シングル『不思議/創造』インタビュー
星野源、これまでとは違う音楽の地平へ 「創造」と「不思議」で語る“新しい星野源”
「新しい星野源」としての自分の色が確立できた
ーー「創造」が完成したあとは、そのまますみやかに「不思議」の制作に移行していったのでしょうか?
星野:そうですね。ちょうど「創造」が終わってからでした。
ーー「不思議」はTBS系火曜ドラマ『着飾る恋には理由があって』の主題歌ですが、この曲に関しては音楽的にどんなイメージを描いていたのでしょう?
星野:ラブストーリーのど真ん中でかかる曲として逃げないで作りたいと思ったとき、なにがイメージとしてあったかというとまずはDX7だったんですよ(笑)。DX7とTR-909のスネア、それからTR-808のクラップにリンドラムのスネア、みたいな。自分が音楽を聴いてキュンとした原体験というと幼いころにスケートリンクで聴いた久保田利伸さんの「Missing」(1986年)のイントロなんですけど、あれはきっとDX7の音ですよね。あとはASKAさんの「はじまりはいつも雨」(1991年)だったり、あのイメージです。別にノスタルジックなものをやりたいわけではなかったんですけど、よくよく考えてみたらいまのポップミュージックのトレンドは80'sサウンドじゃないですか。そうなったらいまの感覚で全力でやってみようと思って。
ーー鍵盤を使って作曲することによって表現や発想に広がりが出たのは「不思議」に関しても同様だったのでしょうか?
星野:それはとてもありますね。家ではずっとProphet-10を鳴らしながら音を作っていたんですけど、「不思議」は最初からいま皆さんが聴いている完成したものと同じイメージで作曲をしていたから、そのなかで和音を探しながら作っていくことができたんです。ギターの場合はそこからさらに変換しなくちゃいけないんですよ。あの音でどう響くか歌いながら作ることができたので、それはすごく大きかったと思います。
ーー「創造」と同じような感想になってしまいますが、「不思議」も星野さんの新ステージ突入を強烈にアピールする曲になると思います。ソウルミュージックの身悶えするような愛おしさや切なさがありながら、先を予測させない複雑なコード展開に象徴される緻密さやアバンギャルドさもあって。それが気持ちのいい音として見事に同居しているバランス感覚には本当にぶっ飛ばされました。まさに針の穴に糸を通すような作業だったんじゃないかと思うんです。
星野:本当にそんな感じでしたね。スウィートなものをつくりたいというのはもちろんあったんですけど、それこそ70年代後半〜80年代初頭のR&Bをやろうとするとコードやメロディがどうしてもシンプルになってしまうんですよ。そうするとただのノスタルジーになっちゃうので、どうせやるのならとにかく聴いたことがないようなものを作りたくて。ネクストレベルに行くんだっていう気概をサウンドにぶつける感じでした。だから、こう進行していくだろうというところをなるべく回避するというか、おもしろいほうをずっと選んでいった結果ああいうかたちになったんですけどね。いま音楽番組でも「不思議」をやり始めているところなんですけど、バンドのメンバーが言うには音の積み方というか、キーボードの順番が変わったりなにかが抜けるだけでこの曲らしさが消えてしまうって。だから「不思議」は「この積み方でいかないとこの進み方はできない」という針の通し方だったと思うんです。コード名だけ告げられて、その通りに弾いてもなかなかこうはならない。ちゃんとこの積み方で弾かないとダメなんですよ。ルートとしては変なのかもしれないけど曲としてはギリギリ成立するという、そういう綱渡りをずっと続けていった感じですね。
ーーあと、今回の「不思議」の魅力を担う重要な要素として強調しておきたいのは歌の充実ぶりです。特に要所要所に浮かび上がってくるファルセットボーカルは本当に甘美で素晴らしくて。星野さんのソウル表現のなかで、作品を重ねるごとに輝きを増している印象があります。
星野:レコーディングに入る前から「不思議」は歌声がすごく大事になると思っていて。自分はいままでボーカリストではないからそこをあまり突き詰めないようにしていたんですけど、でも今回は歌が重要になってくると思ったから、いままででいちばん歌い込んでからレコーディングに臨みました。以前は裏声からどこで地声に戻るかとか、どこで裏声にいくかとかもあまり考えないでスタジオに入っていたんですけど、ちゃんと気持ちよく聴こえる歌い方やテンションをつかんでからレコーディングをして。それも今回意識的に取り組んだいままでと違うところのひとつですね。
ーー今回のシングルでは、4曲中3曲の演奏に参加して2曲でコ・アレンジメントを務めているmabanuaさんの存在も見逃せません。mabanuaさんは2020年から現在に至る星野さんの活動のキーパーソンだと思っていて。
星野:そうですね。いままではずっと自分ひとりで編曲してきたんですけど、そろそろ相談できる人がいたらいいなと思っていて。それは『Same Thing』でいろいろなアーティストとコラボしたときに自分ひとりでは行けない場所に辿り着けたことが大きかったからなんですけど、mabaちゃんとは相談できる人を探しているタイミングでしっかりと出会うことができて。すごく波長も合うんですよね。最初はDAWの操作を教えてもらうところから始まったんですけど、いまは自分の描いたビジョンに辿り着くために、相談にのってもらったり、手伝ってもらっていますね。
ーーもうひとつ今回のシングルで興味深かったのは、星野さんの演奏クレジットのところにずらりと並んださまざまな種類のキーボードです。いまシンセサイザーを買いまくっているというお話をラジオでうれしそうに話していましたが、これがこのあとの展開で自分の武器になっていくような、そういう予感みたいなものはありますか?
