Juice=Juice、新アルバム『terzo』はグループの歴史を辿るドキュメンタリー 楽曲を通して体験する激動の3年間
ハロー!プロジェクトのアイドルグループ・Juice=Juiceの新作アルバム『terzo(読み:テルツォ)』がリリースされた。イタリア語で「第3」の意味を持つタイトルが示す通り、2015年の『First Squeeze!』、2018年の『Juice=Juice#2 -¡Una más!-』に続く3rdアルバムとなる。ジャケットアートワークは緑とピンクのツートンカラーが基調となっており、さながらスイカのような配色だ。
本作は初回生産限定盤A・B・通常盤共通で2枚組全24曲収録。ディスク1は「The Best Juice 2019-2022」と題されて、3年間にリリースされたシングル5作に収録の16曲がすべてまとめられている。
シングル表題曲トップクレジットと当時の在籍メンバーをあらためて振り返ると、「微炭酸」(2019年)ではメジャーデビュー時の5人(宮崎由加・金澤朋子・高木紗友希・宮本佳林・植村あかり)に梁川奈々美・段原瑠々・稲場愛香が加わった8人体制。「「ひとりで生きられそう」って それってねえ、褒めているの?」(2019年)は梁川卒業後の7人。「ポップミュージック」(2020年)は宮崎が卒業して工藤由愛・松永里愛が加わった8人。「DOWN TOWN」(2021年)は宮本が卒業、高木が活動終了し、井上玲音が加入しての7人。そして「プラスティック・ラブ」(2021年)は有澤一華・入江里咲・江端妃咲が加わった10人。このシングルリリース直前に金澤が卒業していて、ここで現体制の9人となる。シングル1作ごとにメンバーが異なっており、グループとして激動の3年間だったことがうかがえる。
一方、ディスク2「The Brand-New Juice 2022」はアルバム用新曲を8曲収録。本稿ではこちらを主にレビューしていく。
01. GIRLS BE AMBITIOUS! 2022(作詞・作曲:中島卓偉 編曲:中島卓偉、宮永治郎)
1stアルバムには「GIRLS BE AMBITIOUS」という楽曲が収録されていたが、その新バージョンが本曲だ。メンバーのパーソナリティなどを当て書きした歌詞が特徴のロックンロール自己紹介ソング。ライブではメンバーチェンジがあるたびに歌詞も更新されていたが、今回のレコーディング音源では現在の9人に対応したものとなっている。江端妃咲の〈最年少の私の武器は「ハスキーボイス」 カモン!〉や、入江里咲の〈和太鼓がたたけるアイドルでメディアに引っ張りだこ〉という箇所は、J=Jの未来像を予感させる。
02. POPPIN' LOVE(作詞:山崎あおい 作曲:Andreas Carlsson / Julie Yu / Erik Lidbom 編曲:Erik Lidbom)
続いては歌唱・サウンドともに明るく楽しげなダンサブルチューン。作曲と編曲は、近年のハロプロ楽曲で多く見られるようになってきている、主にスウェーデン出身の作家たち複数人によるコライト制作もの。本アルバムでもこの曲を含む3曲がそのスタイルだ。作家の一人としてクレジットされているErik Lidbom(エリック・リボム)は、モーニング娘。'21のシングル曲「ビートの惑星」の作曲・編曲にも参加している。トラックの方向性も似ているところがある。
作詞はシンガーソングライターの山崎あおい。かつて楽曲提供した「「ひとりで生きられそう」って それってねえ、褒めているの?」はJ=Jの新たな代表曲となった。この「POPPIN' LOVE」では、主人公自身でも思いがけない恋心を綴った可愛らしい歌詞を展開。ちなみに2番サビでの〈チャビー・チャビー なとこ むしろ愛しい〉に出てくる「チャビー(chubby)」という単語は、「丸々と太った、ふくよかな、ポッチャリした」というような意味の英単語。「fat」などとは違い、主に赤ちゃんなどに向けて使われる単語なので、これは主人公の恋の相手がふくよかな人物であることを示しているようだ。
03. STAGE~アガッてみな~(作詞・作曲:徳田光希 編曲:平田祥一郎)
4月に行われたハロー!プロジェクトの春のコンサート『Hello! Project ひなフェス 2022』や、現在開催中の単独コンサートツアー『Hello! Project 2022 Spring CITY CIRCUIT「Juice=Juice CONCERT TOUR ~terzo~」』でも先行披露されていたアッパーチューン。作詞・作曲の徳田光希はファイブエイス所属のコンポーザー。2019年にBEYOOOOONDSのアルバム曲「きのこたけのこ大戦記」で編曲(前山田健一と共同)を担当しており、ハロプロ楽曲への参加は今回が2回目。ハロプロ以外では指原莉乃「私だってアイドル!」(AKB48『ジワるDAYS』カップリング曲、作曲・編曲)など多数手がけている。
ブレイクビーツ的なリズムで組み立てられた攻撃的なサウンドは、1stアルバム収録曲「CHOICE & CHANCE」を連想させるところがある。そちらは作詞・作曲は星部ショウだったが、編曲はどちらも平田祥一郎だ。メンバーの井上玲音加入後に開催された2020年12月の日本武道館ライブ(『Juice=Juice コンサート2020 ~続いていくSTORY~宮本佳林卒業スペシャル』)では、彼女の特技であるボイスパーカッションをサプライズ実装した「CHOICE & CHANCE」が披露されて観衆を大いに驚かせたが、この「STAGE ~アガッてみな~」でも間奏で同じくボイスパーカッションパートがある。ライブで盛り上がる鉄板曲のエッセンスを継承/進化させた一曲といえるだろう。
04. Mon Amour [植村あかり、稲場愛香、段原瑠々、井上玲音](作詞:オオヤギヒロオ / 井筒日美 作曲:オオヤギヒロオ 編曲:浜田ピエール裕介)
アルバム制作において、参加メンバーを少数選抜したいわゆる“ユニット曲”という手法はよく見かけるが、実はJ=Jにはこれまでユニット曲はなかった(厳密にはカバー曲や演劇曲では存在しているが、オリジナルではない)。本曲を含む2曲のユニット曲が収録されているのも、このアルバムの大きな特徴だ。
植村・稲場・段原・井上は、グループ内では年長組の4人で、いってみればお姉さんチームだ。曲名の「Mon Amour(フランス語で「私の愛」)」だけ見るとフレンチポップ的な曲調なのかと早合点してしまいそうだが、実際にはミディアム・ラテンと呼べそうなサウンド。グループ全員参加曲に比べ、相対的に一人あたりの歌唱パート数が多くなるのがユニット曲の利点だが、この曲でも4人の歌声を通常よりも多く聴くことができる。筆者が特に感銘を受けたのは段原瑠々の歌唱で、1番Bメロ〈時の悪戯に 運命(さだめ)感じたから〉、2番サビ最後〈分かち合って本物の 二人になれたら 何もいらない〉などは、本アルバムでも随一の聴きどころだ。