オリヴィア・ロドリゴがプロムを通して描いた成長の物語 アルバムの世界観を視覚化した『SOUR Prom』レポ

 結局のところ、自分の居場所はパーティ会場には無かった。周りを拒絶し、クラスメートで溢れるパーティ会場を逃げ出したオリヴィアは、フォトブースで撮影された写真を現像するための暗室へと辿り着く。パーティを楽しむ沢山の人々の写真に囲まれながらも、やっと一人だけの時間を過ごすことが出来たオリヴィアは、おもむろにアコースティックギターを手に取り、「enough for you」を歌い出す。相手に気に入ってもらえるよう頑張っていた当時の自分を振り返りながら、やがて、いつか自分自身が他の誰かの大切な存在になってみせると誓い、呪縛となっていた過去を振り解こうとする。

 そして変化を迎えた主人公と共に、『SOUR Prom』は一気にクライマックスへと向かっていく。会場を後にし、ジャケットを着て競技場へと足を踏み入れたオリヴィアの姿に「drivers license」のイントロが重なる。失恋の悲しみを限界まで吐き出して前へと進もうとするオリヴィアをクラスメート達がハンドクラップやダンスで支え、競技場のライトがその姿を美しく照らし出すドラマティックな光景が広がる。呪縛から解き放たれたオリヴィアは、もう一人ではないのだ。

 いつの間にか競技場はオリヴィアを歓迎する人々で溢れかえっており、マーチングバンドやチアリーダー、そして客席を埋め尽くすオーディエンスがオリヴィアの登場を大いに盛り上げる。プロムの会場にあった居心地の悪さはすっかり消え、祝祭感で溢れた空間の中で、どこか余裕のある表情を見せるようになったオリヴィアは満を持して「good 4 u」の大団円へと突入する。マーチングバンドを交えたフルセットでのパフォーマンスは堂々たるもので、最後にはコナン・グレイら仲間達も駆けつけ、ようやくプロムの本当の主役が決まったところでエンドロールが流れ出す。オリヴィアは『SOUR Prom』を単なる「プロムパーティ」ではなく、「失恋を経験した主人公が、プロムを通して成長していく物語」として創り上げたのである。

 プロムを題材とした物語構造と、楽曲ごとのテーマを見事に捉えたカメラワークやステージ、そしてオリヴィア自身の演技力と歌声による見事なパフォーマンスによって創り上げられた『SOUR Prom』は、コンサートの模様を収めたライブ作品であると同時に、アルバム『サワー』の世界観を視覚化した映像作品として捉えることが出来る。現在も様々なアーティストが試行錯誤を重ねているストリーミングライブの潮流の中に、オリヴィアは「物語」を導入したのだ。デビューからわずか半年でこの完成度の作品を生み出してしまったオリヴィア・ロドリゴ。果たしてこの才能はどこまで開花していくのだろうか。

Olivia Rodrigo - SOUR Prom

※1:https://www.instagram.com/p/CQeNxa9Ld0J/
※2:https://www.nytimes.com/2021/06/30/style/olivia-rodrigo-sour-prom-courtney-love.html

オリヴィア・ロドリゴ日本公式HP

関連記事