Zoomgals、LEX、Cookie Plant、Tohji……2021年以降のヒップホップシーンの展望 有識者3名による座談会(後編)

Sounds' Deli、Playsson、OGGYWEST……自由な表現みせる次世代ラッパー

ーー今後飛躍を遂げそうなラッパーについて皆さんの意見をお聞かせいただけますか?

市川:僕はSounds' Deliです。BAD HOPとか舐達麻のような危険な香りがするマッチョな感じとは違う、少年感のあるようなグループです。これはNormcore Boyzにもいえることですが、彼らのような少年的なMCたちももっとシーンの前に出てきてくれたら嬉しいです。あとは、ジャンル分けが少し難しいのですが、Zattaも注目されて欲しいです。踊Foot WorksのTondenheyと、プロデューサーのTaishi Satoがやってるデュオですね。彼らはヒップホップ、R&B、あとは歌謡曲からも影響を受けた楽曲を作ってます。踊Foot WorksはJ-ROCKからの影響が強かったと思うんですけど、それとはまた違う要素を引っ張ってきていて面白い。ブラックミュージック好きの人は必聴です。あとは、¥ellow bucksとかRalphあたりが飛躍していきそうだなと思います。Ralphはあの声質とサウンドとの日本語ラップが新鮮でした。今までないスタイルだと思います。

Sound’s Deli - Sound’s Deli (Prod. kosy.) OFFICIAL MUSIC VIDEO
Zatta - HIRAME (Official Video)

斎井:今後は日本の人たちもドリルをどんどんやっていくんですかね。

市川:やってほしいなとは思います。Ralphってドリルサウンドと日本語ラップ的なフローの食い合わせっていうのがすごい新鮮ですよね。

ralph - Selfish (Prod. Double Clapperz)

斎井:自分は先ほど名前を挙げたvalkneeと、MCではありませんがプロデューサーのKMです。今まで最新のビートシーンっぽいトラックを作るイメージが強かったのですが、今年は(sic)boyとの曲は今までとまったく違うロックのビートを手掛け、JJJがKEIJUを迎えた「STRAND」でも柔らかで精細な表現力がすごく増して、耳馴染みするスタイルになったと思っています。すでに有名なプロデューサーですが、来年はBACHLOGICとかChaki Zuluに並ぶような作品を出してくれるのではないかと思っています。あと、今年クラブバンガーみたいな曲ってあんまりなくて、「GOKU VIBES」一強だったような印象があるんです。これからアフターコロナ的なものになったら、誰が夏のクラブバンガー的な楽曲を作るのかなって楽しみです。

二木:自分は、『Real Trap』というEPを出したラッパー、Playssonが2021年にどんな動きを見せるかとても楽しみにしています。彼は、1997年にブラジルで生まれて、2011年に来日したそうです。EPの中には愛知県豊田の保見団地をレペゼンする「HOMI」という曲があります。とにかく、まず、その曲のMVを観てほしいですね。またものすごいカッコいいラッパーが出てきたな、と。ラッパー、¥ellow bucksのアルバム『Jungle』にも客演参加していますが、¥ellow bucksと共に、今後の東海地方を担っていくラッパーじゃないでしょうか。さらにもう1組だけ挙げるとすると、OGGYWESTです。88Lexuz(ラッパー/トラックメイカー)とヤング・キュン(ラッパー/DJ)から成るユニットですね。2020年に1stアルバム『OGGY & THE VOIDOIDZ』を出しています。斎井さん、取材されていましたよね?

Playsson - "HOMI" - feat. 2Marley [Official Video]

斎井:そうなんです! 個人的に大注目ですが、オルタナティヴ感が強いので挙げようか迷っていました(笑)。OGGYWESTは何がやばいって大人が感じる孤独感なんですよね。若いミュージシャンがテーマにする孤独とは、また違うんですよ。大人になるといろいろなことから自由になれるじゃないですか。それでも拭い去れない孤独感や無力感ってあるなぁと。

二木:なるほど。それは面白い視点ですね。

斎井:しかもOGGYWESTはその世界観をネガティブになりすぎず、もしかしたら人によっては笑える温度感で曲にするんです。例えば「Maldives Sky feat. 入江陽」は、ラッパーらしくフレックスしている曲と思いきや、最後に現実に引き戻される展開の曲なんですよ。この曲はビートの転調の仕方も新しい。

OGGYWEST - Maldives Sky feat. 入江陽 (OFFICIAL VIDEO)

二木:僕は、OGGYWESTの音が好きなんですよね。88Lexuzが斎井さんのインタビューで自分たちのアートを説明する時に「ダーク・トロピカル」って表現していましたよね。上手いこと言うなあと思いました。アンビエント/アシッド・フォークからトラップに展開する曲があったり、それこそスロウハウスっぽいダンスミュージックもある。そういうトラックでラップしたり、歌ったりしているのがとてもユニークで。あと、88Lexuzの声がすごく良いな、と。真面目な話、彼らみたいな存在が日本のヒップホップやラップを豊かにしている側面がおおいにあると思うんです。

斎井:さすがです。そこも聴きどころなんです。88Lexusは、影響を受けたアーティストに前野健太やパラダイス・ガレージを挙げる異色のプロデューサーなんです。また彼はDie, No Ties, Flyというユニットも組んで11月にEP(『Die, No Ties, Fly』)も出したのですが、それも新たなサブジャンルの萌芽すら感じてしまいますね。

二木:もはやお決まりのオチになりますが、日本のヒップホップ/ラップの1年を概観するのは容易じゃありません……ただ1つ確実に言えるのは、こうして、既存のルールに縛られない自由な表現がたくさん出てきていることに希望を感じた1年でした。

出演者プロフィール

■二木 信/Shin Futatsugi
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』(河出書房新社)など。2013年、
ゼロ年代以降の日本のヒップホップ/ラップを記録した単行本『しくじるなよ、ルーデ
ィ』(ele-king books)を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出
書房新社/2015年/2019年夏文庫化)の企画・構成を担当。2021年2月25日、BADSAIKUS
H、田島ハルコらのインタヴューも掲載される書籍『ヒップホップ・アナムネーシス―
―ラップ・ミュージックの救済』(山下壮起との共編著/新教出版社)を刊行予定。

■斎井直史
学生時代、卒論を口実に音楽業界の色んな方々に迫った結果、OTOTOYに辿り着いてお手伝いを数ヶ月。そこで記事の書き方を教わり、卒業後も寄稿を続け、「斎井直史のパンチライン・オブ・ザ・マンス」を連載中。趣味で英語通訳と下手クソDJ。読みやすい文を目指してます。

■市川タツキ
幼い頃から、映画をはじめとする映像作品に関心を深めながら、高校時代に、音楽全般にも興味を持ち始め、特にヒップホップ音楽全般を聞くようになる。現在都内の大学に通いつつ、映画全般、ヒップホップカルチャー全般やブラックミュージックを熱心に追い続けている。

前編はこちら

Creepy Nuts、Awich、舐達麻、Moment Joon……2020年以降のヒップホップシーンの潮流 有識者3名による座談会(前編)

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