POP ART TOWNが考える“ポップ”の定義 この3人だからこそ表現できるスタイルへの自信

 大阪を拠点に活動するポップスバンド、POP ART TOWN。バリエーション豊かな音楽性を「ポップ」という柱で貫き生み出される楽曲はどれもハイクオリティ、これまで2枚のアルバムをリリースし、サブスクのプレイリストなどを通してファン層を拡大してきた、今注目を集める3人組だ。

 そのPOP ART TOWNが3rdアルバムを完成させた。タイトルは『ART MUSEUM』。曲の振れ幅という意味でも、それをまとめ上げる完成度という意味でも現時点での最高傑作。全12曲というボリュームで彼らの魅力を堪能できる1枚となっている。

 今回、そんな3人にリアルサウンドで初めてインタビューを行った。想像ではもっとほんわかとしたバンドだと思っていたのだが、意外やそうでもなかった。そしてそうではないところにこのバンドのおもしろさはあるとも感じた。信念と情熱を込めて新しい世代のポップスを生み出し続ける彼らに、アルバム制作の裏側とライブへの意気込みを聞いた。(小川智宏)

メンバー間の距離が離れたからこそやりやすくなった

――POP ART TOWN3枚目のアルバム『ART MUSEUM』がリリースされます。作品を出すごとにリスナーも増えてきたと思いますが。

キタノコウヤ(以下、キタノ):この1年間でメンバーの脱退があったり、ドラムのしゅんさんが拠点を東京に移したりして、バンドの環境自体が変わったんです。それで制作がどうなるかなという不安もあったけど、自分たちのペースでちゃんとリリースをして、曲も作ってということができたし、意外と僕たちすごいなと思いました(笑)。

――メンバーが抜けたり、メンバー同士の距離が離れたりというのはバンドにとって大きな変化ですよね。

キタノ:普通はヘコんだりするんじゃないかなと思ったし、実際にヘコみましたけど、ちゃんと自分たちの表現をし続けられて今回のアルバムが完成したので。楽曲自体にそんなに影響はないと思うんですけど、心境の変化はもしかしたら出ているかもしれないですね。

しゅんさん

――しゅんさんは東京に移って離れ離れになって、やりづらさは感じなかったですか?

しゅんさん:正直に言うと今のほうがやりやすいかもしれないです。大阪にいたときは週3とか週4で会っていたので、いくらメンバーとはいえちょっと慣れすぎてしまっている感じもあったんです。今はライブの時とか、たまに僕が大阪に行って話をするとかで、会うのは多くて月3回とかなので。すごくちょうどいいですね。

――今回のアルバムに向かっていくなかで「こういう作品にしよう」みたいなイメージはありました?

キタノ:僕たち、基本的に配信リリースで定期的に出していくバンドなので、アルバムとしてのコンセプトというのは特になくて。だから最終的にアルバムにまとめるときにすごく困るんです(笑)。今までの作品も全部そうなんですけど、本当にバラエティ豊かで。もうそのときに作りたいものを作るっていう感じで、今回でいえば最後に3曲新曲を入れたんですけど、そこでアルバムとしてのまとまりを調整していくみたいな感じです。

――では逆に、アルバムにまとめてみたときに、自分の成長や変化を感じますか?

キタノ:そうですね、成長も感じるし、「なんで自分、こんなアレンジにしたんだろう」っていうのもあって。1年間でやっぱり人って変わるので、「なんでこれで完成としたんだろう?」って思うこともあります。でもこうして並べてみると楽曲の印象も変わるし、並べるってなったらやっぱりちゃんと流れを考えるし。今回の曲順はなるおさやか(Vo)が決めてくれたんですけど、通して聴くと感じ方が違ったりもするので、いいアルバムになったなと思います。

――今回の曲順、めちゃくちゃいいですよね。

キタノ:すごくいいと思います。なるおさやか、ありがとう(笑)。

ーーなるおさん的には今回のアルバムはどんな作品になったと思いますか?

なるおさやか(以下、なるお):それこそメンバーの脱退とか、この1年で環境がガラッと変わって。6月にワンマンライブをしたときに、なんとなくPOP ART TOWNの第1章が終わったような感じがして。メンバーが脱退して初めてのワンマンだったんですけど、やってみたらすんなりできて、ここからもうちょっとステップアップできるんじゃないかなって思って。そうやってひと区切りしたと感じたら、アルバムのタイトルに自分たちの名前を入れたいとずっと考えていたので、今回『ART MUSEUM』という名前にしました。

自分の心境を素直に歌詞にできた

なるおさやか

――1つの節目というか集大成というか、すごく大事なアルバムなんですね。その第1章を終えて、どういう部分に変化を感じますか?

