SARUKANI『BKPK 2022』ツアー東京公演振り返る パフォーマーとしての実力とクリエイターとしてのアイデア満載のステージ

SARUKANII『BKPK 2022』東京公演レポ

 ヒューマンビートボクサーSO-SO、RUSY、KAJI、Koheyの4人からなるヒューマンビートボックスクルー、SARUKANIが3月6日に東京・WWW Xにて、クルーにとって初となるジャパンツアー『BKPK 2022』の初日公演を行った。

 SARUKANIは、昨年ポーランドで開催されたビートボックス界で頂点を決める世界最大の大会『Grand Beatbox Battle 2021』にて、クルー部門で世界2位の成績を残したほか、メンバーのSO-SOとRUSYが組んだSORRYがタッグループ部門で日本人初の世界チャンピオンの座を獲得している。また、メンバーそれぞれがソロでも日本はおろか、アジア大会、世界大会にも出場を果たすなど、その実力は折り紙付きだ。そのことから彼らは名実ともに日本最高峰ヒューマンビートボックスクルーと言える。

SARUKANI

 そんな彼らがクルーとして初めて開催するジャパンツアーは、先述の東京公演のほか、4月に大阪、北海道、6月に再び東京に戻り行うLIQUIDROOMでの追加公演を含む全4公演ともチケットが即日完売。先日リアルサウンドが行った彼らへのインタビューでも、現在の日本におけるビートボックスシーンの注目度、そして、現在進行形で盛り上がるシーンの活況ぶりが語られたが、この実績からもその注目度や人気が本物であることがよくわかる。

 しかしながら、現在はまだまだコロナ禍の影響が残る、アーティストにとっては色々と苦労が多い時代だ。実際に今回のツアー初日公演が行われた3月6日も東京都における新型コロナウイルス感染拡大の第6波によるまん延防止等重点措置期間内での公演となった。

 そのため本公演もこの2年の間でニュースタンダードとなっている、ライブ中にオーディエンスが歓声を上げることができないという制限がある中での開催を余儀なくされた。しかし、SARUKANIはその状況をうまく逆手にとったライブ構成を入念に準備。今となってはある意味で見慣れた光景である「声が出せない」状況でも、そのパフォーマーとしての実力とクリエイターとしてのアイデアでオーディエンスを大いに盛り上げた。

SARUKANI
Kohey

 本公演に先駆けて行った先述のインタビューで、メンバーのKoheyは「ライブもアルバムの音源同様、なるべくお客さんを飽きさせないように色々な角度から攻めるような構成にした」と語っている。その言葉どおり、彼らによるワールドクラスのビートボックススキルをもって披露される楽曲と楽曲の間にちょっとした寸劇の要素が設けられるなど、この状況を打破するための仕掛けがそこかしこに施されていたことは特筆するべきことだろう。

 例えば、本来のライブであれば、アーティストが1曲分のパフォーマンスを終えると観客席から大きな歓声が上がるのが常だ。しかし、歓声を上げることができないこのコロナ禍のライブにおいてはそれが難しい。そこで求められるのはいかにして観客を引きつけたまま、飽きさせないように次の曲に移行するかということだと思う。つまり、1曲分のパフォーマンスによって、いかに盛り上がったオーディエンスのテンションを保ちつつ、ライブを楽しませるかが課題になってくるというわけだ。

 今回SARUKANIは、小ボケも盛り込んだ寸劇を始め、ファンとの距離の近さを感じさせるトークタイム、クルー全体のパフォーマンスやソロ、タッグでのパフォーマンス、その場で録音したビートを生で重ねていくループステーションを用いたパフォーマンスなど、ライブ構成を綿密に練り上げることでその難題を見事にクリア。元々はそれぞれがビートボックスのバトルシーンで名を馳せた実力者だけあって、そのステージ上での振る舞いには余裕すら感じた。そして、その様子は言うなれば、ビートボックスという武器を手にした彼らがその空間を自分たちが自由に好きなことを表現できる遊び場化しているかのように見えた。

SARUKANI

 そして、その見ているだけでもワクワクするような楽しげなバイブスは、確実にオーディエンスに伝播していたことは間違いない。実際に最初はその特殊な環境に戸惑っていたであろうオーディエンスも、SARUKANIのパフォーマンスが披露されるごとにリズムにあわせて身体を揺らすことで盛り上がりを表現する人が増えていったように思う。

 また、現在のビートボックスシーンはオンライン上で爆発的な人気を誇る一方、国内のシーンはまだその状況に追いついていないという。そのため、ビートボックスファンが求めるリアルでの体験に関しては需要と供給の数がマッチしておらず、生のビートボクサーによるパフォーマンスを体験したことがあるファンは意外にも少ないとのことだ。そのことから先述のインタビューでもSARUKANIは、『BKPK 2022』では生のビートボックスライブの迫力を全身で感じてほしいと語っていたが、本公演ではまさにその迫力が余すことなく彼らのファンに伝わっていたように感じた。

 というのも、会場ではおよそ人の口から発せられているとは思えないほど、ベースミュージックを基調とするSARUKANIらしい低音が効いたバスドラム、ベースの音を聴くことができたからだ。コロナ禍以降は配信ライブの普及により、仮に時間や場所の問題でリアルの会場にアクセスできない人でも好きなアーティストのライブパフォーマンスを楽しめるようになった。しかし、パフォーマンス自体を楽しむことができたとしても、自宅でライブハウスのような本格的なサウンドシステムから聞こえてくるようなダイナミックなサウンドを楽しむことは難しい。そのあたりはリアルライブが持つ本質的な魅力と言える部分だが、本公演でもその魅力は明確であり、身体の芯まで響く迫力あるサウンドを楽しむことができた。そして、それがやはりリアルの会場にいたからこそのフィジカルな感動に繋がっていたように思う。

SARUKANI
KAJI

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