H ZETTRIOの魅力を2つの現場から紐解く 『ソクドノオンガク』収録スタジオ&ライブに潜入取材!

 H ZETTRIOのライブは熱心なファン以外でも、例えば『フジロック』などのフェスで見て、度肝を抜かれた、出演する際はチェックするという人も少なくないだろう。瞬時に初見のオーディエンスを巻き込み、盛り上げる曲のユニークさと演奏スキルの高さは、体験した人なら何度でも見たくなる性質のものだ。そこで今回、未見のリスナーに向けて、H ZETTRIOというジャズを基盤に持ちながらも、あらゆるジャンルを消化する音楽的筋力を持つバンドの魅力を二つの現場を通じて検証した。一つは2018年からスタートした、日本の名曲の数々をカバーする『SPEED MUSIC ソクドノオンガク』(テレビ神奈川)収録スタジオ、もう一つは現在開催中の全国ツアー『H ZETTRIO Kazemachizuki Tour 2022 -レソラピック-』の10月23日・埼玉公演。本人たち、そしてファンのコメントも交えながら、バンドの個性と魅力を探ってみたい。

アレンジに限界はない? 『ソクドノオンガク』で見えた凄さ

 某所で行われている『SPEED MUSIC ソクドノオンガク』の収録のタイムスケジュールを見てまず驚いた。1曲につき、リハーサル込みで30分。しかも本番は1テイクで決まることもままあり、多くても3テイクほどで、スピーディーに収録が進行する。向かい合う陣形で演奏する3人はスタジオリハの段階では最終確認をする程度で、会話もすることなく本番で一発OKを出すことがほとんど。驚異のスピードである。「曲を料理するスピードはめちゃめちゃ速いと思います。リハでも2回くらいしか演奏しないですし、あっという間に出来上がる(笑)。これ以上は速くできないんじゃないか? と思うぐらいの速さです」とH ZETT NIRE(Ba)。料理に例えるとアイデアは食材のようなものかもしれない。H ZETT KOU(Dr)も言う。「曲のテンポもそうですけど、我々の瞬発力によりますね。『はええ! 面白え!』っていう。注文を聞いてすごい勢いでバン! ってお客さんに提供する寿司屋のような、イキのいい感じを楽しんでいただければ」。

 さらに、「現場現場の対応力や音楽的な筋力は、(番組を)継続することで最初の頃よりついた気がしますね」(H ZETT NIRE)と、このシリーズで鍛えられた部分もあるという。ただ、物理的な速度にこだわらないアレンジが今回の収録でも聴くことができた。この日収録されたうち、12月オンエア分のお題である2曲が永井真理子「ZUTTO」と、中西保志「最後の雨」。その理由は「このシリーズが始まった当初はテンポの速さを意識してたんですが、だんだんテンポより楽しくやることの方が面白くなった」(H ZETT M/Pf、Key)という進化の部分が大きそうだ。

 「ZUTTO」では、後半にはランニングベースになる展開や、H ZETT KOUのラグタイム調、H ZETT Mのピアノとシンセサイザーを行き来するアレンジなど、ロックンロールにはじまりスタンダードなジャズも交えた季節感のある演奏にアレンジされていた。「最後の雨」はスペーシーかつレアグルーヴ感が加わったアレンジで、どちらも原曲からの飛躍が楽しい。

 また、新年オンエア分ではロックバラードの名曲をオリジナルのリズムとは180度異なるアレンジで演奏しており、その解釈に度肝を抜かれた。「まずメロディを意識するとそこから色々なリズムが聴こえてくるんです。音の比率を図面にして考えるというか、そうすると元にあるメロディのリズムが変化していって、それを強調していくとどんどん変化していく感じですかね。とにかくメロディに集中するとリズムが見えてくる」(H ZETT M)。ジャズピアニストでもあり、その中でもユニークな彼の発想が見えてくる。

 200曲以上カバーのアレンジをしてもアイデアが尽きない理由として「アレンジの仕方の限界はありそうな気はしますけど、その曲その曲でメロディは違うので、同じ曲はないという意味において限界はないという気もします」(H ZETT M)という。また、意外なことに演歌のカバーは他のジャンルにはない刺激だったそう。オリジナル楽曲を作る際にも「技とか攻撃のバリエーションが増えていくので、カバーをやることでいろんな発想が生まれますね」(H ZETT M)と影響があるようだ。

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