なるお:私は、3〜4年前の自分と比べると歌詞で書くことが変わったなとすごく思います。昔の自分は「おしゃれな曲にせな」っていうのがあって、自分の殻を破る機会がなかったんです。でも今はもうちょっと自分のことを書いてもいいかなって思っていて。自分の心境だったり、今まで書いたことのなかったようなことも言葉にしています。

POP ART TOWNー「強がりは赤いリップなら」(Music Video)

――サウンドも歌詞も変わったから、結果的に歌もすごく変化していますよね。よりエモーショナルになったというか、表情が豊かになった感じがして。なるおさんが書いた「強がりは赤いリップなら」の歌詞とか、すごくいいですよね。

なるお:あの曲は結構さらけ出しましたね。あれを書いた時期が気分的にどん底だったので。そういう気持ちを歌詞に書くのって聴いている人からしたらどうかなとも思ったけど、歌詞を書く以外に言葉にして自分をさらけ出せる場所が全然ないし、歌詞にすることで自分が思っていた以上に「私こういう気持ちでいてるんだな」という気づきもあったりするので。こうやって歌にして聴いてもらえるというのはやりがいかなと思います。

キタノコウヤ

――そうなることで、POP ART TOWNの音楽のなかでなるおさんの存在感がグッと前に出てきた感じもするんですよね。歌の表現の幅も広がった印象です。

なるお:ああ。私はめっちゃK-POPが好きで、音楽も聴くし、練習風景の動画とかもよく観るんです。それを観て「自分も変わらな」と思って、ちょっと練習してみたりとか、腹筋を鍛えてみたりとかして。

キタノ:確かにライブ前の発声練習とか、歌に対する意識は上がっている気がする。

――「Tell me Tell me」とか、それこそ今にも踊り出しそうなパワフルな歌になっていますよね。

キタノ:すごく難しい曲だったと思うので、今回特にチャレンジだったんじゃないかな。自分でも作っておいてなんですが、どうしたらいいかわからないじゃじゃ馬感があって。なんとなく僕の頭の中では完成形が見えてたんですけど、そこにたどり着くまでのプロセスが僕の引き出しの中になくて。作りながらいろんな曲を聴いて取り入れて、最終的にできあがった感じです。でもこの曲のおかげですごく成長しました。どうやったらこの曲に迫力が出るんだろうとか、ギターをどうやって入れたらいいんだろうとか考えて、幅がぐっと広がった気がします。

なるお:歌録りはすんなりいったけど、コーラスが大変だったね。

キタノ:コーラスも苦手だったんですけど、今回のアルバムでそのコツを掴みました。最後にこの曲のコーラスを録ったんですけど、「どうする、ここ?」ってアレンジしながらスタジオでちょっと揉めそうになったりして。がんばったね。

なるお:本当に。いつも泣きながらやってます(笑)。

キタノ:すごく過酷なんですよ、うちのレコーディング。

――そういうチャレンジが今回たくさんあったわけですよね。でも全体を通して聴くとすごくまとまって聞こえるのがおもしろいところで。言ってしまえば“バンド感”がより出ている感じもしたんですけど。

キタノ:それはこの6年間でついた自信というか。どんなジャンルの曲を作ってもちゃんとPOP ART TOWNになるんだなっていう自信がついていたから、今回はチャレンジもしやすくなったんだと思います。楽曲の幅もこれだけ広げても大丈夫なんだ、なるおが歌って僕らが演奏すればちゃんとPOP ART TOWNになるんだっていう。だからこれからもっといろんな楽曲にチャレンジしていけると思うし、その第一歩というかがこのアルバムなのかなと思います。

――なるほど。たとえば「Fanfare」はすごくストレートなバンドチューンになっていますよね。

キタノ:もともと僕たち、ギターロックも好きな人たちなんで。あれはそういう曲を作りたくなって作ったんですよね。直接お会いしたことはないんですけど、少し前に赤い公園の津野米咲さんが亡くなってしまったじゃないですか。僕、赤い公園の曲も好きで、「紺に花」が特に好きなんですけど、自分の中にもちょっとでも米咲さんのエッセンスみたいなものが入ってくれたらいいなっていう思いもあって。特に親交があるとかではなかったのですが、尊敬すべき1アーティストがいなくなってしまったのがショックだったので、それで作った曲ですね。

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