木村カエラ、多彩な人と惹き合いながら見つけた新境地 “未完成の美しさ”を愛せるに至った心境とは?

「心は実体がないけど“見つめてあげること”が大切」

ーーその後に、自作曲が2曲入ってますね。9月のライブハウスツアーでも披露した「ノイズキャンセリング」はどんなところから生まれた曲でしたか?

木村カエラ:家にいるときに浮かんだ鼻歌から作った曲なんだけど。何度か緊急事態宣言が出て、家から出ないでくださいってなったときに、ニュースを見ていると暗い話題しかないし、誹謗中傷に関する事件も多くて。その中で、やっぱり目で見たり、耳で聞くものは大事なんだなって感じたんですよね。悪いものを見たりすると、その色に自分が染まっていって、黒い穴の中に入って出てこれなくなる感じがして。もうそんなのイヤだなと思って、その頃からニュースを見なくなって。そこから出てきた曲でしたね。

ーー心がテーマになっています。

木村カエラ:デビュー前から、私は常に心と向き合って歌詞を書いていて。本当に心って実体がないからわからないんだけど、とにかく見つめてあげること、感じてあげることが大事なんだよなと思ってて。さらに、実体はないけど“心”っていう名前がついてて、文字で書いたら“恋”は心が下についてるから“下心”って言うけど、“愛”は心が真ん中にあるから“真心”だっていうでしょ。“優しい”とか、大事な言葉のときに心は真ん中にあるの。そういうのを自宅待機中に見たりとかして、面白いなと思って。でも、なんでここ(自分の胸を指差して)なんだろうって。魂も形としてないから、心は魂なんだな、みたいなことを考え始めて。

ーーうん、うん。

木村カエラ:さらに「なぜ、心を見つめてなきゃいけないのか?」って考えたら、やっぱり見つめないで無視してると、心は黙り始めるじゃん。石みたいに固まり始めるから、本当にここの声を聞いてあげないといけない。それを聞かないでおくと、どんどん体から離れていって、ひゅるひゅるって、死んじゃう。

ーー死んじゃう?

木村カエラ:そう。心を無視していたら死んじゃうんだなと思ったの。だから、心は体の真ん中に入れておかないとダメなんだって。そんなことを考えながら、「ノイズキャンセリング」を作りました。まあ、全然そんなこと歌詞に書いてないですけど(笑)。

ーー(笑)。耳を塞いで、自分の心の声に耳を澄ませて、自分にとって本当の幸せや本当の気持ちを聞こうっていうことは書いてありますね。では、もう1曲「ありえないかも」は?

木村カエラ:外に洗濯物を干したのに、雨が降ってきて。「わー、めんどくさい」と思いながらピアノを弾いていたら、できた曲ですね。人様からいただいた曲だと、Bメロで同じ歌詞を使ったりしないの。でも、ピアノを弾きながら歌ってるときに気持ちよかったから、同じ言葉でいいやって。そういう抜けた部分がすごく自然に出てきてて、面白いなと思ったし、楽しかったです。

ーーラブソングですよね。

木村カエラ:そうだね。女の人が聴くと、すごいキュンキュンするって言うけど、男の人が聴くと不安になるって言ってた。「何? 浮気してんの?」みたいな。バンドメンバーも「好きなのか好きじゃないのか、どっちなのかわからなくて不安になる」って言ってましたね。

ーー〈ツインレイ〉と言ってるのに、〈ありえないかも〉という語尾のニュアンスだから、わからないのかな。

木村カエラ:そう、わからないんだなと思って。「何でわかんないの?  じゃあ、私もわかんないですね」って、適当にあしらっちゃったんだけど、照れ隠しみたいな感じだよね。「ありえないんですけど~」みたいなギャルのテンションで書いている状態です。

ーー(笑)。自作曲で2曲とも雨が降ってるのはどうしてですかね。

木村カエラ:実際に雨が降ってたんだけど、悲しいときの雨と、自分の何かを流してくれるときに浮かぶ雨と2パターンあるかな。私、雨からの晴れが、心みたいで好きなんですけど。

ーー「Sun shower」はまさにそんな曲でしたね。

木村カエラ:雨はいつも味方な感じがするんですよね。悲しいときにバーっと降って、一緒に「悲しいよね~」って言ってくれるときもあれば、汚れを綺麗に洗い流してくれるときもある。だから、自分で作る曲ではキーワードになるのかもしれない。今回、雨っていうキーワードが両作にあったから、「ノイズキャンセリング」の後は雨の音からクロスして「ありえないかも」に繋げてもらったりしてますね。

ーー続いての「たわいもない」は、iriさんが作詞作曲で、コーラスにも参加してます。

木村カエラ:AIちゃんもそうだけど、私、強い女性の雰囲気がある人が好きなんですよ。iriちゃんもサバサバしてるイメージがあって、声もカッコいいので、一緒にやりたいなと思って。リモートでしか打ち合わせをできなかったんだけど、「iriちゃんにお任せします」って言ったら、「カエラさんにはすごいぶっ飛んでる感じのやつをやってほしいです」って言われて。それでiriちゃんは、私が歌ったら面白いだろうなと思うものを作ってくれたんだけど、これがすごい曲で。

ーーアルバムの中ではかなりダークだし、声も低いですよね。

木村カエラ:いつもなら歌詞は自分で書きたいってなったりするもんだけど、今回は楽しそうに思うことはもう躊躇しないようにして。投げてみたら、iriちゃんしか歌えないんじゃないのって思うような難しい曲がきて。彼女は声が低いじゃない? でも、その部分に挑戦できて、面白かったですね。

ーー歌でグルーヴを作っていくようなノリがありますよね。

木村カエラ:だから、体に馴染むのに時間がかかりました。歌録りを始める前に何回も歌って。テンポの取り方も独特で、それも新鮮だった。新しい歌い方だけど、「TREE CLIMBERS」みたいな、しのっぴ(渡邊忍)が作ってくれるような畳みかける低い音のAメロ・Bメロに近い雰囲気もあって。だけどロックやパンクの世界は前ノリじゃん。SANABAGUN.もそうなんだけど、iriちゃんの曲は後ろノリな感じ。だから「私、ラッパーになるのかな?」って思ったんだけど(笑)。

ーーAI、SANABAGUN.、iriはブラックミュージックがルーツですからね。でも、カエラさんのラップだけのアルバムも聴いてみたいと思いました。

木村カエラ:あははは。ラップはBIMくんとやったときに、めっちゃ楽しいじゃんと思って。口が回らないけど、言えたときの面白さが私の好きなおまじないと一緒というか。そのワクワク感はBIMくんから刺激を受けてるし、iriちゃんもラップを入れてきたから「嘘でしょ。歌えるかな?」って思ったけど、すっごく好きな世界なんだよね。

ーーカエラさんは昔から映画『メリー・ポピンズ』が好きですよね。

木村カエラ:「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」でしょ?  私、ラップって全部ああいうおまじないみたいに聞こえるんだよね。やっぱり難しいしラップはできないんだけど、とにかく挑戦をしてみました。

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