back numberのMVは、なぜ驚異の再生回数を記録? 思い出を追体験できる映像の魅力

 台湾で撮影を敢行した「高嶺の花子さん」も同様に、視聴者目線でカメラは動く。疾走感のあるメロディに合わせて台湾の混沌とした町並みを走り回る女性は、まさに“高嶺の花”。 〈会いたいんだ 今すぐその角から/飛び出してきてくれないか〉という特徴的なサビでは、実際に女性が街角から姿を現し、楽曲の世界観を忠実に表現している。同曲を手がけた島田大介は、映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の主題歌に起用された「ハッピーエンド」のMV監督も務めた。「ハッピーエンド」のMVは、楽曲の主人公目線で描かれた「わたがし」「高嶺の花子さん」の映像とは異なり、主人公そのものが映し出されている。恋人の心変わりに気づき、自らも別れを受け入れ相手への思いを断ち切ろうとする女性の切ない気持ちを歌った同曲。女性目線の楽曲だからこそ、過去の作品の流れから男性が登場するものだと思ってしまうが、MVに出演しているのは女優の唐田えりかだ。主人公の視点から 描くところを、あえて気持ちが変化してゆく恋人の目線から主人公を映すことで、唐田演じる女性の溢れる感情が伝わってくる。ひたすらカメラに笑顔 を向ける彼女は幸せだった過去の姿なのか、それとも私をずっと覚えていてと願うが故に見せる偽りの姿なのか。映像を見ながら主人公の気持ちを想像させる演出も見事だ。

back number - ハッピーエンド (full)

 そして、前述の通り再生回数1億回を記録する「クリスマスソング」に至っては、時折女性のシルエットが映るだけ。主人公不在のまま、寒空の下で演奏するback numberの姿が撮影されている。それもそのはず、「クリスマスソング」は恋人たちが寄り添い合うクリスマスに、一人きりで大切な誰かを想う楽曲だからだ。想いを寄せる相手がクリスマスに誰と、何をして  過ごしているのかもわからない。主人公も相手も映らず、ただ人恋しさが身に沁みるクリスマスの雰囲気が漂う映像だからこそ、聴く人の心にそっと寄り添ってくれる。

 back numberのMVはどの作品もドラマチックで、楽曲との親和性がある。浴衣を着て好きな人と花火大会に行った日の出来事、到底想いが叶わない相手に恋した日々、誰かと出会い、別れた日のこと、苦しいほど誰かを愛おしく思ったクリスマス――彼らの曲と共にMVを見ると、“back number(型遅れ)”になった数々の思い出を追体験できる。“曲を聴く”目的だけではなく、幅広い年齢層のファンが青春時代の思い出を反芻しているからこそ、back numberのMVは圧倒的再生回数を誇っているのではないだろうか。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter:@bonoborico

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