アイデンティティ 田島、財部亮治ら歌ネタとしてブーム化する“替え歌” 老若男女が楽しめる普遍的な面白さ
とはいえ、こういう“替え歌”は比較的一般的なイメージのものに近いものと思われる。しかし、最近は、それ以外の部分を替えて歌うような替え歌も存在する。
ずま(虹色侍)はそんな代表である。彼は歌詞だけを残して、メロディ(もっと言えばリズムやコード進行など)楽曲を構成する全ての要素を“替えて”歌うという、稀有なタイプのクリエイターなのだ。では何をそのままにしているのかというと、歌詞。むしろ歌詞だけはそのままにして歌っているからこそ、他の要素は全部変わっているのにギリ原曲の名前を借りて歌ってもセーフ、というものになっている。YOASOBIの「夜に駆ける」のカバーはそんなずまらしい“替え歌”の真骨頂である。聴いてもらったらわかる通り、歌詞以外はなにひとつ原曲を踏襲していない。もちろん、ポイントとなるコード進行や音色は「夜に駆ける」を意識している部分もあるものの、完全なる別曲と言われても成立するような仕上がりになっている。しかも、これはこれでひとつの楽曲として成立するような完成度なのが面白い。Adoの「うっせぇわ」も同様のタッチで原曲のイメージを大きく変えた“替え歌”にしており、楽曲が持つ魅力が完全に塗り替えられているのが面白い。いずれにしても、歌詞を替えることが一般的だった“替え歌”において新風を巻き起こしているのが、ずまの面白さなのである。
“替え歌”がブームになっている昨今。なぜブームになっているのかを考えると、みんなが知っている曲が増えてきて、しかも、単純にネタとして面白いから、ということなのだと思う。その上であえて言葉を述べるとすれば、知らない曲をたくさん聴くというよりは、知っている楽曲を題材にして派生しているコンテンツの方が片意地はらずに楽しめる、という背景があるのかもしれない。だからこそ、自分たちが知っている歌を自分たちのアイデアを活かしながら歌う“替え歌”というジャンルが話題になっているのだろう。いずれにしても、音楽に対する楽しみ方が多様化している一例であり、ここから音楽にまつわるさらなるアイデアが生まれてきたら面白いと思う限りである。