星野源『不思議/創造』全曲レビュー:強力なポップソングからパーソナルな世界観まで、シングル作品としての揺るぎなさ

星野源『不思議/創造』全曲レビュー

 星野源が6月23日、12枚目となるシングル『不思議/創造』を発売した。今作にはテレビドラマ『着飾る恋には理由があって』(TBS系)の主題歌「不思議」をはじめ、任天堂『スーパーマリオブラザーズ』の35周年テーマソングの「創造」、昨年末の『NHK紅白歌合戦』にて初披露された「うちで踊ろう(大晦日)」、そして『バナナマンのバナナムーンGOLD』(TBSラジオ)で発表された新曲「そしたら」の計4曲が収録されている。

 表題曲の一つである「創造」は、楽曲全体にマリオや任天堂そのものへの愛が込められていて、「ものづくり」への想いという部分で星野源から任天堂への強いリスペクトが表れた一曲になっている。例えば、歌詞の〈配られた花 手札を握り〉の一節は、今となっては世界的な企業である任天堂が元々は花札の製造からスタートしたことを連想させるフレーズだ。あるいは、横井軍平の開発哲学「枯れた技術の水平思考」を彷彿とさせる一文もあり、任天堂の“物作りの精神”に彼自身も深く共鳴していることが感じ取れる。こうしたアイデアに富んだ歌詞を、様々な楽器を操るイマジネーション豊かなサウンドに乗せ、目まぐるしく展開させていく本曲。特筆すべきはゲームキューブの起動音の演奏だ。この独特のスケールの音階を行き来するヴィブラフォンの音色が、えも言われぬ“異世界”感を醸し出しているように思う。これが冒頭と終盤で登場することによって、その間に別の世界に連れて行かれるような不思議な感覚を味わえる。まさに“創造力”が発揮された一曲だ。

星野源 – 創造 (Official Video)

 一方で、もう一つの表題曲の「不思議」は一転してゆったりとしたメロウなラブソング。歌詞は人肌のぬくもりを感じる温かな手触りで人間味にあふれている。対してサウンドは、昨年よりキーボードによる作曲方法を取り入れたことで、これまでの『YELLOW DANCER』や「恋」で繰り広げていたバンドアンサンブルを響かせる方向性とは一線を画した音作りに仕上がっている。ラジオで名前を挙げていた久保田利伸のような、80年代〜90年代初頭のR&Bやブラックコンテンポラリーのソウルフルでグルーヴィーなタッチだ。どこか懐かしいシンセの音色は、世代によってはそれだけで耳を奪われるだろうし、現在の若い世代には新鮮に受け取られるはず。だがリズムは、確かに今の音で、日本のポップシーンではあまり聴かないほど存在感があり、スマートなタイトさがある。石若駿(ドラム)の参加は今後の彼の音楽性を左右するだろう。

星野源 – 不思議 (Official Video)

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