ロッキング・オン 海津亮氏に聞く、コロナ禍における新たなフェス/ライブ文化
「ある意味ではライブに依存する形になっていた」
ーー2010年代を通して日本の音楽産業は「音源ビジネスからライブビジネスへ」という変化が一気に進展していたわけですが、そういったシフトが起こっていたからこそ、音楽業界はコロナ禍が引き起こす悪影響をダイレクトに受ける形になりました。これは結果論でしかないのですが、ここ数年の業界の動きを海津さん個人の視点で振り返ったときに、たとえば「産業として一極集中してしまっていた」というようなことを感じたりはしますか?
海津:ある意味ではライブに依存する形になっていたのかなと思います。人気アーティストがドラマタイアップなどの力を借りてCDを200万枚、300万枚と売る時代から、デジタルで音楽が届けられる時代に変わっていく中で、音源のビジネスに関してはニーズが高まっても収益化ができないという過渡期的な状況に突入していった流れがありました。そんな中で業界としてライブにシフトするようになっていったと。ただ、ライブはライブで多くのコストがかかりますし、決して簡単に利益を生む構造ではないわけです。そういうリクープラインの高い事業を成立させるために、「ライブそのものでは大きな利益は出ない、だけどマーチャンダイジングで収益を上乗せする」という仕組みが定着していきました。グッズを売ることで支えられているビジネスモデルが音楽産業として本当に正しいのかどうか、ということを考えてしまう場面もあったのですが、自分も含めて現場としてはまずはこのサイクルをちゃんと回していこうという気持ちの方が強かったと思います。しかし今のような状況に直面すると、そういったビジネスのあり方は脆弱であるということが露呈したと感じます。
ーー業界全体の「ライブシフト」が進む中で、雑誌から始まったロッキング・オン社も先ほども名前の挙がった『ROCK IN JAPAN』『COUNTDOWN JAPAN』『JAPAN JAM』など数々のフェスを立ち上げ、日本の音楽シーンにフェスという一つの文化を定着させてきました。その流れの中には、どんな背景があったのでしょうか。
海津:端的に言ってしまえば、そこにニーズがあったからです。企業としてニーズに正しく応えるのが基本だと思いますし、フェスの日数を増やす、会場を拡大する、夏冬だけではなく、ゴールデンウィークにも開催する……といったそれぞれのアクションが、ニーズに対応した結果になっているという認識です。
ーーもともと雑誌を通して行ってきた「批評」という行為、「今のシーンはこうなっている」という見取り図の作り方に何らか影響を及ぼしたと感じる部分はありますか?
海津:フェスをやり始めたから何かが変わった、ということはないと思っています。もちろん雑誌とフェスだとアウトプットは違いますが、ベースは一緒のような気がしていて。「フェスはメディアだ」ということを我々はよく言うんですが、雑誌を作るにしてもフェスを作るにしても重要なのは「編集」だと考えています。もっと言えば、雑誌を編集する作業と例えばタイムテーブルを組み立てるなどのフェスを作り上げるプロセスはすごく似ているのかなと。
ーーなるほど。ヘッドライナーのアーティストが雑誌の表紙を飾るアーティスト、というような。
海津:たとえばそういう比較もありますよね。フェスを作る際にもアーティストの音楽性に対する理解は当然必要ですし、ラインナップやステージ割りを通じて批評的な視点を提示する意識も持っています。だから、ロッキング・オンがずっとやってきた批評行為の延長線上にフェスがあるというか、何か新しいことをやっているというよりは全てがひとつにつながっているという考え方でフェスと向き合っています。
■ライブ情報
『JAPAN ONLINE FESTIVAL』
2021年春 第2回開催
初回のライブダイジェスト公開中
公開期間は11月27日(金)17:00〜12月1日(火)23:59まで