GLAY TAKURO、人の心を癒すために音楽でできること ソロアルバムに込めた穏やかな日常への祈り

TAKURO、穏やかな日常への祈り

 GLAYのリーダーにしてメインコンポーザーであるTAKUROが3作目のソロアルバム『The Sound Of Life』を完成させた。

 1stアルバム『Journey without a map』、2ndアルバム『Journey without a map Ⅱ』は、ジャズやブルースなどを基調としたギターインスト作品だったが、本作のテーマは“ヒーリングミュージック”。全曲ピアノで作曲され、コンポーザーとしての資質が色濃く反映されているのもこのアルバムの聴きどころだろう。

 アルバム全曲のアレンジャーとしてグラミー受賞者のJon Gilutin。チェリストのEru Matsumoto、ボーカリストのDonna De Loryなども参加し、穏やかな癒しをたっぷりと体感できる本作。ロシアによるウクライナ侵攻が発端となったという制作プロセスを軸に、GLAYとソロ活動のバランス、この時代におけるメンタルヘルスの重要性など幅広いテーマについて語ってもらった。(森朋之)

ヒーリングミュージックで表現したTAKUROの心象風景

GLAY TAKURO(写真=藤本孝之)

――ソロアルバム第3弾『The Sound Of Life』のテーマは、ヒーリングミュージック。ジャズ、ブルースを軸にしたこれまでの作品とはテイストが異なりますが、制作当初から明確なビジョンがあったのでしょうか?

TAKURO:ありましたね。制作した時期はGLAYの最新シングル『Only One,Only You』とほぼ同じなんです。あの楽曲も今回のアルバムも発端は、ロシアによるウクライナ侵攻。日々ニュースを見ながら感じたことを今の時代に対するメッセージとして表現したのが「Only One,Only You」だったんですよ。『The Sound Of Life』は、あまりにも重い現実を受け止められない自分に対し、気持ちを落ち着かせ、癒してくれるような音楽を作りたいと思ったのがきっかけですね。

――両作品とも戦争が起きてしまったことに対する反応がもとになっているんですね。

TAKURO:はい。平和への祈り、1日でも早く穏やかな日常を取り戻してほしいという願いも込めているし、作品を作るだけではなく、具体的なアクションができないだろうかと模索した1年でしたね、2022年は。

――『The Sound Of Life』の楽曲は、ピアノで作曲したそうですね。

TAKURO:“ギタリスト”や“バンド”にとらわれない形で音楽を生み出したかったんですよね。アルバムに収録されている10曲は、ピアノに触って4日間で作曲したんですよ。そのイメージを共有して、一緒に作品を作ってくれるパートナーを探したところ、知り合いを通じてJon Gilutinを紹介してもらって。Jonは80年代、90年代に日本のミュージシャンとも数多く仕事をしているんだけど、何十年もヒーリングミュージックに取り組んでいて。大先輩のサポートを受けられたのは、すごくよかったですね。僕が作ったデモ音源をJonに渡して、いろいろとアイデアをもらって。行き詰まることがあると、「君の作品なんだから、感じるままにやればいい」という励ましをもらったり。音楽以外のこともたくさん話して、世界が広がった感覚がありました。チェリストのEru Matsumotoさん、ボーカリストのDonna De Loryが参加してくれたことも大きかったですね。

――レコーディング風景を撮影した映像を拝見しましたが、ファミリー的な雰囲気のなかでの制作だったようですね。

TAKURO:本当にそうなんですよ。Jonの自宅スタジオでレコーディングしたんですけど、録音ブースとコントロールルームが分かれていなくて、「そこで弾いて。みんな静かにしててね」という感じで。クリックも使っていないので、テンポがズレることもあるんだけど、まったく何の問題もなく。このアルバムにふさわしい録り方だったと思います。僕がやろうとしていることを、関わってくれる人たちがしっかり理解してくれて。「音楽で何かが変わるわけではない。それはわかっているけど、この思いを世界に届けたい」。そんな心持ちでしたね。制作中は自然体でいられたし、落ち込んでいた心をチアアップできたというか。「よし、がんばって行動を起こそう」という気持ちにもなれたし、もしかしたら自分がいちばん癒されたのかもしれないですね。

GLAY・TAKURO『The Sound Of Life』ジャケット
TERUが描き下ろした『The Sound Of Life』ジャケット

――本作の中心にあるのは、TAKUROさんが生み出したメロディだと思います。

TAKURO:たしかに作曲家としての自分が出ていると思いますね。GLAYの場合はTERUというシンガーがいるので、“あて書き”なんですよ。今回はそういう枠はなく、自由にメロディを生み出そうと。アルバムの最後に入っている「In the Twilight of Life (featuring Donna De Lory)」はDonnaの声を想像して曲を書きましたけど、それ以外は音楽を作るというより、水彩画を描くような感覚だったんです。イメージとしては、水のなかに小石を投げ込んで、その波紋を切り取るようにメロディを掬い上げるというか。先ほどもお伝えしたように僕はピアノを弾きこなせるわけではないので、勝負できるとしたら音符の運びなんです。不器用ながらも一つずつ音を置いていって、「この流れはいいな」と思えるものをひたすら探して。自分にとっての美しさも大切なんですが、「家族が喜んでくれるかな」「GLAYのメンバーが楽しんでくれるだろうか」ということも意識しながら、少しずつ世界を広げて。もちろんウクライナへの思いもあるし、2022年の自分の心象風景が反映されている作品でもあります。アルバムのジャケットはTERUにお願いしたんですが、2日くらいで描いてくれて。

