優里やAdoの人気が物語るカラオケ文化の変化 令和における“歌いたくなる曲”の共通点を探る
その意味で、今年もう一人存在感があったのがAdoである。昨年発表された「うっせぇわ」のスマッシュヒットに続き、今年リリースされた「ギラギラ」や「踊」までもが【今年発売楽曲】のランキングトップ5入り。そのAdoの声色の多彩さには、目を見張るものがある。「うっせぇわ」に代表されるように、Adoはがなり声を多用する。そしてそれだけでなく、一曲の中で様々に声色を使い分け、一フレーズごとに目まぐるしく表情を変化させていく。地声と裏声をシームレスに変化させる技術はもちろんのこと、声の引き出しが多く、それを短い間隔で自由自在に操ることができる。まさに七色の歌声を持つ歌い手だ。だから、カラオケにおいてAdoの作品を選曲するということは、曲に挑戦する意識が少なからずあるように思う。
今年のカラオケランキングには、そうしたユーザー側のニーズの変化が見て取れる。もちろんカラオケ文化において、その意識が広まったのは今年に始まった話ではない。採点機能は以前からあったものだし、昔からカラオケをそういうものとして楽しんでいた人も一定数はいただろう。しかし近年のカラオケは、仕事/友達付き合いとして楽しまれた従来の形から、同じ趣味を持つ者同士で楽しむものとなり、その在り方も変容してきた。あるいは一人カラオケが流行し、ストレス発散や歌唱力の向上のために利用されるケースも増えている。
また、YouTubeの音楽チャンネル「THE FIRST TAKE」が一躍人気チャンネルへと急成長したことで、アーティストの純粋な歌唱力や表現力への注目度が高まっている(このチャンネルに投稿された「ドライフラワー」は再生回数がよく伸びている)。さらに言えば、VTuberや声優コンテンツ、Podcast〜ラジオの再評価といった“声”を取り巻くカルチャーが隆盛を極め、リスナーの“聴き分ける”能力も高まっているのも確かだ。そうした時代の流れのなかで、カラオケに求められるものも少々変化してきているのではないか。今回の結果は、そうした時代の変化、音楽シーンの変容を、多少なりとも読み取れるものであった。
(※1)https://www.clubdam.com/dam/ranking/2021.html