EP『Complexity & Simplicity of Humanity (and That’s Okay)』インタビュー
Newspeakが語る、コロナ禍で身近な人たちに思いを伝える大切さ 「曲を作ることで何かしたいと思った」
これで終わりじゃない
ーーシングルの4曲には、“喜怒哀楽”という感情がテーマにあったと前情報で聞いたのですが、それについてはどうですか?
Rei:感情的な部分を包み隠さず表現するための指標として“喜怒哀楽”という言葉があっただけで、実際にはあらゆる感情がひしめきあっているので、それぞれの曲を4つのセクションに分けて話そうとすると、説明はできるんですけど、たぶんおかしくなっちゃう気が。
Yohey:例えば2曲目の「Another Clone」は、Reiが「ムカついたから書いた」みたいに言ってきて、僕は僕でムカついていたんでその気持ちをベースに乗せてStevenに渡す、みたいな感じでどんどん“怒”が重なっていったんですよね。今まではそれぞれがやりたいことをドンって出していたけど、この曲は感情の倍々ゲームみたいになっているんで、伝わる強度はめちゃくちゃ高いんじゃないかと。
Rei:「Another Clone」を作っていた時は、緊急事態宣言中でメンバー同士がまったく会えない状況だったんです。一人で考え込むことも多かったし、SNSや報道などで飛び交う情報に苛立ちもあったし、ライブハウスがなくなるのは御免だっていう気持ちもあるし、他のアーティストが動画をアップしたりライブをひとまず配信にシフトしたり、できることを形にしているなかで、自分たちはそこまでの影響力を持った何かができない不甲斐なさもあったし、そんな沸々とした感情の赴くままに「これできた、はい!」って、構想も何もない衝動的な曲で、すぐにできましたね。
Yohey:この曲は、リモートの段階でほぼ完成していて、最後の最後にレコーディングした時も、ほとんど変えなかったよね。
Rei:全員がパンクなトランス状態で音を乗せていたから、リモートだけどすごくバンドっぽい曲になったそのパワーを大切にしました。
ーーここまでギターが前面に出たパワフルな8ビートの“これぞロック”な曲は今までになかったですよね?
Rei:そうですね。シンセというよりギターがゴリゴリで。
Yohey:最初で最後かも。もう今は怒ってないからできない(笑)。
Rei:こういうストレートなロックをもう作ろうとは思わないというか、あの瞬間だからこそ生まれた曲で、そのスタイルに倣っても、これよりいい曲ができる気がしないですね。そういう意味ではかなり自信のある曲です。
ーー3曲目の「Pyramid Shakes」はどうですか?
Yohey:「Pyramid Shakes」は、演奏していてとにかく「めっちゃ楽しいぞこれ!」って、だから、“楽”なのかもしれない。
ーーどういうところが楽しかったのですか?
Yohey:もっとも自然体で何も考えずにただ楽しく演奏している曲なんです。構成がシンプルだからそうなったんだと思います。
Steven:基本的にループだから、雰囲気に乗って進めばいいんですよね。
Rei:このバンドでそういうことはしたことがなかったんですけど、すごく楽しかった。これからこういうミニマルな曲も増えていけばいいなって、思います。
ーーそして歌詞にあるように、〈We keep dancing in circles(僕らは円に踊り続ける)〉、そう考えるとシンプルなパーティソングですね。片やタイトルの"Pyramid”という言葉は崩れ落ちる権力なのか古い価値観なのか、と考えたりも。それがタイトルの『Complexity & Simplicity of Humanity (and That’s Okay)』と繋がりました。
Rei:“Pyramid”の意味は、そういうことなんですけどね。僕としてはさっきの「人間だもの」とか〈会いたくて 震える〉とか、そういう大きいことを言ってるのかもしれないけど身近な感じとか、いろいろあってThe Beatlesの「All You Need Is Love」(愛こそはすべて)じゃないですけど、そういうタームに入ったときに響く音楽であればいいかなって。
ーーそして1曲目にEPのタイトルから取った新曲「Complexity & Simplicity of Humanity」が。まさにその「All You Need Is Love」という言葉にある包容力に近い、これまでにはない豊かなサウンドスケープが印象的でした。胎内回帰的というか。
Rei:ミュージックビデオを手掛けてくれたTakashi Tibaさんも、胎内とか、あとは鹿の親子とか、そんなことを言っていました。僕らとしては音数を減らして楽しく気張らずにやろうって。歌詞も“考え過ぎたけどもういいや”って内容なんで、あまり詰め込みすぎないようにして、余白を楽しんでもらえる音になっていると思います。
Yohey:全体的な話になりますけど、今回は前のアルバム(『No Man's Empire』)の「Stay Young」を手掛けてくれたダニエル・J・シュレットが新曲を含めた4曲、「Wide Bright Eyes」を手掛けてくれたトニー・ホファーがラストの「Blinding Lights」のミックスを手掛けてくれたんです。やっぱりすごかったですね。
ーーNewspeakは自分たちだけで完パケまで仕上げられるのに、なぜ今回は全編に渡ってミックスを外部の人に託したのですか?
