草なぎ剛、『青天を衝け』で演じる徳川慶喜との共通点 時代の変わり目に注目された2人を繋ぐもの

 一方、草なぎがSMAPとしてCDデビューした1991年当時、日本は「第1次平成不況」と呼ばれる景気後退期にあった。テレビの歌番組が次々と終了し、アイドル業界全体が苦戦を強いられるタイミングだった。SMAPのデビューシングルの売り上げもジャニーズ事務所始まって以来最低だったとも言われている。そんな中で、SMAPが国民的アイドルへの階段を登っていったのもまた抜本的な改革があったからだ。アイドル=歌って踊る、だけではなく、トークも、笑いも、そして演技も。これまでの概念にとらわれず、時代を先取りしていくこと。その舵切りに迷いがないことが、共通しているように感じる。

 そして、徳川慶喜といえば大政奉還だ。この決断には、「政権を諦めた」「再度権力を手に入れるための策略だ」など様々な憶測が飛び交っているが、見方によっては国内が分裂し、このままでは幕府はもちろん、日本という国そのものがなくなってしまうことを懸念した徳川慶喜の必死の策だったのではないだろうか。約260年、天皇から預かっていた政権。その所在を明らかにし、国の混乱を少しでも収めようとしたのかもしれない。幼きころから「朝廷に向ひて弓引くことあるべくもあらず」という思いを抱いてきた徳川慶喜なら、自分がどんなに叩かれたとしても、それが最善だと思い動いたとも考えられる。

 徳川慶喜がどんな思いでその決断に至ったのかは測りかねるが、周囲の混乱具合は2016年のSMAPの解散に向けた一連の流れを思い返すと、少しは想像できるような気がする。草なぎをはじめ、SMAPメンバーが抱いていた真意をすべて知ることは難しい。だが、そこにあったのはSMAPというグループはもちろん、これまで築き上げてきたジャニーズアイドルという文化、そしてファンをギリギリまで守りたいという願いだったのではないかと。

 最終的に、徳川慶喜が鳥羽・伏見の戦いで江戸に退却して隠居生活を始めた流れも、見方によっては「敵前逃亡」と非難されたが、一方で長期戦となり多くの血を流すよりも次の時代に向けて最善を尽くそうとしてのこと、という考え方も。Webの世界を中心に新しい地図を広げていった草なぎの行動ともやはり通じるものがあるように思えてくる。

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 ちなみに徳川慶喜と同じ時を生きた渋沢栄一は『雨夜譚会談話筆記』にて、様々な世間の声を受けても何も言い訳をしない慶喜の姿勢に、真の人格者ではないかと述べていた。世間から上がるあらゆる声を受け止めつつも、自分を責め過ぎず、そして翻弄してきた社会を恨まず、ただ必死に自分自身の進むべき道を模索していく。そんな姿勢が新しい時代へと歩み進める人には必要なのではないかと、徳川慶喜の、そして草なぎ剛の生き様から、感じることができる。

 「YouTuber草なぎ剛」と先駆けてYouTubeに参入して、趣味を活かして動画撮影に取り組んできた草なぎと、隠居先でカメラ撮影を楽しみ雑誌に投稿する徳川慶喜の好奇心旺盛な姿も重なって見えなくもない。そしてバイク好きな草なぎに対して、ダルマ型自転車をこよなく愛したという徳川慶喜。国民的スターとなっても「ツヨポン」と呼ばれて愛される草なぎと、元将軍でありながら「けいきさん」の愛称で地元の人々に親しまれた徳川慶喜……知れば知るほど草なぎ剛という人が徳川慶喜の人生を演じてくれることが、楽しみでならなくなる。

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