ダンスを広く届ける『D.LEAGUE』の挑戦 “ダンサーの権利”にも寄り添った新しい仕組みを聞く
2020年8月、プロダンスリーグ『D.LEAGUE』が発足した。プロチームがリーグでストリートダンスを競い合う『D.LEAGUE』は、ダンサーだけでなく視聴者もスポーツと同様にパフォーマンスを楽しむことができる、新しいプロジェクトだ。“世界中すべての人に、「ダンスがある人生」をもたらす”をモットーに掲げ、様々な企業がチームオーナーとして参画しており、EXILE HIROもチーフクリエイティブアドバイザーとして参加している。2021年1月10日から始まる全12ラウンドのレギュラーシーズンは、総勢9チームが1年間かけて戦い抜く予定である。各チームがオリジナル曲を使用し、ダンサーが楽曲プロデュースまで担うことができるのも大きな魅力だ。今回は、そんな『D.LEAGUE』の理念、仕組み、立ち上げに至るまでの思いなどを聞くべく、株式会社Dリーグ 代表取締役COOのカリスマカンタロー氏、株式会社LDH music&publishingのCorporate Officer・大山健氏にインタビューを行った。(編集部)
従来のスポーツファンにも楽しんでもらえる大会に
ーーカンタローさんはこれまで世界最大級のダンスバトルイベント『DANCE ALIVE HERO’S』の開催などを通じて、ダンスカルチャーの普及に尽力されてきました。『D.LEAGUE』もまた、これまでの活動の延長にあるものでしょうか。
カリスマカンタロー(以下、カンタロー):僕はダンスカルチャーをもっと面白く、メジャーなものにしていきたいとの想いをEXILE HIROさんと共有してLDH JAPANに入りました。『DANCE ALIVE HERO’S』は、まさにダンスバトルの面白さをより幅広い方々に届けたいと考えて開催したものですが、とても楽しかったという声をたくさんいただく一方で、はじめてダンスバトルを観た人から「もっとわかりやすい見せ方ができないか」という意見もいただきました。そこで構想したのがダンスをリーグ化する『D.LEAGUE』です。ダンサーが企業とプロ契約をして勝負する形なら、従来のスポーツファンにも納得して楽しんでもらえると考えたんです。
ーー『D.LEAGUE』の9つのチームは、各企業がスポンサーになっているんですね。
カンタロー:株式会社D.LEAGUEが運営するダンスのプロリーグに対して、企業が加盟金を払って参画するという形になっています。各チームは所属メンバーであるDリーガーと契約して、年俸を払っていく。プロのサッカーや野球と同じですね。
ーーエイベックス株式会社、株式会社コーセー、株式会社サイバーエージェント、セガサミーホールディングス株式会社、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社フルキャストホールディングス、株式会社ベネフィット・ワン、株式会社 USEN-NEXT HOLDINGS、そして株式会社KADOKAWAと、錚々たる企業が参画しています。
カンタロー:代表取締役CEOの平野岳史と相談して、各社にお声がけさせていただきました。平野さんとは『DANCE ALIVE HERO’S』を鑑賞しにきた際に『D.LEAGUE』の構想を話したところ、意気投合して一緒にやることになりました。HIROさんに紹介してもらったんですけど、「踊る経営者」として知られていて、なんでも50歳になってからダンスを始めたとか。
ーー『D.LEAGUE』は競技としての側面が大きいと思います。審査などはどのように行うのですか。
カンタロー:各チームが2021年1月10日から始まる、全12ラウンドのレギュラーシーズンを戦います。計12ラウンドの各チームのパフォーマンスはD.LEAGUE競技規則に従い採点し、上位4チームを選出します。その際、オフィシャルアプリの「オーディエンスJUDGE」を用いて、一般の方々からの評価も反映させます。レギュラーシーズン後、上位4チームによりチャンピオンシップを行い、6月末に初代シーズンチャンピオンを決定する予定です。その一連の流れの中では当然、様々なストーリーが生まれてくるでしょう。また、ダンスは必ずしも技術的に上手いから勝つわけではなく、人気のあるダンサーはそれだけで評価されたりもします。そこが他のプロ競技と違うポイントで、技術面と文化面のバランスを取る必要があるところだと思います。一般の方々からの評価は、よりダンサー個人の人気を反映したものになりそうです。
ーーチーム同士でダンサーをトレードする可能性は?
