EMPiREが全身全霊のパフォーマンスで超えた限界地点 東京国際フォーラムを熱狂の渦に包んだ全曲披露ライブ
次にどの曲が来るのか、まったくわからない。「SUPER FEELiNG GOOD」ではゆったりとビートの波に身を任せ、「A journey」で力強い歌声を響かせる。「ORDiNARY」「This is EMPiRE SOUNDS」の紗幕を使用した、光と映像が織りなす美しいインスタレーションは見事としか言いようがなかった。いつもと異なるフォーメーションで始まった「EMPiRE originals」からの、前しか向いていない「ピアス」。毎回、その時々の気持ちに合わせて表情を変えながら、最高を見せてくれたこの2曲だが、6人の驚くほどの声量と熱が込められた情緒……すべてにおいて今まで見たことのない完成度に魅了される。そうやってこちらの感情に揺さぶりをかけ、エモーショナルに昂揚させておいて、「Dope」の人を喰ったようなコミカルな歌で落としに掛かってくる“してやられた”感。昨今のトレンドを押さえたダンスミュージックも、ちょっと懐かしいエレクトロなナンバーも、強く力漲るロックチューンも、さまざまな音楽がクロスオーバーしていくEMPiREの楽曲は観ても聴いても楽しい。そんな珠玉の楽曲たちをしっかりと自分たちのものにしている6人の強さをあらためて感じた。
37曲目のラストは、もちろんEMPiREのアンセムというべき「MAD LOVE」。ラストサビ前のMAYUパート〈もお あなただけ〉の直後、割れんばかりのお決まりのコール代わりに客席から一斉にスマートフォンのライトが灯された。これは声が出せない状況下でも、メンバーに“たくさんの「ありがとう」と「おめでとう」を届けたい”という、エージェントからのサプライズだった。夜空のような光景を前に目頭を潤ませながら歌いきった6人はステージを降りた。
今度はEMPiREからのサプライズ、アンコールで新曲「ERROR」が披露された。ダークエレクトロサウンドに低めのキーがずっしりとのし掛かる、oniによるEMPiREらしいナンバー。歌い出しのMiKiNA EMPiREのハンサムボイスに息を呑む。すっかり男装の麗人ポジションとなった彼女だが、そのきりりとした佇まいだけでなく、クールな中低音を響かせるボーカリストに成長したことを思い知らされた。〈勝手に生きてやろう 今 嘆きの壁を壊そう〉と、約10カ月ぶりとなる有観客ツアー『ERROR ERROR ERROR TOUR』が決定したときに書いたというMAHOによるメッセージ性の強い詞。争奪戦だったというラップパートを勝ち取ったMAYU、YU-Kiが巻き舌気味にクールに捲し立て、NOWが助走をつけながら、MiKiNAの〈行かなくちゃ〉がトドメを刺す。EMPiREならではのエレクトロな曲調であるが、WACKの伝統、ここぞという時に使用される特別な言葉〈行かなくちゃ〉が込められているところも、この今の世の情勢を踏まえた強い決意を感じるところだ。NOWによる躍動感ある振付も、楽曲強度をさらに高めていた。
ラストのラストは、この日2回目の披露となった「アカルイミライ」。EMPiREの始まりの曲であり、これからの曲でもある。1回目よりも大きく舞い、優しく丁寧に歌っていたように見えたのは気のせいではないだろう。
メンバー6人は手を取り合って、髪が床につくほど深く丁寧に頭を下げた。この状況下においてライブができること、そしてこうして多くのエージェントが集まってくれたこと……そのすべてに感謝するように、かなり長い時間頭を下げていた。
「また春に、みんなのもとに会いに行きます」
そう言い残して、彼女たちはステージをあとにした。「今できることをすべてやる」そんな気迫を感じたし、今できること以上のものを魅せつけたライブだった。後半に向かっていくにつれ、ますます加速していく歌声とパフォーマンスはとてつもないエネルギーを放っていた。反面で、アンコール時のMCで過呼吸気味になっていたMiKiNAがこの日の過酷さを物語っていた。全曲やったからこそ、できることをすべて出しきったからこそ、見えたものがあるだろう。限界突破をしたEMPiREにもう怖いものなどないはずだ。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログ/Twitter