『大豆田とわ子と三人の元夫』ドラマとともに毎週心待ちにしていた音楽 主題歌や劇伴に周到に練り込まれた“意味”
来週は、どんな展開になるのだろう? 名手・坂元裕二ならではの台詞の数々と、松たか子をはじめとする出演者たちの軽妙な掛け合いの面白さはもとより、物語的な展開においてもまったく予想がつかない数々の「驚き」と「発見」に満ちているドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)。その「驚き」と「発見」は、「ドラマ」部分においてのみではなかった。このドラマは、その音楽面においても、毎回毎回、数々の「驚き」と「発見」に満ち溢れた――というか、いつの間にか「来週は、どんな音楽が聴けるのだろう?」と心待ちにしているような、そんな前代未聞と言ってよいほど音楽的にも豊かなドラマとなっていた。
すでに各所で話題になっているように、その最初の「驚き」は、ドラマのエンディングで流れる主題歌「Presence」だった。「STUTS & 松たか子 with 3exes」名義――すなわち、トラックメイカーのSTUTSと、主役の「大豆田とわ子」を演じる松たか子をはじめ「三人の元夫」を演じる松田龍平、岡田将生、角田晃広というメインキャスト4人に、KID FRESINO、BIM、NENE、Daichi Yamamoto、T-Pablowという毎回異なるラッパーをフィーチャーして、さらにはBIM×岡田、NENE×角田、Daichi Yamamoto×松田といった組み合わせで出演者自身がドラマの内容にリンクするようなラップを披露するという、実に凝った趣向となっていたこの曲(それぞれ「Presence Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ」と名付けられている )。毎回がっちり作り込まれたミュージックビデオ風の映像もあいまって、そのエンディングは「次は誰が登場するのか?」という、視聴者の興味と関心を大いに誘っていたのだった。
その音楽的な「驚き」は、もちろん主題歌だけではない。そもそもこのドラマが、単なる大人の「ラブ・コメディ」ではなく、もっと甘美で軽妙な「ロマンチック・コメディ」として成立しているのは、ドラマ本編に流れる音楽を一手に担当する作曲家・坂東祐大が生み出す音楽の力も大きく――振り返ってみれば、そこが何よりも「驚き」であり「発見」なのだった。伊藤沙莉の軽妙なナレーションと本編のダイジェスト映像、そして「とわ子」によるタイトルコールというお決まりのオープニングのバックに流れる「#まめ夫 序曲 ~「大豆田とわ子と三人の元夫」 with Ensemble FOVE, Banksia Trio」と題された一曲(この曲の最後の部分をサンプリング&変化させたものが「Presence」の印象的なイントロに変化しているという「驚き」も!)以外は、物語の展開に合わせて、毎回毎回、まさしく変幻自在にジャンルを越境しながら、次々と紡ぎ出される楽曲たち。そのほとんどが単体の「楽曲」としても成立している本作の「音楽」は、ある意味「劇伴」という枠組みを超えたバリエーションとクオリティを持った、実に贅沢なものとなっているのだった。
表題の通り「大豆田とわ子と三人の元夫」というメインキャストの多さに加えて、坂元脚本ならではのテンポ感のある台詞の掛け合い、さらに場面転換の多さなど、実は相当音楽がつけにくいようにも思える今回のドラマ。三人の元夫たちに接近する三人の女性たちの登場など、徐々に複雑になっていく人間関係や、それによって生まれる登場人物たちのさまざまな思いなど、幾重にも張り巡らされた「感情」――そこにピッタリと寄り添いながら、とてもロマンチックに、ときにはそのテンポ感を演出するように小気味よくコミカルに響く音楽たちは、まさしく「驚き」のひと言だった。それは、作曲のみならず、本編映像に合わせて最終的な「選曲」と「整音」を行う作業(MA)を、坂東自身が担当していることも大いに関係しているのだろう。しかし、上がってきた映像を見て、用意してきた楽曲では「足りない」と思ったら、そこからさらに新曲を作ってしまうなんていう話は、これまで聞いたことがなかった。しかも、楽曲を作るだけではなく、国内外の錚々たるミュージシャンたちを起用しながら、それを作り上げてしまうという剛腕ぶり。それはまさしく「驚き」以外の何物でもないだろう。
坂東が代表を務めるクラシックの演奏家集団「Ensemble FOVE」の面々をはじめ、国内外で活躍する名演奏家たちによって、クラシックはもちろん、ジャズやシャンソンに至るまで、ジャンルを超えて紡ぎ出される多彩な音楽たち。とりわけ第3回、とわ子と鹿太郎(角田)が手を取り合って踊るシーンのために書き下ろされた「鹿太郎のワルツ」、第6回、葬式の準備に駆け回るとわ子のバックに流れる、底抜けに明るいけれど、どこか切なさも感じる楽曲「かごめのお気に入り」は、その曲が無ければドラマの内容が成立しないほど強い印象と存在感を打ち放っていたと言えるだろう。
さらに言うならば、そんなインスト曲のみならず、登場人物の情況を代弁するように、要所要所で差し込まれる「歌もの」の挿入歌の数々にも、毎回毎回、驚かされた。台詞を邪魔しないように、あえて日本語ではない歌詞で綴られた挿入歌の数々。しかも、その「原詞」を本作の脚本を担当する坂元自身が書き下ろしているのだ。たとえば、マイカ・ルブテがフランス語で朗々と歌い上げる「Ils parlent de moi feat. Maika Loubté」(=「彼らはわたしの噂話をしている」)と、グラミー賞ノミネート経験もあるジャズシンガー、グレッチェン・パーラトが英語で歌い上げる「ALL The Same feat. Gretchen Parlato, BIGYUKI」。とわ子の目線で三人の元夫たちについて歌ったようにも思える前者と、日本語に訳すと「ここにいて、どこにもいない人がいる」という歌い出しから、どこか「かごめ(市川実日子)」を想起させる後者。さらには、「未練やわだかまり」といったテーマでLEO今井が歌詞を書き下ろし、自ら歌い上げた「Attachments」という曲もあった(すべて作曲は坂東が担当)。そう、先述の主題歌「Presence」同様、最初に聴いたときは、ドラマの世界観ともあいまって、その雰囲気にただ浸るだけだった(もちろん、それだけでも十分心地よいのだが)それぞれの楽曲には、それぞれ周到に練り込まれた「意味」が用意されているのだ。