――すごく自然な筆の流れが感じられる“絵画”ですね。

TAKURO:自然とイメージを共有できていたのかなと。そこは流石ですね。

GLAYにふさわしくあるために 自分の能力を点検することは欠かせない

GLAY TAKURO(写真=藤本孝之)

――『The Sound Of Life』の楽曲に入っているギターは、ナイロン弦の優しい響きが中心。

TAKURO:ギターを入れるつもりはなかったんですが、Jonから「あってもいいんじゃない?」というアドバイスがあって。結局、全曲、弾いてます(笑)。至らないフレーズもあるかもしれないけど、そこはいい意味で開き直って、「でも、これが今の俺だしな」と。たとえばスパニッシュギターの名手の方に弾いてもらったら、音楽的にはもっと良くなると思うんです。でも、このアルバムを作った目的は「自分の音楽で聴いてくれた人の心を癒したい」ということだから、他の人にギターを弾いてもらうのは違うんですよね。ほら、映画監督が自分の作品にちょっとだけ出演することがあるじゃないですか。俳優としてそれほど上手いわけではなくても、「このシーンは自分で出たい」っていう。あの感じにちょっと似ているかもしれないです(笑)。

――テクニカルな奏法も抑えめですよね。

TAKURO:商業的な作品であれば、刺激を加えたり、リスナーをビックリさせるような仕掛けを作ることもあるけど、今回はそういう動機ではないので。Jonが小技を使おうとしたら、「それは違う」とお互いに修正し合っていたんですよ。Eruさんにも「自然と一体になるようなチェロを弾いてほしい」と伝えたし、その感覚は忘れないようにしようと。波の音や雷の音を入れた曲もあるように、なるべく人工物にならないように、あるがまま、導かれるままに音を重ねて。僕らはちょっとだけ手を加えただけなんですよね、本当に。あとは時間の概念についてもよく考えていましたね。

――時間の概念というと?

TAKURO:時間というものを決めたのは人間で、時間に縛られているのも人間だけじゃないですか。もちろん目的があって発明されたものだけど、人間以外の生き物は時間にとらわれずに存在しているし、そう考えると、自然界に時間は存在しないとも言える。たとえば滝の流れだったり、水や風の音は、100年前も100年後も同じですから。そういう意識を持つことで、また違った音楽が作れる気もするんですよね。時間に対する考察もこのアルバムには影響を与えていると思うし、壮大な心の旅をしていた数カ月でした。

GLAY TAKURO(写真=藤本孝之)

――なるほど。当然ですが、GLAYの楽曲とソロ作品ではまったくアプローチが異なるんですよね。

TAKURO:ソロは修行の場なんですよね、大きく言うと。自分の中の順番は上から“作詞、作曲、ギター”なんです。得意かどうか、好きかどうかではなく、自分の人生においてもっとも重きを置いているのは“日本語を綴る人”であること。次に“良いメロディを探す人”、そして、“ギター好きの少年から今に至る自分”という順番で、それはずっと変わらない。『Journey without a map』は、ギタリストとしての自分の立ち位置をもう一度確かめたかったんですが、今回の『The Sound Of Life』は、作曲家としての修行をさせてもらったというか。あえて上手く弾けないピアノで作曲したこともそうだし、ロックミュージックやポップス作家としての自分ではない、もっと大きな意味で作曲家としての自分を見直したいという思いもありました。

――ただ自分の好きなことを自由にやる場所ではない、と。

TAKURO:ありがたいことに、GLAYというバンドでやりたいことはやらせてもらっているので。ソロは好きなことをやるというより、GLAYにふさわしい人間であるために、技術者としての自分の能力を点検するという意味合いもあるんですよ。最初の課題はギターで、2作のソロアルバムを通して、少しはマシになったと思っていて。今回は作曲ですよね。メロディや作曲の幅をさらに広げることで、「手癖で作ってる」「またこういう感じか」ではなく、メンバーに「やっぱりTAKUROはいい曲を書くよね」と思ってもらいたいので。

――今回のアルバムで得たものも、いずれはGLAYに還元される?

TAKURO:そうだと思います。制作中はひたすら没頭していましたが、今回のレコーディングで得られたものがバンドに必要になることもあるだろうし。GLAYが輝くためにはそれぞれの努力が不可欠だし、「自分はどんな貢献ができるだろう?」と常に考えているので。そうしないと、スキルを上げ続けている3人に申し訳ないですから。

――『The Sound Of Life』に対するメンバーの反応も気になりますか?

TAKURO:いや、どうですかね。褒められたらうれしいけど、ヒーリングミュージックだし、HISASHIは興味ないんじゃないかな(笑)。この前、JIROに「いつも新しいことに挑戦してるのはすごいよね」って言われたのはうれしかったですけどね。

TAKURO / Red Sky

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