1stアルバム『CHRONICLE』インタビュー
Daft PunkからBUMP OF CHICKEN、小島秀夫まで……CHRONICLEのルーツと1stアルバム制作に影響を与えたもの
イラストレーターのloundrawと、サウンドクリエーターのHIDEYA KOJIMA、そしてボーカリストT.B.Aにより結成されたCHRONICLEは、過去、現在、そして未来へと続く壮大なストーリーを主軸に、音楽やアニメ、小説など様々なスタイルで表現していくアート集団である。彼らはこれまで、予告映像付きのデビュー曲「宇宙」から始まり、「いつか飛べなくなるとして。」や「深層サーチャー」を含む4カ月連続配信リリースをするなど、ことあるごとにシーンを賑わせてきた。そして今回、満を持してリリースされるのが、1stアルバム『CHRONICLE』だ。
本作は、冒頭で述べた壮大なストーリーのうちの「現代編」第1章にあたるもの。小説『君の膵臓をたべたい』(住野よる著)『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜著)などで知られるloundrawの美しいイラストと、ファンク、ディスコをルーツとしつつも多種多様な音楽的要素を取り入れたHIDEYA KOJIMAの音楽、そして伸びやかで透明感あふれるT.B.Aの歌がシンクロし、まるで1本の映画を観ているような体験を聴き手にもたらしてくれる。
今回リアルサウンドでは、『CHRONICLE』の深淵な世界観を紐解くため、メンバー3人のルーツや本作に影響を受けた作品などを挙げてもらいながら、アルバムに込めた思いを語ってもらった。本インタビューを読めば、『CHRONICLE』をより深く知ることができるはずだ。(黒田隆憲)
「物語を曲でつなぐ」部分がCHRONICLEの一つの完成形
ーー『CHRONICLE』を制作するにあたり、loundrawさんが影響を受けた作品というと?
loundraw:たくさんあるのですが、アメリカのヒーロー映画は今回とても参考にしました。多かれ少なかれ、誰しも「特別でありたい」という気持ちはあると思うのですが、実際にそういう「力」を手にしたら、本人が想像していた以上の義務や責任が求められるのがヒーローです。そして「自分の力をどう発揮していけばいいのか?」という、ヒーローたちが抱える苦しみや葛藤は、青年期の子供たちの悩みとすごくリンクしていると思うんです。そんなことをここ最近考えていたので、特に『CHRONICLE』の予告編に登場する主人公を設定する時などに参考にしました。
ーーSFやファンタジーだからこそ描きうるリアリティもありますよね。
loundraw:そう思います。設定がフィクションだからこそ、そこで描かれるキャラクターの心情がリアルに浮き上がってくるというか。今回、歌詞を書く上で考えていたのも、「自分ってなんだろう?」「何のために生きているのか?」ということでした。そういう哲学的な命題は、日常生活の中ではなかなか考えにくかったり、分からなかったりするのですが、SFやファンタジーのような突飛な設定や状況にいると、ありありと立ち上がってくる。それは、『CHRONICLE』の世界観にもすごくフィットするんじゃないかなと思っていました。
ーーloundrawさんが、そうした哲学的なテーマに惹かれるのはどうしてなのでしょうか。
loundraw:おそらくそれは、僕自身の制作活動につながっているのだと思います。「loundraw」は作家名であって、ある意味では僕自身とは切り離して考えてしまうこともあります。その名義の中で、何を作るべきかを俯瞰的に考えているのですが、そうすると、結局自分自身が本当は何がしたいのか、「loundraw」という名前がなかったら、自分には価値がないのか、みたいなことを自問するようになっていったんですよね。そういう、等身大の気持ちを『CHRONICLE』の世界観にそのまま落とし込みたいという気持ちがあるんです。
ーーloundrawさん自身の個人的かつ根源的な「問い」を、物語というフィルターを通して昇華させたかったというか。
loundraw:まさにそうです。
ーー一方、KOJIMAさんは『CHRONICLE』の作編曲を担当していますが、改めてご自身のルーツについて聞かせてもらえますか?
