TRICERATOPSの音楽性と人間性へのリスペクト 『TRIBUTE TO TRICERATOPS』を聴いて

 年の瀬に、とんでもないトリビュート盤が届いた。『TRIBUTE TO TRICERATOPS』――そう、1997年のデビュー以来、不動の3ピースで突き進んできたTRICERATOPSが、満を持してトリビュート盤をリリースしたのだ。2018年からはそれぞれソロ活動を行っていたが、2020年秋にバンド活動を再開。そのタイミングで今作は、改めてTRICERATOPSとはどんなバンドなのか? ということを、旧知の仲間たちが知らしめた一枚と言えるだろう。

 そもそもTRICERATOPSは、デビュー当初こそ、和田唱(Vo/Gt)の人懐っこいキャラクターや、ポップなメロディと歌詞の世界観から、キュートなバンドというイメージが強かったのだが(いや、結成23年を数える今もキュートだとは思うが)、徐々にルーツに根差した音楽性や卓越した演奏の技術が知られるようになっていき、ミュージシャンズ・ミュージシャンとしてリスペクトを受けるようになっていったバンドだ。その歩みや存在感は、今作の参加ミュージシャンのラインナップにも表れている。「コピーをしていた」とコメントを寄せたスキマスイッチ、Base Ball Bear、UNISON SQUARE GARDEN。デビューが同時期であるGRAPEVINE、山崎まさよし。そして先輩である奥田民生や、大先輩である仲井戸“CHABO”麗市まで。さらにかつて桜井和寿と共に結成したバンド、Quattro Formaggiは、今作のために再結成! これだけ各世代の錚々たるバンド、ミュージシャンを集結させることができるバンド、TRICERATOPS以外にいるだろうか。いかにTRICERATOPSの音楽性と人間性が愛されているかが、ものすごい説得力を持って伝わってくる。

 ひとつ共通点を挙げるならば、強力なリフを響かせることができるギターバンド、ギタリストが多く参加していること。それもそのはず、和田唱自身が強力なリフを武器としたギタリストだから。でも、今作を聴くと、奥田民生節にしか聴こえなくなる魔法がかかった「ロケットに乗って」、イントロからLOVE PSYCHEDELICOとわかるギターが響く「New Lover」、ギターと歌だけでロックンロールの極み! と言いたくなるCHABOの「New World」など、楽曲をなぞるというよりは、自分たちのモノにしているカバーが多い。なんだか、ロックンロールのスタンダードナンバーをカバーしているようなのだ。つまり、これはTRICERATOPSが普遍的なロックンロールを鳴らしている証なのではないだろうか。

 もちろん、リフだけではなく、メロディもTRICERATOPSの魅力。なかでもGRAPEVINEによる「2020」は、楽曲のメロディに田中和将(Vo/Gt)の優しい歌声――それこそ彼がTRICERATOPSと知り合ったデビュー当時から持つ――が引き出されたようで、物語性を感じた。山崎まさよしによる「シラフの月」も、メロディのしみじみ感が増幅。そしてスキマスイッチの「if」は、のびやかなメロディから、スタイルこそ違えど、彼らがTRICERATOPSの影響下にあることが伝わってきた。

 影響下というところで言うと、UNISON SQUARE GARDENの「赤いゴーカート」は、彼らのギュッと詰め込んだようなスピード感のあるロックンロールの原点のひとつはここにあったのか! と解き明かせるようなしっくり感があった。そして、和田唱との歌声の近しさを感じたのはBase Ball Bearの小出祐介(Vo/Gt)。発明のようなデビュー曲「Raspberry」をどうカバーするのか? 興味津々だったのだが、その相性の良さに圧倒された。

 一方で予想を心地よく裏切られたのは、OKAMOTO'Sの「Guatemala」。ルーツを体得したロックンロールバンドの後輩として、ストレートなギターロックを鳴らすのかと思いきや、サイケな楽曲の浮遊感を抽出した仕上がりに。「音楽好きだね君たちって思ってもらって、またかわいがってもらえるかな」とコメントしていたけれど、それこそTRICERATOPSの楽曲も“音楽好き”に響くものだったから、彼らはそのセンスを継承しているのだと思う。

 さらに、ぶっ飛んだのはKAN。エッジィな「トランスフォーマー」を、懐かしいキュートなテクノに変貌させたのだ! 彼自身からも、TRICERATOPSからも、離れた場所に着地させる発想に脱帽した。かつてTRICERATOPSの演奏を見た時に「めちゃくちゃカッコいい!」と思ったとコメントしていた彼。だからこそ気合いが入ったのだろうし、ジャンルや世代が違うミュージシャンにもTRICERATOPSが刺激を与えたことが表れていると思う。

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