カンタロー:あると思います。1年間の戦いが終わった後、すごく人気が出たダンサーがいれば、他のチームからの引き抜きがあるかもしれないし、そうなれば移籍金が発生したりもするでしょう。全国のダンススタジオからドラフト会議で選抜されるダンサーとかも出てくるかもしれないし、海外のダンサーと契約するチームもいるかもしれない。
また、『D.LEAGUE』には「SPダンサー」というショット契約の枠もあるので、たとえば「第3戦目で1回、このダンサーを使ってみたい」といった戦略を練ることもできます。中には一般的に名を知られたダンサーもいるでしょうし、各チームがどのタイミングでどんなダンサーを起用してくるのか、僕たち運営サイドも想像がつきませんし、そこも大きな見どころになっていくはずです。
マルチな才能を持ったダンサーにとって画期的なシステム
ーー『D.LEAGUE』は音楽ビジネスにおいても新しい取り組みをしています。
大山健(以下、大山):最初、数年前に前職(ユニバーサル・ミュージック・パブリッシング合同会社)の時代に、知り合いであった彼から『D.LEAGUE』の構想を聞いたときから、音楽的な側面における問題点について相談を受けてきました。例えば海外の楽曲を使用する際には、どのように著作権の問題をクリアにしていくかとか。その相談の中で、ダンサーにも著作権の配分を与えるという、新しいスキームのアイデアを聞きました。確かにダンサーの中には作曲や作詞のスキルを持った人もたくさんいるので、そのような機会があれば、他の作家と自分たちで踊るオリジナル楽曲を共同著作することで、著作者としての対価を得られるチャンスがある。また作家のスキルがないダンサーでも、作家の方たちが作ったチームのオリジナルの楽曲のプロモーション活動をある種の会社の一員として行い、大いに貢献した場合は、その楽曲を管理する会社(チーム)から対価(インセンティブ)を得られるチャンスがある。このスキームによって、ダンサーやクリエイターの方々にはこれまで以上に様々な機会が生まれるなと思いました。
カンタロー:僕は音楽業界にそれほど詳しいわけではなかったのですが、逆に自由な発想で考えたときに、なぜシンガーや作曲家には権利が発生しているのに、ダンサーにはそうした権利が生まれてこなかったのだろうという疑問を抱きました。昔は路上で歌っていただけだったのが、いつから産業として成り立っていったのか、歴史を振り返って調べてみたんです。すると、ダンスの振り付けの著作権を管理する団体がまだまだ世界的にも少なくて、ダンサーの権利についてはあまり議論されてこなかったことがわかったんです。著作権に詳しい弁護士に相談したところ、ダンスは踊った直後からその人に著作権が発生すると言われているけれど、それを認めて登録する機関がないし、どこまでがオリジナルと言えるのかの線引きも極めて難しい。そう考えたとき、まずはダンサーがどのように音楽にアプローチしていけば権利を持てるのかという方向性で発想したのが、このシステムです。
大山:僕自身は株式会社D.LEAGUEの直接的なスタッフではなくLDH JAPANのグループ会社で、音楽出版社である株式会社LDH music&publishingの人間で、作家の権利を守る立場ですから、彼のビジョンを聞きながら、作家サイドとしての考え、音楽出版社としての考えなどをアドバイスとして伝えました。またD.LEAGUEには音楽著作権などに詳しいスペシャリストがいますので、その方を中心にどういう形であればこのスキームがみんなの納得を得られる形になるかを模索して、具体的なプランに落とし込んでいったようです。
カンタローさんより一例として、ダンサーが共同著作者となった場合の配分を説明しましたが、あくまでも寄与の度合いによって曲ごとに違います。その寄与が作家としてのものであるのか、プロモーションや開発などに関する貢献なのか、はたまたその両方なのかで、得られるチャンスのある対価の中身は当然変わってきます。
カンタロー:その辺りの適正な配分は、相当な事例事象を踏まえなければいけないことで、詳細に定まってくるのはまだ先になるでしょう。僕は記者会見でダンサーの配分が40%になる可能性もあると言いましたが、それはもしもダンサーが作詞作曲まで行った場合で、実際はその都度、ケースバイケースになると思います。例えばavexのチームの今回発表したチームテーマ曲の制作時に関わったトラックメイカーはダンサーでもあるので、そういうマルチな才能を持ったダンサーにとっては、画期的なシステムになると思います。まずはダンサーが作家になれるチャンスを『D.LEAGUE』で創出していきたいです。
ーー今回は各チーム、レギュラーシーズン全12試合中に3曲、チャンピオンシップ全2試合中に2曲、オリジナル曲を使用するというルールになっています。オリジナル曲は、この枠組みで作られるケースが多そうです。
大山:トラックメイカーの方とディレクターの方が日夜、スタジオに入って制作をされていると聞いていますが、ダンサーの方も自分たちで楽曲をプロデュースするという意識で参加しているようです。ダンサーもクリエイティブチームの一員となっていることを一般の方にも認知してもらいたく、今回は各チームにオリジナル曲を用意してもらうことになったようです。
カンタロー:その当時のダンスの大会に出て、それが後にDVD化されるとき、既存の曲を使っていると差し替えられてしまうんですね。それが嫌だったから、僕はトラックメイカーに依頼して、オリジナルの楽曲を作ってもらったんです。ダンサーには、楽曲に対してそういう高い意識を持った人も多いはずだと思います。また、昨今はYouTubeやTikTokなどSNSでダンスが流行したことでヒットした楽曲もたくさんありますが、その広告収益はダンサーに入ってきません。逆にいうと、ダンサーが発信力を高めていけば、この曲で踊ってほしいという依頼が来ることもあるはずだと思います。日本でも世界的ダンサー、振付師は多くいますが、韓国ではすでに有名振付師の振付には高い価値が認められているとも聞きます。『D.LEAGUE』が国内でのダンサーの地位向上の一歩になり、ダンサーやクリエイターたちが新たなビジネスチャンスを掴むきっかけになったら最高ですね。