『Kitrist Ⅱ』インタビュー

Kitri、広がっていく音楽と変わらない関係性 「楽曲という種がいろんな出会いで生まれ変わる」

 姉妹によるピアノ連弾ユニット Kitriは、その肩書を自ら超えていくように音楽性を拡大している。リリースされたばかりの2ndアルバム『Kitrist Ⅱ』には、網守将平を中心とした多彩なアレンジでJ-POP、クラシック、ダンスミュージック、ジャズなどを横断していくバラエティ豊かな楽曲が詰まっており、Kitriが奏でる音楽の懐の深さを感じさせる1枚だ。それに伴い、2人のソングライティングの才もますます開花。Hinaは持ち前の温かな筆致に加えて、意志の強い言葉選びで作詞の殻を破っていく。Monaはシニカルな観察眼を活かしつつ、過去をしっかりと糧にして、未来に想いを馳せるような言葉を丁寧に綴っていく。そうして2人の新たな個性が発揮されながらも、変わらない姉妹という関係性も垣間見える本作は、Kitriとして歩んできた歳月なしには実現し得なかった作品でもある。Kitriでいることの自信に満ち、自然体のまま様々な挑戦をすることができたという『Kitrist Ⅱ』について、Mona、Hinaに語ってもらった。(編集部)

2nd Album「Kitrist Ⅱ」Teaser ダイジェスト

「1stの頃にはなかった自信や強さが表れた」(Mona)

ーー1stアルバム『Kitrist』をリリースして、これからという時にコロナ禍になってしまい、なかなか思うように活動できなかった2020年だったと思いますが、どんな想いで2枚目のアルバムに向かっていったんでしょうか。

Mona:これまでは自分たちの意志とスタッフさんの気持ち、求めてくださる方がいればKitriは前に進めると思っていたんですけど、それがコロナで途絶えてしまう経験をして。前に進みたくてもどうしようもない状況が去年の夏くらいまで続いたんですけど、それでもできることを探そうっていう方へだんだん変化していきました。2人でいつでも相談できますし、やっぱり姉妹であることは強みだなって思いましたね。ライブができない期間にもっといろんな曲を作って頑張りたいねっていう、むしろ今までよりもアツい気持ちで過ごせたと思います。

Hina:スタッフさんもいつも前に向かっていきたいという気持ちでいてくださるので、Monaと真剣に話し合って、新しい一歩を踏み出す気持ちがこもった曲が多くなりました。

ーーそこから、音楽性としてはどんな構想になっていったんでしょう?

Mona:最初は2人きりで曲を作るのが当たり前だったんですけど、関わってくださる方が増えていく中で、自分にはないアイデアが入ることでこんなふうに化学反応が生まれるんだっていう刺激をもらって、曲が完成する喜びを知っていったんですね。特に今作は、いろんな方のアイデアとかセンスを注いでいきながら作れたアルバムかなって思います。

ーー網守将平さんは前作にも参加していましたが、今回はアルバム全体的に幅広くアレンジを担当していますよね。

Mona:曲ごとにいろんなアイデアを出してくださる方なので、自分たちも「こんなに曲がブラッシュアップされて面白くできるんだ!」っていう発見がありました。クラシカルなものからエレクトロまで、網守さんは幅広く音楽に造詣がある方なので、とにかく自分の知らないアイデアをいろいろ聞いてみたいなっていう思いで期待していました。

ーー1曲目の「未知階段」から網守さんが参加していますけど、アルバム前半は実験的かつ斬新なアレンジの楽曲が多くて、アルバム後半には温かくてシンプルな楽曲が多いですよね。まず、「未知階段」を1曲目に置いて先行配信したのは、どうしてだったんでしょう?

Mona:曲順を考える時に、最初は「小さな決心」を1曲目にしようってスタッフさんと相談していたんです。まずはKitriのピアノ連弾と歌のハーモニーから楽しんでいただけるような流れを想定していたんですけど、何回か聴き直していくうちに、予想をいい意味で裏切るようなガツンと印象に残る始まり方にして、アルバム後半にかけてスッと心に沁みる流れにしていくのはどうかなっていうアイデアが出てきて。それで「未知階段」が1曲目になりました。

Kitri -キトリ-「未知階段」 “Michi kaidan” Music Video [official]

ーーなるほど。この「未知階段」から始まる曲順にグッときたんですけど、それは「未知階段」のサウンドが新鮮だった上に、前作『Kitrist』のラスト曲「別世界」の続きのように思えたからなんです。モヤモヤした想いすらも正直に綴っていた「別世界」は、同時に「自分自身でありたい」という願いも滲み出るような曲でしたけど、それを経て「未知階段」で〈だから今日を 信じてみるよ〉と歌い切れたところに、まず感動したんですよね。

Mona:そう聴いていただけて嬉しいです。確かに「別世界」って重みを残して終わる受け取られ方も多かったんですけど、そこから「未知階段」を1曲目に持ってこれたのは、1stの頃にはなかった自信や強さが表れたからなのかもしれないですね。

ーーそれが出てきたのはどうしてだと思いますか。

Mona:最初の頃は「こういう曲をやったら喜ばれるかな」とか悩みながら作っていたんですけど、それ以上に自分たちが楽しんで「これだ!」と思えたものこそ、お客さんも楽しんでくれるんだってことに気づいて。躊躇するのではなく挑戦してみることで、その反応を楽しめるようになってきたというか。そういう意味では自信がついたのかもしれないです。

ーーたしか「未知階段」の最後の1行〈だから今日を 信じてみるよ〉が書けるまでは1年かかったんですよね?

