AC/DC、Bring Me The Horizon、System Of A Down、Iron Maiden……バラエティ豊かなHR/HM~EMの注目作8選
今回の新譜キュレーションでは今年10月下旬から11月末にかけてリリースされた、ハードロック/ヘヴィメタルおよびエクストリームメタル周辺の注目作品8タイトルを紹介していきます。活動休止が噂された大物バンドの6年ぶりカムバック作から、BABYMETALらをゲストに迎えたモダンメタルの象徴的バンドによる新作、長きにわたり新作が待たれていた伝説的バンドの15年ぶりとなる新曲、シューゲイザーやポストメタルを通過したUSバンドの意欲作など、バラエティに富んだタイトルが目白押しです。
AC/DC『Power Up』
オーストラリアが誇る至高のハードロックバンド・AC/DCによる、6年ぶりのニューアルバム。前作『Rock Or Bust』(2014年)以降、オリジナルメンバーのマルコム・ヤング(Gt)の急逝やブライアン・ジョンソン(Vo)の聴力障害によるツアー離脱、フィル・ラッド(Dr)の殺人計画に関与したことによる逮捕、クリフ・ウィリアムズ(Ba)の引退騒ぎなどネガティブな話題に事欠きませんでしたが、前作と同じメンツによる秘密裏のレコーディングを経て、問答無用の傑作を完成させました。アンガス・ヤング(Gt)とマルコムにより進められていた楽曲の断片をもとに完成させた、どこからどう聴いてもAC/DC以外の何者でもないロックンロールは、悪く言えばいつも通りなのですが、逆にこのクオリティを今も保ち続けている事実に驚かされるはず。ロック低迷と騒がれるアメリカでも堂々のチャート1位を獲得したのも納得の、2020年を代表するハードロックアルバムです。
Bring Me The Horizon『Post Human: Survival Horror』
そんなオールドスクールのAC/DCがチャートを席巻する一方で、2020年代のモダンメタルシーンのトップランナーといえるBring Me The Horizonは、全9曲からなる最新EP『Post Human: Survival Horror』を届けてくれました。昨年1月発売の『amo』を最後にフルアルバムを制作することをやめ、EPを定期的に作ることを発してきた彼らですが、その『Post Human』シリーズ第1弾となる今作では、EDMやトラップなどを通過したメタルコアをベースに“現在進行形のモダンメタル”を提示。曲ごとにBABYMETALやYUNGBLUD、Nova Twins、エイミー・リー(Evanescence)をフィーチャーすることで、多彩さに満ちた世界観を楽しむことができます。中でもBABYMETALとのコラボ曲「Kingslayer」は2組の魅力がベストな形で凝縮された、“今”ならではの1曲ではないでしょうか。
System Of A Down『Protect The Land / Genocidal Humanoidz』
5thアルバム『Hypnotize』(2005年)を最後に活動休止〜再開を繰り返し、以降新曲発表がパタリと止まっていたSystem Of A Down。新作制作に関して否定的な発言をすることも多かった彼らが2020年11月6日、新曲2曲を無告知で配信リリースしました。エモーショナルに響くミディアムナンバー「Protect The Land」と2分半の攻撃的なアップチューン「Genocidal Humanoidz」は、今年アルツァフ共和国とアルメニアで勃発した戦争をテーマにしており、これらの楽曲から発生した収益はアメリカを拠点とする慈善団体のアルメニア基金に寄付されるとのこと。彼らのルーツを考えればこのアクションは納得いくものですが、逆にこういった大きな問題が発生しなければ新曲を聴くこともできなかったわけなので、なんとも複雑な心境です。なんにせよ、今も彼らの闘争心はまったく衰えていないことが存分に伝わる、最高の2曲と言えるでしょう。
Mr. Bungle『The Raging Wrath of The Easter Bunny Demo』
Faith No MoreやDead Crossなど複数のプロジェクトで活動するマイク・パットン(Vo)が、Mr. Bungleを約19年ぶりに再始動。サポートメンバーに元Slayer、現Suicidal Tendenciesのデイヴ・ロンバード(Dr)とAnthraxのスコット・イアン(Gt)を迎え、実に21年ぶりのニューアルバムを完成させました。が、このアルバムは純粋な新作というわけでもなく、中身は1986年に制作したデモテープをプロフェッショナルなアルバムとして再レコーディングしたもの。クロスオーバースラッシュメタル的なテイストが強い原曲を元祖“スラッシュ四天王”の重鎮たちに演奏させ、かつマイク・パットンらしい複雑怪奇な展開を交えることで、オリジナリティが確立されている。そんな一筋縄ではいかない本作は、結果として非常に現代的な作風と言えるのではないでしょうか。ジャンルの枠を超えた、文字通り“クロスオーバー”と呼ぶにふさわしい怪作です。