吉澤嘉代子は“魔女”時代を終えてどこに向かう? 金子厚武が紐解く、デビュー5年で遂げたSSWとしての明確な変化

吉澤嘉代子は“魔女”時代を終えてどこに向かう? 金子厚武が紐解く、デビュー5年で遂げたSSWとしての明確な変化

 吉澤嘉代子が<日本クラウン>在籍時代の5年間を刻んだコンピレーションアルバム『新・魔女図鑑』をリリースする。吉澤は9月20日に行われた配信ライブ『通信・すなっく嘉代子』で<ビクターエンタテインメント>への移籍を発表し、シングル『サービスエリア』のリリースを告知したが、『新・魔女図鑑』はこのシングルと同日にリリースされ、インディーズ時代に発表したミニアルバム『魔女図鑑』から、最新アルバム『女優姉妹』までのたくさんの楽曲の中から、厳選された全18曲を収録。本稿では、このリリースを機に、吉澤の日本クラウン時代の5年間の軌跡を振り返ってみたい。

吉澤嘉代子「新・魔女図鑑」トレーラー(MV集)

 吉澤は作詞作曲を自ら行い、アコギを弾きながら歌うシンガーソングライターではあるが、もともと「等身大の自分を歌う」というタイプのシンガーソングライターではない。彼女は歌詞の中で物語を綴り、その主人公になり切ることによって表現をする人で、それこそが最大の個性。そして、その背景には吉澤の「変身願望」が大きく関わっている。

 そもそもインディーズデビュー作の「魔女図鑑」というタイトルは、吉澤が学校に行けなかった少女時代、魔女に憧れて、魔女修行を行っていたという経験から来るもの。一時期までの彼女にとって、この「魔女修行時代」は恥ずべき過去だったが、音楽を通じて徐々に自らのアイデンティティを確立し、その時代を認められるようになったことを、『魔女図鑑』という作品が示している。だからこそ、この作品は彼女にとって重要な作品であり、『新・魔女図鑑』に『魔女図鑑』からの全6曲が収録されているのが、その表れだ(「らりるれりん」は新録で、『通信・すなっく嘉代子』にも参加していた君島大空が編曲を担当)。

 6曲の中でも特に吉澤らしい一曲だと感じるのが、「恥ずかしい」という曲。セルフライナーノーツで吉澤自身が「人生のテーマソングの一つです」と記しているこの曲は、認めることのできなかった恥ずかしい過去を認め、自らを許し、ユーモラスな筆致でその記憶を笑い飛ばしさえする一曲。『魔女図鑑』という作品は、吉澤が自らの少女時代を許すための作品であり、自分と同じようにコミュニケーションが得意ではなく、妄想の世界に生きる少女たちに寄り添い、また同じような幼少期を過ごし、その記憶を内側に抱えるすべての人を許して、笑い合おうとする作品だ。このメッセージこそ、彼女の活動の軸である。

 『魔女図鑑』から3曲を再録し、「少女時代」をテーマに作られた1stアルバム『箒星図鑑』も同様の理由で重要な作品。中でも、〈魔女の宅急便に泣いた十三歳の夏にはもどれないことを知る〉と、「魔女修行時代」に別れを告げながら、ストッキングの網目であやとりをして、箒星を作るという詩的な表現によって、少女時代の自分と現在の自分との邂逅を描いた「ストッキング」は、彼女のキャリアの中でも最重要の一曲だと言える。

 デビューしたての女性シンガーソングライターには、まず男性ファンがつくケースが多いが、この頃からライブ会場に若い女性ファンが増えてきたのは、彼女の表現の本質がしっかり伝わり始めたことの表れだったように思う。後に、デビュー前からの憧れだったサンボマスターの山口隆が曲提供した「ものがたりは今日はじまるの」のMVに出演する吉岡里帆や、シングル『月曜日戦争』のジャケットを手掛けるイラストレーターのたなかみさきなど、女性の表現者とシンクロしていくのも自然な流れ。また、吉澤が私立恵比寿中学への楽曲提供をするようになるのもこの頃からで、彼女の作品が備える少女性は、エビ中との相性もぴったり。『サービスエリア』には、2019年に提供した「曇天」のセルフカバーが収録されていて、そちらも素晴らしいのでぜひ聴いていただきたい。

 2ndアルバム『東京絶景』は、〈箒星かかる 最初で最期の魔法/いまなら言える もうわたし大丈夫〉と歌う「movie」をはじめ、ここまでの物語性を引き継ぎつつ、楽曲の登場人物が現在の吉澤自身の年齢に近づいた作品。また、「東京」と銘打ち、タイトル曲にはアコギで曽我部恵一が参加したこのアルバムは、彼女が日本のポップスの系譜に連なる存在であることを示す作品だったように思う。古き良き東京の姿を架空の街に見るはっぴいえんどの『風街ろまん』、その意志を受け継いで、90年代によみがえらせたサニーデイ・サービスの『東京』、そして、2016年の『東京絶景』。〈硝子色の時間封じこめて〉と歌う、松田聖子譲りのキュートなポップス「綺麗」からは、直接的に松本隆の影響が感じられるが、後にクミコ with 風街レビューの作品に参加し、松本隆作詞の「消しゴム」で作曲を担当したのは、象徴的な出来事だったと言える。

 3rdアルバム『屋根裏獣』は、吉澤の妄想が全開になった作品で、気合いを入れ過ぎたあまり、制作は困難を極めたことを後に本人が語っている。そのどこか重苦しいムードがジャケットにも表れていると言えるが、亭主の首を狩り、遠い土地に逃げようとタクシーに乗り込んだ夫人を描き、ライブではサポートメンバーとの寸劇も楽しい「地獄タクシー」や、居場所のない子供たちが家族に毒をもって、楽園を目指す「えらばれし子供たちの密話」など、個性たっぷりの力作が並ぶ。バカリズム原作のドラマ『架空OL日記』の主題歌として、アルバムと同日にリリースされたシングル「月曜日戦争」も、OLのタフな日常を宇宙戦争として描くという一曲で、妄想ぶりが極まった時期と言えそうだ。

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