Mona:そうなんです。長かった......(笑)。

ーーそれには、今話してもらったような心境変化も関係しているんでしょうか。

Mona:そうだと思います。もともとは自分を保つ難しさについて書いて終わっていて、そのままリリースされそうだったんですけど、「ちょっと待ってください!」と言って考え直して。そしたら意外にシンプルなことだったんだなって気づきました。いろんなものから影響を受けるのは変えられないかもしれないけど、ひとまず今日の自分を信じて、自分の意志で進んで行こうっていうメッセージがスッと出てきたなと思います。

「自分が好きな自分でいたい」(Hina)

ーー例えば「人間プログラム」には、どんどん便利になっていく世の中を疑ってかかるMonaさんらしさが存分に表れていますけど、そういう気持ちは強まっているんですか。

Mona:強まっているというよりは、変わらないっていう感じです。自分が今やっていることとか、流行っている言葉や物事に対して「なんでだろう?」って考える癖があるので、それが変わらず歌詞になることが多いんだと思います。

Kitri -キトリ-「人間プログラム」 “Ningen Program” Music Video [official]

ーー年齢を経るごとに「10代の頃に比べると今は落ち着いたな」って思うこともあるわけですけど、Monaさんの中でそこが変わらないのはなぜでしょう?

Mona:うーん......たぶん、流されないように生きていきたいからですね。「未知階段」の主人公じゃないですけど、時代の風潮に影響を受けざるを得ない中で、「しっかり自分を保っていたい」「自分の芯を持っていたい」っていう気持ちがいつもどこかにあるので。

ーーでも、Kitriらしさの象徴として「姉妹のピアノ連弾」というスタイルは確立されていると思うんですけど、それでもやっぱり自分の在り方に迷う時があるんでしょうか。

Mona:はい。音楽の中では意志の強さを表現している曲が多いんですけど、実際の自分はいろいろ悩みやすかったり、落ち込んだりすることも本当に多いので、その中でどうフラットに自分を保とうみたいな葛藤があるんですよね。

ーー極端に言えば、Kitriをやっていなかったら、Monaさんは部屋から一歩も出ないほど落ち込む日々が多いかもしれない?

Mona:まさにそうで(笑)。音楽があるから安心していられるし、音楽の中で自分を表現することが生きる道に繋がっているんですよね。今はKitriという一つの夢を持って、Hinaや周りの人たちと一緒に進んでいる感じがしていて。たぶん私一人ではステージにも立てないですし、聴いてくれる方がいなければ音楽も作っていないかもしれないです。最初は自己満足で始めた音楽でしたけど、いろんな方と一緒に少しずつ前に進んでいきたいので、Kitriというものが自分にとってすごく大事な存在になっています。

ーーそうして自分らしく生きることの象徴的な楽曲が「NEW ME」ですけど、一聴した時にMonaさんの歌詞だと思いきや、クレジットを見たらHinaさんの作詞で驚きました。

Hina:本当ですか!?

ーーHinaさんの新しい一面が垣間見える曲ですよね。

Hina:今まで私が歌詞を書く時は、どっちかというと情景描写や自分の心情について書くことが多かったんですけど、「NEW ME」はかなり迷ったので、5種類くらい歌詞を作って「どうしたらいいんだろう?」ってMonaに相談したんです。そしたら「こういうイメージで作ってみたらどうかな」っていうアドバイスをもらって、自分の目で見えた情景よりも、もうちょっと客観的に書けたらいいものになるんだなと思って。

Mona:人に惑わされない自分を持ってる主人公だったら曲に合うんじゃないかっていう話をして、Hinaが書いてきてくれた中からピックアップして、この歌詞に繋がりました。

ーーKitriの作詞としては、新しい挑戦ですよね。

Mona:そうなんです。今まで「こういう曲はMona」「こういう曲はHina」って決めつけていたのかもしれないですけど、失敗してもいいから挑戦してみようっていう、自由な気持ちで作っていけました。

ーーHinaさんの中にも、この曲の主人公のような強い意志が芽生えているんでしょうか。

Hina:どうだろう......(笑)。でも、もともと中学生くらいから、好きなように自由に生きたいっていう気持ちはずっとあって。小学生の頃すごく引っ込み思案なタイプで、意見を言うのが苦手だったんですけど、そういう自分を変えたくて、中学入学の時に「これを機に変わろう」って心に決めて、少しずつ変わっていったんです。

ーーそうなんですね。インタビューなどで、Monaさんが「Hinaは自分に言えないことをしっかり言えるところがあるからすごい」とよく話していますけど、そういう性格もそこからきているんですか。

Hina:自分ではあまり意識していなくて、むしろいつもMonaに引っ張ってもらっている感じなんですけど、やっぱりMonaの方が自分に自信がなかったり、不安になることも多いタイプなので、「大丈夫、大丈夫!」と言って、お互い支え合いながら活動できている感じです。

ーーHinaさんにとって、“こうなりたい自分”みたいな理想はあるんですか。

Hina:自分が好きな自分でいたいです。生きていたらいろんなことがあるけど、惑わされず常に凛としていたいなって。ライブでも最初の頃は緊張しっぱなしだったんですけど、少しずつ楽しめるようになって、お客さんに音楽を届けたい気持ちがより大きくなってきたので、挑戦しながらKitriで新しい音楽を作っていきたいですね。

Kitri -キトリ-「赤い月」 “Akai tsuki” Music Video [official]

関連記事