2020年代は「何気ない幸せ」がキーワード? オレンジスパイニクラブ、KALMAら“日常系バンド”の隆盛

クジラ夜の街「夜間飛行少年」Music Video

 「夜間少年飛行」が大きな話題になったクジラ夜の街もまた、10代~20代の“リアルな日常”をベースにして感情を歌っているバンドである。〈六畳〉というワードを歌の中に差し込むことで、楽曲の世界観の日常感が強まっている。また、「風のもくてきち」では、この記事で登場してきた他のバンドと同様に、自転車が歌の中で重要なモチーフになって出てくる。若者にとって、もっとも日常的な乗り物が自転車であるからこそ、自転車が“日常系”の歌の中で何度も出てくるモチーフになっているのかもしれない。

ヤユヨ「さよなら前夜」MV

 「さよなら前夜」で大きな話題を集めたヤユヨもまた、何気ない日常を歌の中で丁寧に描くバンドである。「君の隣」「いい日になりそう」「おとぎばなし」……歌っている感情の種類こそ違うものの、日常の景色を交えながら、その中で生まれる感情を丁寧に描いてみせる構造は同じである。楽曲を作詞を手掛けているリコの深い洞察力が為せる技であるといえよう。

アメノイロ。「インスタントカメラ」Music Video

 広島で結成されたアメノイロ。も日常の景色を大切にしているバンドだ。彼らの代表曲のひとつである「インスタントカメラ」は、〈僕〉と〈君〉の何気ないやり取りが景色としてはっきり見える歌になっている。ただ、〈君〉が出てくるこの歌の景色は回想でしかなく、最終的に、一人だけの自分の部屋に戻ってくるのがこの歌のミソではあるが、日常の景色を大切にしているからこその魅せ方であると言えるのではないだろうか。

 ここまで挙げてきたように、2020年代に頭角を現している若手バンドは、何気ない日常を丁寧に描き、その生活の中で見つけた感情を鮮やかに描いていることを実感する。もちろん、これは一部分でしかないので、その枠組に当てはまらないバンドもいくらでもいるが、こういったバンドが一定数の支持を集めているのは確かだ。そして、彼らの歌が若者を中心に共感を集めている事実があるわけで、今後も、こういう眼差しのバンドが頭角を現す可能性が高いのではないか。筆者はそんなことを思うわけである。

■ロッキン・ライフの中の人
大阪生まれ大阪育ち。ペンネームにあるのは自身が運営するブログ名から。人情派音楽アカウントと標榜しながら、音楽メディアやTwitterなどで音楽テキストを載せてます。

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