矢野顕子、極上の演奏で響かせた普遍的なメッセージ 名曲に新たな彩りが加わった『さとがえるコンサート2021』

 矢野顕子の全国ツアー『矢野顕子 さとがえるコンサート2021 〜音楽はおくりもの〜』の最終公演が、12月19日に東京国際フォーラム ホールCで行われた。最新アルバム『音楽はおくりもの』の収録曲、そして、45年のキャリアのなかで生み出された名曲や代表曲もたっぷり披露され、高い技術に支えられた豊かな音楽性と普遍的なメッセージを込めた歌によって会場に足を運んだオーディエンスを包み込んだ。

 会場が暗転すると、メンバーの小原礼(Ba)、佐橋佳幸(Gt)、林立夫(Dr)、そして、矢野顕子(Vo/Pf/Key)がステージに登場。矢野が大きな手ぶりで、誇らしげにメンバーを紹介すると客席から大きな拍手が沸き起った。

 前半はアルバム『音楽はおくりもの』の楽曲が中心。シンプルな8ビートともに豊潤なグルーヴを生み出し、温かく、心地いい歌が響いた「愛を告げる小鳥」(エンディングの奔放なピアノソロも素晴らしい!)、〈がんばった あなたの笑顔 はなさなかった〉という言葉が響く「Soft Landing」(アルバム『Soft Landing』収録)、彼女の音楽の軸である“歌とピアノ”の豊潤な響きを堪能できた「わたしがうまれる」、“パパン、パン”という手拍子を観客に促し(途中で7拍子になるのでちょっと難しい)、ステージと客席の一体感を生み出した「なにそれ(NANISORE?)」。そして「わたしのバス(Version 2)」は、ライブ前半のハイライトだった。軽快にして力強いビートとともに〈みんなのって わたしのバス もうすぐ出る〉〈エンジンは愛で まわしてます〉という歌詞が届いた瞬間、愛らしさと温かさ、生きるための気力を感じ、大きな感動へとつながった。

 すべての音があるべき位置にあり、それが自然に絡み合う演奏は、まさに極上。アルバム『音楽はおくりもの』は、この4人で演奏することを念頭に置いて制作された作品だが、6カ所・7公演のツアーのなかで、彼らのアンサンブルはさらに成熟されていた。

 ライブ中盤では、4人が愛し、影響を受けてきた楽曲をカバー。70年代のフォークロック・デュオ Seals & Crofts「Summer Breeze」と、ザ・スパイダース「サマー・ガール」(4人のハーモニーが美しい!)をつないで夏の気分を演出した後、山下達郎の名曲「PAPER DOLL」へ。矢野のピアノ独奏から始まり、小原の濃密なファンクネスをたたえたベースライン、歌心に溢れた佐橋のギターソロ、正確にしてしなやかなビートで楽曲のボトムを支える林のドラムとともに、スリリングなインタープレイを生み出す。MCのなかで矢野は「矢野顕子とバンドではなく、4人で“The Yano Akiko”です」と胸を張ったが、その充実ぶりはこの日のライブからもはっきりと伝わってきた。

 さらに矢野の弾き語りで、THE BOOM「中央線」、小原、佐橋、林のインストバージョンによる細野晴臣「相合傘」を演奏。エンディングでワンピースに着替えた再び矢野が登場し、スタンドマイクの前で「ラーメンたべたい」を歌った。〈今日はひとりで ひとりでたべたい/ラーメンたべたい〉という歌詞の背景をここで論じることはとてもできないが、長年愛されてきたこの曲が、2021年の社会においてさらに大きな意味を持っていることは間違いないだろう。個人として生きること、すべての人を尊重することの大切さーー聴くたびに新たな気づきを与えてくれる正真正銘の名曲だ。

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