HIDEYA KOJIMA(以下、KOJIMA):僕が音楽を作る上で、最も大きな影響を受けたのはDaft Punkの「Get Lucky」なんです。この曲でディスコというジャンルに出会い、ナイル・ロジャースというギタリストを知り、そこから派生してフレンチエレクトロにまで手が伸びていって、今の自分の音楽性を作り上げています。「Get Lucky」を知ったのは、自分が音楽制作を始めてしばらくしてからで、それ以前は幼少期に聴いた音楽が自分のルーツでした。家にはヒットチャートに上がるような音楽や、テレビで頻繁に流れる音楽のCDがとにかくたくさんあって、それを浴びるように聴いていたんです。今思えば、その頃から鼻歌で適当に作ったメロディを歌っているような子供でしたね。今もメロディを作るときは楽器を使わず、トラックに合わせて鼻歌を歌いながら作っていきます。
ーー以前インタビューしたとき(※1)には、「学生時代にASIAN KUNG-FU GENERATION、東京事変などをよく聴いていた」とおっしゃっていましたよね。
KOJIMA:そもそもアコギを始めようと思ったのが、BUMP OF CHICKENの藤原基央さんの影響なんです。それからエレキを買って、本格的に覚えていくといわゆるギターヒーローにも憧れが出てきて。そんな中でアジカンの喜多建介さんや、東京事変の浮雲(長岡亮介)さん、それからBon Joviのリッチー・サンボラなども大好きでよく聴いていましたね。初めてギターでアームを使ったのは、Bon Joviのコピーをしているときだったと思います。
当時組んでいたバンドではロック系もやっていたけど、ギターを歪ませるのが個人的にあまり好きではなかったので、メンバーには申し訳ないと思いつつ軽めのクランチでロックを奏でていた記憶があります。だからこそ「Get Lucky」に出会った時に、ようやく「これが、俺のやりたいことかも」と気づいたのだと思いますね。
ーーそして『CHRONICLE』の「声」を担当しているのがT.B.Aさんですが、音楽に目覚めたのはどんなきっかけだったのでしょうか。
T.B.A:僕が音楽に触れたのは父親の影響です。ギターを弾きながら歌うのが好きな人で、それをよく自宅で眺めながら「楽しそうだなあ」と思っていたんですよね。それで小学校3年生の頃に父親からギターの弾き方を教わって、ある程度コードを覚えてからは、コード譜を参考に弾き語りをするようになっていきました。
本格的に音楽の道に進みたいと思ったのは高校生の頃。当時バンドを組んでギター&ボーカルを担当していたのですが、そのバンドのメンバーが秦 基博さんの「朝が来る前に」という曲を聴かせてくれたんです。それで秦さんの声に衝撃を受けたんですよね。初めて聴くのに、どこか懐かしい声質。ギター1本と声だけで、これほど心を揺さぶるメロディ。改めて音楽の凄さというか、核心に触れたような気がして。僕は当時サッカー部員でもあったんですけど、翌月には「バンドに力を入れたい」と言って退部しました(笑)。
ーー秦 基博さん以外で影響を受けたアーティストというと?
T.B.A:KOJIMAくんと同じく、BUMP OF CHICKENです。とにかく楽曲のクオリティがすごいなと。中学校の登下校でよく聴いていましたね。思えば10代後半に夢中で聴いていた音楽には、ものすごく影響を受けていると思います。
loundraw:歌詞の世界観でいうと、J-POPの物語的な歌詞の展開はCHRONICLEを描いていくにあたり非常に影響を受けました。僕の家にはCDとか全然なくて、ボーカロイドからJ-POPに入っていったのですが、楽曲という限られた尺でも、物語に感情を乗せていることが衝撃的で。「物語を曲でつなぐ」というか、そういう部分がCHRONICLEの一つの完成形でもあるなと思ってすごく参考にしています。
ーーどこか懐かしく透明感のある、loundrawさん特有の絵のタッチはどこから影響を受けているのでしょうか。
loundraw:いわゆる日本のアニメーション作品にも影響を受けていますし、もちろん参考にもしているのですが、僕の場合は幼少期の風景や体験が大きいかもしれません。夏の田んぼとか、雪が降った夜とか、そういう日に感じた綺麗さや寂しさを絵で再現したり、誰かと共有したいという気持ちから始まっている部分があります。
アニメに触れる前は、漫画にも影響を受けましたね。これはいろんなところで話しているのですが、小2の時に『名探偵コナン』の模写を友だちに褒められたことが、全ての始まりだったんですよ。その頃はまだ色味というものには興味がなかったのですが、アニメーションで一気に色に目覚めて。見るジャンルを変えながら、その度に吸収していくことで自分のスタイルを築き上げてきました。