星野:武器かあ……うん、そんな感じもします。やっぱり音作りってセンスじゃないですか。そこは「創造」と「不思議」の2曲で違うステージに立てたという実感がすごくあるんですけど、当初から「創造」一曲だけでは足りないと思っていて。もしかしたら一度だけの試みと受け取られかねないと思ったので、そうじゃないんだってところを「不思議」できっちり見せておきたくて。だから「不思議」のような落ち着いた曲でちゃんと爆発するような気持ちを込めることができたのは大きいですね。そういう曲を2曲続けて作れたことによって「新しい星野源」としての自分の色が確立できたと思っていて。そう考えるとキーボードで作曲していくこと、鍵盤を手に入れたことは確かに自分の新しい武器になるのだとは思います。
ーー以前星野さんは『Same Thing』を作り上げたことの収穫として「音楽は楽しいんだっていうすごくピュアなものを体験できたこと」を挙げていて。「それはいまの自分の中ですごく大事なもので、ここで改めてスタートラインが引けたような感覚がある。もしこのあと荒波が襲ってきても、すぐにここに戻れる安心感がすごくある」と話していました。そのあと海外ツアーを経て「うちで踊ろう」のムーブメントがあって、こうして新しい扉を開いた「創造」と「不思議」を完成させて。そんな現在の星野さんのテンションやモチベーションはいま話した『Same Thing』のときの感覚の延長ですか? それともまた違う境地に立っている実感がありますか?
星野:また違う場所だと思います。『Same Thing』で得たものをそれこそ『Same Thing』と同じ地平で表現してもダメだと思ったし、『Same Thing』の前の地平に戻ってもダメだと思ったし。違う地平に行かないと、『Same Thing』で得たものが発揮できないと思ったんです。そうやって人と出会うことでもらったものって、そのまま同じステージで出しちゃうとただの繰り返しになってしまう気がしたので。そこはちゃんと生まれ変わらないといけないなって。だから「創造」の出だしの歌詞、〈僕は生まれ変わった〉というところはすごく意識的に作りました。たとえばこれが『Same Thing』の翌年、2020年だったらまだ同じ地平にいた可能性もあったと思うんですよ。でもコロナによって一年スケジュールが延びて、逆にそのあいだに違うステージに行く気持ちと筋肉みたいなものを手に入れることができて。今回そんな状態で制作に臨めたのは本当によかったですね。
■リリース情報
『不思議/創造』
2021年6月23日(水)発売
初回限定“感謝”盤 [VIZL-1915 CD+BD] [VIZL-1916 CD+DVD] 各¥4,500(税込)
初回限定“宴会”盤 [VIZL-1917 CD+BD] [VIZL-1918 CD+DVD] 各¥4,000(税込)
通常盤 [VICL-37610] ¥1,300 (税込)
https://jvcmusic.lnk.to/fushigi_souzou_CD
https://jvcmusic.lnk.to/fushigi_souzou_digital
<収録曲>
01. 不思議 [TBS系火曜ドラマ 『着飾る恋には理由があって』主題歌]
02. 創造 [スーパーマリオブラザーズ35周年テーマソング]
03. うちで踊ろう (大晦日)
04. そしたら
特典DISC
初回限定“感謝”盤
Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert “Gratitude”
昨年7月ソロデビュー10周年を記念して開催された配信ライブ「Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert “Gratitude”」の模様を完全収録。ライブ当日の未公開ドキュメンタリー映像を加えた2時間を超える特典映像DISC(BD/DVD共通)が付属。
○収録内容
01. Pop Virus
02. 地獄でなぜ悪い
03. 湯気
04. ステップ
05. 桜の森
06. 肌
07. Ain’t Nobody Know
08. 折り合い
09. 老夫婦
10. 未来
11. うちで踊ろう
12. プリン
13. Crazy Crazy
14. SUN
15. 恋
16. Same Thing (feat. Superorganism)
17. Hello Song
18. 私
・“Gratitude” Documentary
初回限定“宴会”盤
YELLOW PASS Live Streaming “宴会”
今年3月に開催されたYELLOW PASS会員限定のオンラインイベント「YELLOW PASS Live Streaming “宴会”」より、ライブパート全編と作品化のために編集された“打ち上げ”パート、さらにライブ当日の未公開ドキュメンタリー映像を加えた2時間を超える特典映像DISC(BD/DVD共通)が付属。
○収録内容
01. くだらないの中に
02. Pop Virus
03. 湯気
04. KIDS
05. 肌
06. Ain’t Nobody Know
07. Dead Leaf
08. 乱視
09. 創造
10. SUN
11. ドラえもん
12. 桜の森
・“宴会” -打ち上げ-
・“宴会” Documentary
■関連リンク
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