに、オシャレな生活のBGMにはシティポップが似合うから、現実逃避というと違うのかもしれないけど、より素敵なところを見せたい、素敵なところを見ていたいという気分とマッチするのはすごくよく分かります。

いしわたり:ただ、この曲に歌詞をつける際に「きれいなだけでは終わりたくない」という気持ちがあって。それが多分〈私を恨んで〉というワードにつながってきていると思います。ちょっとハッとさせたいというオファーを受けていましたし。

いしわたり淳治
いしわたり淳治

──もともとお二人はどのような経緯で一緒にやることになったのでしょうか。

寺嶋:最初は「わたしを旅行につれてって」(2017年)という曲を書いていただいたんです。加茂さんから「歌詞はぜひ、いしわたりさんにお願いしたい」と言われて、「え、無理でしょ?」と思ったのを覚えていますね(笑)。だって恐れ多いじゃないですか。

【MV】寺嶋由芙「私を旅行につれてって」

いしわたり:そんなことないですよ(笑)。

寺嶋:なのであまり真に受けてなかったんです。私の場合、いしわたりさんのお名前を最初は「作詞家」として知って、そのあとSUPERCARを知ったんです。なので、「今度いしわたりさんに歌詞をお願いしました」と話すたびに、アイドルヲタクたちが「え、あのいしわたりさん?」って驚いている様子を見て、どんどんその凄さを思い知らされた感じでしたね。ヲタクたちや、私のスタッフさんたちが青春時代に聴いていたのがSUPERCARだったので、みんなすごく喜んでくれていました。

──当時いしわたりさんは、寺嶋さんにどんな印象を持っていましたか?

いしわたり:オファーをいただく前から、加茂さんが寺嶋さんのプロデュースをしているという話は聞いていました。当時はもちろん、今もそうだと思うのですが、ソロで活躍しているアイドルってほとんどいないじゃないですか。そういう意味でも存在としてユニークだなと。

──今まで一緒に作った作品の中で、特に印象に残っているものを挙げるとすると?

いしわたり:真っ先に思い浮かぶのが「知らない誰かに抱かれてもいい」(2017年)ですね。すごいタイトルだし、「ファンは大丈夫なんですか?」って心配だったんですけど、ライブで寺嶋さんが〈今夜 知らない誰かに抱かれてもいい〉とサビを歌うと「俺も!」ってコールが返ってくると聞いて、ファンってたくましいなあと感心したのを覚えています(笑)。

【MV】寺嶋由芙「 知らない誰かに抱かれてもいい 」

寺嶋:ヲタクたちは全然へっちゃらで乗りこなしてくれています(笑)。

──これまでは、どんなプロセスで曲を作ってきたのですか?

寺嶋:「わたしを旅行につれてって」のときは、加茂さんにお任せだった気がします。次の「知らない誰かに抱かれてもいい」の時は、「次は失恋ソングがいい」とリクエストしたと思います。2017年の最初にリリースしたシングルが、「天使のテレパシー」という出会いの季節を感じさせるような楽曲で、夏に「わたしを旅行につれてって」が出たので、出会って恋愛が始まり秋冬に別離がくる流れにしたいなと。

【MV】寺嶋由芙「天使のテレパシー」

 この3つの曲の主人公が同一人物だとは、はっきりと明言はしていないんですけど、何となくそういう一連の流れを感じさせるものにしたら面白いんじゃないかなと思ったんですよね。「この主人公が、そのまま幸せになっていくか失恋するかどっちがいい?」と聞かれたときに、「失恋でお願いします」って。

いしわたり:結果、どんどんショッキングな展開になっていきましたね(笑)。「知らない誰かに抱かれてもいい」なんてワードをどうやって思い付いたのかはちょっと覚えていないです。加茂さんはかなりノリノリでリードしてくれましたけど。

 とにかく、寺嶋さんとの制作現場では「完全なフィクションが書ける」という楽しさがありました。しかも主人公が同一人物っぽかったり、ちょっと連作的な作り方ができたことも自分にとって貴重な経験でした。

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