レディー・ガガ、苦しみ乗り越えたキャリア史上最もパーソナルなショー 音楽による救済描いた8年ぶり来日公演

 レディー・ガガにとって8年ぶりの来日公演となった、『LADY GAGA PRESENTS THE CHROMATICA BALL』。約3万人収容のベルーナドームで、9月3日、4日の2日間に渡って開催された本公演は見事にソールドアウト。会場には開場時間の前から多くの人々が集まり、その中には彼女のミュージックビデオの姿を再現している人もいれば、負けず劣らずの美しく凝ったファッションを身に纏っている人も少なくない。服装にレインボーフラッグを取り入れている人も多く見受けられ、ライブが始まる前からガガという存在がいかに多くの人々に影響を与えてきたのかを強く実感する。だが、もしかしたら、この日が来ることを誰よりも待ちわびていたのは、ガガ本人だったのかもしれない。

 2018年、アルバム『ジョアン』を携えて開催された『Joanne World Tour』中、ガガは激しい痛みに襲われ、残る公演を全てキャンセルした。持病である線維筋痛症の悪化や、若い頃から抱えていたうつ病、PTSDなど、当時の彼女は様々な痛みに苦しみ、身動きが取れなくなっていた。2020年に発売されたアルバム『クロマティカ』は、彼女がそれら痛みと正面から向き合い、乗り越えるためのプロセスを描いた、キャリア史上最もパーソナルな作品である。それは、同作を提げて開催されるワールドツアー、つまり今回の来日公演が彼女の復活を示すと共に、作品同様、キャリア史上最もパーソナルなショーになることを意味していた。

 初日となる3日の公演で最初に披露されたのは「Bad Romance」。惜しげもなく連発される火柱に、冒頭から大ヒット曲というサプライズ、何よりステージ上に君臨したガガの存在そのものによって、会場のテンションは一気にピークへと到達する。その歌声と咆哮は圧倒的であり、生のバンドによる演奏は原曲の持つエネルギーをさらに強固なものへと引き上げ、ダンサーによる美しい動きが熱狂を高めていく。これまでに感じたことがないほどの壮絶な体験に畏敬の念すら抱くほどだが、一方で、彼女の纏う灰色の衣装は繭(まゆ)のようであり、手元しか動かせずにいることに気づく。その繭は「Just Dance」、「Poker Face」というキャリア初期の大ヒット曲を連発していく中で一つずつ皮が剥がれ、最終的には身体を自由に動かせるようになり、美しくパワフルなダンスで会場を熱狂の渦へと誘う。しかし、「Poker Face」の終了と同時に、彼女は倒れ、会場に暗闇が訪れた。

 スクリーンに投影される映像。そこに映っていたのは、レザーの衣装で手術台に拘束され、機械に全身をケーブルで繋がれたガガの姿。それはあまりにも痛ましくグロテスクな光景だったが、“ACT I”と題して披露されたステージ上でのパフォーマンスはそれ以上に衝撃的なものだった。「Alice」では、浮遊する手術台に磔にされた彼女が、全身から流血していることを示すかのような赤く輝く衣装で、拘束されたまま為す術もなく歌い続け、「私を自由にして(Set me free)」という悲痛な叫びが会場中に響き渡る。やがて、憔悴しきった姿で台座から降りた彼女だったが、その後もPTSDをテーマにした「Replay」、ある男性に身も心も蝕まれる姿を描いた「Monster」と、キャリア屈指のダークな楽曲を披露。自らを苦しめる痛みを、パフォーマンスによって徹底的に表現してみせる。彼女は、名声を手にすることで待ち受けていた痛みとの戦いを、このステージ上に再現してしまったのだ。

 だが、『クロマティカ』が痛みを表現しつつも最終的には「音楽による救済」を描いたように、このショーにもやがて救いの瞬間が訪れる。極限状態の中でSOSを発信する「911」で幕を開けた“ACT II”では、「Sour Candy」で相手に合わせ内面を変えるようなことはしないと警告し、自らを邪魔する存在への決別を伝える「Telephone」によって、ありったけの火柱と共に再びドームを狂乱のダンスフロアへと導いていく。スクリーンには、まるで監視カメラを通してガガとダンサーを捉えているかのような映像が映し出されるが、『ボーン・ディス・ウェイ』期を彷彿とさせる攻撃的なレザーの衣装を身に纏った彼女はそれを一切気にすることなく、キレのあるダンスと力強い眼差し、激しい動きの中でも乱れることのない驚異的な歌唱力によって応戦する。その勢いのままステージ前の花道へと足を踏み入れた彼女は、原曲よりも遥かにハードロックな成分を強化した「LoveGame」を披露。「恋の駆け引きをしよう(Let's play a LOVEGAME)」と歌い、唸りを上げる演奏に合わせて激しくヘッドバンギングをする姿は、遂に彼女が主導権を取り戻したことを示していた。

 『クロマティカ』における“ACT III”は、ガガ自らの救済を音楽に見出す瞬間を描いたものだった。だが、すでに自らの勝利を描いた今回の公演では、このパートは支えてくれるコミュニティと向き合い、祝福する時間となる。それまでの灰色で息苦しく、金属的で痛々しいモチーフに満ちた世界観から一転して、有機的でカラフルな景色が広がっていく中、「Babylon」の宴が幕を開けた。金色に輝くスーツを身に纏った彼女は、軽快に踊りながら、やがて教皇を彷彿させるようなゴージャスな衣装をダンサーから授かり、気品に満ちた表情で花道へと降りていく。

 「愛しています! 東京!」という言葉と共に披露された「Free Woman」では、歌詞のフレーズを一部、「原宿」や「渋谷」といった言葉に置き換えて歌うという粋な演出が。だが、それ以上にサプライズだったのは、彼女がそのまま花道を降りて客席へとやってきたことだろう。大興奮の観客と触れ合いながら、会場の中央にあるサブステージへと移動した彼女は、“ACT II”までのような戦闘態勢ではなく、どこか憑き物が落ちたかのようなリラックスした表情で、集まった観客への感謝を何度も伝えた。

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