キンモクセイが幅広い年代から愛される理由 3日間に渡る無観客ワンマンライブから感じたこと

キンモクセイ無観客ワンマンレポ

 そして、キンモクセイらしい試みと言えば、この日と翌日の3日目にも行われた「突撃テレフォンコーナー」。電話番号を記入したチケット購入者にその場で抽選を行い、配信中のメンバーが突然電話をかける。ステージからテレフォンブースへの移動時には、ギター後藤がおしゃれなアレンジを施した、「Ciaoちゅ~る」CMソングが流れ、ダンスしながら移動する。過去のツアーでも、アンコール時に巨大ルーレットで楽曲を決めたり、“おしゃれ告知”と題して、ただただおしゃれな演奏に乗って告知をすることがあった。いつでも遊び心を忘れない、「これぞキンモクセイ!」といった試みだった。2日間合わせて、総勢14人に電話が繋げられ、そこでは「20代のキンモクセイと、40代のキンモクセイどちらが好き?」という質問が投げかけられた。「多感な時期に知ったことで自分のルーツになっている」と正直に“20代”と答えた人や、「人生経験を経た後、さらに楽しそうにしている40代のメンバーが好きだ」と現在を支持する人まで、ファンの素直な気持ちを共有することができた。そして、「いつ頃キンモクセイに出逢ったのか?」という質問には、「二人のアカボシ」リリース時にパワープレイされていたラジオやCD売り場で知ったという20年来のファンから、昨年リリースされた『ジャパニーズポップス』で知った人や、知った時にはすでに活動休止していたという20代の若者まで、現在も幅広い層に愛されているバンドの魅力が裏付けられた。

 そして3日目には、『キンモクセイとお話しよう! 突撃テレフォン配信ライブ~健康第一40代~』と題し、昨年リリースされたアルバム『ジャパニーズポップス』を中心とした生配信ライブが行われた。1曲目は先のインタビューで伊藤が「活動休止という時間がなければ絶対にできなかった曲で、今、一番気持ちが入れられる曲」と語った「セレモニー」。「“ポップス”って誰のものでもあるけど、この曲はキンモクセイにしか演奏できないし、自分にしか本当の意味では歌えない曲なんじゃないかな」とも語ったように、休止後の10年間で様々な経験をし、それを受け入れた彼らにだからこそ表現できる、新たな決意表明のようなものを感じさせた。2日目のアンコール時にも演奏されたデビュー曲「僕の行方」では〈引き返したい気も知らないで〉と歌っていた彼らだったが、本楽曲では〈傷ついても/失っても/その全てを受け止めて/日々は続いて行く〉と歌う。「歳を重ねてよかったことは?」という質問に、白井が「過去が平均化されて、おおむね楽しい思い出が増えた」、佐々木が「許容できることがかなり増えた」とも語ったように、この楽曲は現在のキンモクセイでしかありえない、そして、活動再開に至った重要な楽曲だ。

 その後は『ジャパニーズポップス』の曲順通り、チャイナ風エキゾティックな楽曲「TOKYO MAGIC JAPANESE MUSIC」、サーフミュージックとアイドル歌謡が混じったような「渚のラプソディ」、キンモクセイ的シティポップ「都市と光の相対性」、シンセドラムを取り入れ、高橋幸宏のボーカルを彷彿とさせるニューウェーブ楽曲「ベター・レター」、80年代歌謡を思わせる「あなた、フツウね」、イントロのサックスはじめ、何から何までチェッカーズ風の「ない!」、氷室京介的なジャケットプレイとステップで80年代を体現する「エイト・エイティ」、フィル・スペクターサウンドを取り入れたオールディーズ曲「ダージリン」など、アルバム丸々1枚分が披露された。このアルバムは伊藤が「80年代中期~90年代初期にかけてのバブリーなサウンドや『ザ・ベストテン』のような空気感をあえてやろうとするバンドってなかなかいないと思う」と語ったように、単曲聴きすると、オマージュや遊び心が強く、「なんだ、このバンドは!?」と驚くほどなのだが、この幅広い要素を全てメンバーだけの作詞・作曲・演奏で、アルバム1枚でできてしまうのがキンモクセイならではだと感じる。高い演奏技術と、伊藤の安定した艶のあるボーカル、これがあれば“キンモクセイ”として成立してしまう底力。何より、メンバーがやりたいことをやって、本当に楽しんでいる様子が伝わってくる。

 デビューから活動休止までの8年間、20代の間にはどこか“懐かしい”サウンドと評されることの多かったキンモクセイだが、その懐かしさが彼らの年齢にようやく追いついたような気がする。多くの経験を経て、乗り越え、受容し、説得力を持って、また私たちの元に帰ってきてくれたバンド・キンモクセイ。彼らにも様々なことがあったように、リスナーの私たちにもまた様々なことがあって、それを皆が抱きしめられるような年月が過ぎた。バンドが休止していた間も皆がそれぞれに生活し、音を奏でるように人生を歩んでいたように、彼らの演奏は決して止まることなく、ずっと奏でられていたのかもしれない。そんなことを感じさせる3日間だった。

■こたにな々
神戸出身・東京在住のフリーライター。音楽やアート、YouTuberのライブレポートやインタビューを執筆。詩人としても活動中。

■セットリスト
キンモクセイ『ちゃんとした配信2020』
2020年8月27日(木)
『ルーフトップコンサート&インタビュー』
1.二人のアカボシ
2.セレモニー
3.都市と光の相対性
4.車線変更25時
5.同じ空の下で
6.今夜
7.さらば

2020年9月5日(土)
『キンモクセイとお話しよう! 突撃テレフォン配信ライブ~元気爆発20代~』
1.二人のアカボシ
2.車線変更25時
3.七色の風
4.ナイスビート
5.同じ空の下で
6.メロディ
7.夢で逢えたら
8.Young Sunday
9.僕の夏
10.悲しい楽しい日々
アンコール
1.僕の行方
2.さらば

2020年9月6日(日)
『キンモクセイとお話しよう! 突撃テレフォン配信ライブ~健康第一40代~』
1.セレモニー
2.TOKYO MAGIC JAPANESE MUSIC
3.渚のラプソディ
4.都市と光の相対性
5.ベター・レター
6.あなた、フツウね
7.ない!
8.エイト・エイティ
9.ダージリン
10.グッバイ・マイ・ライフ
11.今夜
アンコール
1.真っ白
2.黄昏電車
3.真っ赤な林檎にお願い

キンモクセイ公式サイト

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