“ボカロ”シーンはVOCALOIDだけじゃない 重音テト、小春六花、弦巻マキ、可不(KAFU)ら人気で賑わう音声合成ソフトの世界
さらにその中でも注目されているのが、「現実に存在するシンガーの音楽的同位体」をコンセプトとした音楽的同位体シリーズ。この先駆けとなったシンガー・花譜の音楽的同位体・可不(KAFU)の人気は、現在シーンを注視するリスナーにとってはすでによく知るところだろう。
花譜の声の再現度の高さに加え、可愛らしい響きの中に独特のハスキーさを孕む声で多くのファンを魅了する可不。ツミキ「フォニイ」(2021年)やsyudou「キュートなカノジョ」(2021年)、いよわ「きゅうくらりん」(2021年)に柊マグネタイト「マーシャル・マキシマイザー」(2021年)などのヒット曲を代表として、その存在は近年のボカロ界の再興に大きな一助を果たしている。また可不以外にも同シリーズの後発となるヰ世界情緒の音楽的同位体 星界や理芽の音楽的同位体 裏命(RIME)、VTuber・キズナアイの音声ライブラリとして正式販売開始が待たれている#kznも、今後注目すべきCeVIO AIのソフトとして、徐々に知名度が高まりつつある。
そして本稿では最後に、VOICEROIDやVOICEVOXを始めとした「喋る」ソフトについても触れておきたい。音声合成ソフトをより広義に解説すると、当然その役目は歌唱だけでなく解説や会話なども当てはまってくる。そもそもが歌唱向きのソフトではない一方、会話発声の特徴を巧みに生かすことで音楽表現をより広げた存在として、こちらも押さえておきたいソフト達だ。VOICEROIDの琴葉 茜・葵を用いたGYARI(ココアシガレットP)による「何でも言うことを聞いてくれるアカネチャン」(2017年)、「絶対にチョコミントを食べるアオイチャン」(2019年)。
また2022年現在、そのキャラクター性の人気もあり、VOICEVOXのずんだもんを使用した楽曲も増加している。ひらうみ「ずんだもんの朝食 〜目覚ましずんラップ〜」や、なみぐる「あなたは世界の終わりにずんだを食べるのだ」、世界電力「ポストずんだロックなのだ」など(全て2022年)。従来の曲に比べ、より滑らかな音読劇調やラップ、ポエトリーリーディングといった表現の広がりが、現在のシーンにおける音楽性の多様化に拍車をかける一因ともなっているように思う。
こうして見ると現在の音声合成ソフトの躍進は、VOCALOIDのみにとどまらないムーブメントとして大きく成長していることがわかる。それらを踏まえた上でボカロシーンを深堀ってみることで、音楽合成ソフトによるサウンドの変化や、まだ見ぬ未来の可能性にさらなる期待や好奇心を持って、新たな音楽と出会うことができるかもしれない。
※1:https://jp.yamaha.com/sp/myujin/53061.html