Steven:自分たちだけでやっていると、正解がわからなくなるんです。そこで前のアルバムでトニーとダニエルに依頼してみたら、すごくいいものが返ってきたから、今度は全部の曲を手掛けてもらいたい思いました。
Yohey:自分たちだけでやることで、可能性を狭めてしまうのが嫌なんです。それに対してトニーとダニエルは世界的なその道のトップ。彼らの手によって曲がどう化けるのか知りたいし、その結果がフィードバックされることで、またセルフでやろうとしたときに外の世界に出られる。殻にこもっていたくないし、井の中の蛙になりたくもない。僕らにとっては絶対的に必要なプロセスですね。その結果、「Newspeakの音、カッコいいな」って誰かが思う以上に、僕らが「ここまでいけるのか」ってビビってます。だから自信を持って、この先を楽しみにしてほしいと言えますね。
ーー4曲目の「Parachute Flare」は、強いて言うなら“哀”ですか?
Rei:これは、哀しみと優しさと……
ーー相田みつをさん、西野カナさんときて、次は篠原涼子さん、意識してません?
Rei:「恋しさと せつなさと 心強さと」ですか? あ、でもほんとうにそんな感じです。
ーーNewspeakは、そういうベタなことも風呂敷を広げて言えるというか、オルタナティブな視点からのスノッブさがないから、聴いていて気持ちいいんですよね。
Rei:一人でいるときに、「何をさらけ出してんだ」って、恥ずかしくてたまらない気持ちになることはありますけどね。
ーーラストの「Blinding Lights」は、すごく突き抜けたポップな曲で、もういろいろ難しく考えすぎていることがわかったのでシンプルに、好きです。
Steven:ミー・トゥー。めっちゃポップだし言ってることもキャッチー。だけど普通にポップじゃないところも強くて、その色が好き。ドラムも思いっきり叩けるしね。
Yohey:あんまり思いっきり叩くからスタジオで「うるさい」って何回も言いました。そしたら「ドラムってこういうもんだろ」って、半分ケンカですよ(笑)。
Steven:みんなで集まって演奏するの、久しぶりだったしテンションが上がっちゃって(笑)。
Yohey:Stevenにはバレないように、ドラムのシンバルにこっそり肘を当てて音が鳴らないようにしていましたから(笑)。
ーーStevenの言った“普通にポップじゃないところ”、がいいんですよね。多幸感のある曲なんですけど、途中で東洋魔術的なサイケデリアを感じるフレーズがあったり、最後は少しディストピアが浮かぶ終わり方だったり。そこにある余韻に、今回の物語はEPでは完結しないのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか。
Rei:作曲やレコーディングについて、すごく感情的だったと言いましたけど、「Blinding Lights」を最後の曲に選んだこととこの曲の歌詞だけは、ある意味作為的でもあります。問いかけで終わっていますし、まさに、これで終わりじゃないんです。
ーー先のことを、言える範囲で教えてもらえますか?
Rei:“コロナ禍にできること”と打ち出して4連続でシングルを出してから、そこに1曲足したEPを出ましたが、実はピンポイントでこの5曲を作ったわけではなく、今後も含めて発表する予定の候補曲がいくつかあったんです。そこで、今回は最後の曲をどれにするか、めちゃくちゃ迷ったんですけど、「Blinding Lights」がもっとも次を示唆する雰囲気を持っていたので、そこにあらめて歌詞を書きました。なので、そう遠くないうちに続編はあります。
Yohey:作為があると言ってしまっても、十分に楽しんでもらえるEPですし、先に出す予定の曲も、続編があると言ってもハードルを超えられる自信があるんで、よろしくお願いします。
■リリース情報
『Complexity & Simplicity of Humanity (and That’s Okay)』
2020年9月25日配信(金)
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