宇多田ヒカル、星野源、ずっと真夜中でいいのに。…Spotify『Go Stream』、ビデオシングルが可能にするこれまでにない映像体験
Spotifyが提供しているビデオシングルシリーズ『Go Stream』が面白い。
Spotifyと言えば、世界で4億3,300万人以上のユーザーが利用する音楽ストリーミングサービスで、音楽の楽しみ方として一般化したサブスクリプション型サービスの最大手。そんなSpotifyが新たな取り組みとして始めたのがこの『Go Stream』である。
音楽とパフォーマンス映像が一体となったこの『Go Stream』は、スマホ時代にフィットした9:16の縦型映像によりどこでも手軽に楽しむことができる上、高画質に設定すれば腰を据えてじっくりと楽しむこともできる。Spotifyユーザーであれば誰でも視聴することができるので、ぜひ一度チェックしてもらいたい。
例えば、ずっと真夜中でいいのに。が7月に公開した『ZUTOMAYO “Go Stream” Video Single』を見てみよう。「デコトラでしか辿り着けない怪しい集会・夏祭り」を表現したという極彩色に彩られたステージで、覆面の演者たちがスリル満点の演奏を展開。映画の中に迷い込んだようなどこかサイバーパンクな世界観に思わず見入ってしまう。
空間を埋め尽くす3階まである大型の舞台セットは、縦長の画面を意識してのものだろう。頭から足元まで全身が画角に収まるため、シルエットがとにかく映える。とりわけ「あいつら全員同窓会」の序盤におけるボーカル・ACAねの存在感は異様だ。最後にエンドクレジットが流れるのも面白い。スタッフロールが画面上に長い時間居座るため、独特の余韻が残る。
また、宇多田ヒカルが9月に公開した『宇多田ヒカル “Go Stream” Video Single』は、アルバム『BADモード』の収録曲「Somewhere Near Marseillesーマルセイユ辺りー」の特別仕様で、児玉裕一監督が「全フロアOcean Viewのクラブ”SEA PARADISE”で繰り広げられる宇多田ヒカルのスペシャルパフォーマンス」をコンセプトに撮った映像が楽しめる。
架空のクラブで人々が踊るこの映像は、まさに縦に長いスマホの特徴を生かしたものだ。縦長画面の最大のポイントは人の立ち姿の全身をアップで見せられる点だろう。横長だとどうしても左右に余白が生まれるため、余分な情報が画面に映り込んでしまうことが多い。その点この『Go Stream』であれば、宇多田が歌いながらダンスするその表情や、目が訴えかけるものにできる限りフォーカスして映し出すことが可能。特に終盤で天井まである巨大な水槽をバックに歌う映像は必見だ。緻密なサウンドと幻想的な映像とが見事にマッチしている。
一方で星野源は他と対照的だ。宇多田と同時に公開された『星野源 “Go Stream” Video Single』は「喜劇」「不思議」「異世界混合大舞踏会」の3曲をギター、ベース、キーボードの3人とともに卓を囲んで座りながら演奏する空間を撮っている。
斜め上から定点で撮影していることにより、演奏陣の指捌きを完璧にカメラが捉えている点や、画面の上半分はほとんど壁で、あえて余白を大事にしている点など、前述した2者とは異なる方向性である。演者そのものというより、空間全体を見せつつ、細部も楽しめるよう工夫がされた映像だと感じる。